お互いにドラマも撮り切り
映画の番宣も落ち着いて
やっとゆっくり出来てる束の間のオフ。

後でゆっくり抱いてあげなきゃ…
なんて考えながらしょーちゃんを眺めて呑んでたら



「なぁ、雅紀」

「んー?」

「俺、キスするとき、目ぇ開けてる?」

「はぁ?なに言ってんの急に」

「いや、潤がさ『しょおくんってキスする時目を開けてるんだね』って言うから、ぜんぜん自覚なくて…」



……一体、この人、何言ってんの?


潤くんにそんなこと言われてる…

つまり、キスしたってこと?



「しょーちゃん、アナタ、いま何言ったかわかってる?」

「へ?いや、だから、潤が、俺はキスする時に…アッ」


と、ここまで来てやっとお気づきのようで。


「…しょーちゃんが、キス、する時?」

「あ、いや、俺は、俺からは、してない!俺じゃない、違う、雅紀聞いてくれ」

「…何を慌ててんの。聞いてるよ、オレは、さっきから、わりと冷静に。」

「あ、えっと、ごめん、俺ダメだ、ごめん潤とキスした」

「うん」

「あのほら、えっと、…そう、仕事、仕事でだな!」

「うん」

「ホラあるだろ!?いろいろ…」

「うん」


このひとは賢いくせに
たまにどうしようもなくダメな時がある。
それは可愛いところでもあるし
憎たらしい時もある。
いまは、後者。


オレらがメンバーとキスする羽目になるような仕事が今更あるわけない。なんかのミステイクか事故的な事だろうから、そこまで怒るワケでもないんだけど、しょーちゃんがいつになく慌ててるのが面白くなくて。


「ねぇ、その仕事、いつのなに?雑誌?バラエティ??」

「…えっ」

「だって、キス、『仕事で』したんでしょ?」

「あ、あぁ…」

「あーあ、オレのしょーちゃんのキス顔、じゅんちゃんに見られちゃったのかぁ」

「え、キス顔!?あ、いやなんて言うかその」

「じゅんちゃんはまだしも、ほかの人に見られちゃうのヤダなぁ」

「いや、それはアレだ、その」



普通に『ごめん酔ってた』とか『ちょっとノリを断れなくて』とか、理由はそんなところだろう。オレらはいくらでもそういうことはあるし、そのまんま言ってくれたらいいのに。

あんまり慌ててるから
逆になんかあったかと思っちゃうじゃん。



ちょっと気に入らなくなってきた。

意地悪言ってやる。



「じゅんちゃんと見つめあってしたキスは気持ちかった?」


「……ッ」


……あれ?

なにその反応。



「きもちかった……ん、だ?」

「ぁ、ぃゃ、その…」



一瞬で毛が逆立つ感覚。

腹の底で何かがゾワっとうごめいた。



このひとが
オレ以外で感じてるってことに。

オレじゃないヤツとしたキスを思い出してる。

嫌悪感でもない。
怒りとも悲しみともちがう
言いようのない感情。
鳩尾が苦しい。
目の奥が痛い。
息が吸えない。


「…雅紀?」


そんなに不安げな声でオレを呼ぶなら
なんで潤とキスなんかするんだよ。
なんでそれをオレに言うんだよ。


オレたぶん、いま、めちゃくちゃ嫌な顔してる。


これ


……嫉妬だ。


そして、自覚した激しい独占欲。





「ねぇ、しょーちゃん。なんで、キスしたの。」

「…えっと、」

「仕事は言い訳にはさせないよ。ホントのこと言えよ。」


黒い自分が抑えられない。
しょーちゃんが悪いんだよ。


「酔ってた…」

「で?酔っても悪ふざけでキスするようなこと、アナタはないよね」

「ん……悪ふざけ、では、ない。」

「じゃあ、自分の意志?潤とキスしたかったの?」

「ちがう!それは、違う、絶対」

「じゃ、なにがあったの」


詰問するようなこと本当はしたくないのに
嫉妬に支配されて醜いオレが晒されていく

こんなことしてしょーちゃんに愛想を尽かされる怖さが無いわけじゃない。それでも止められないのは、オレがこのオトコを誰にも渡したくないワガママと独占欲以外のなにものでもない。

こんな感情知りたくなかったよ…。



「しょーちゃん、言えないの」

「……」

「…言わないなら、もう聞かない。…これが最後。」



最後、なんて、オレが言うべきじゃないんだ。
絶対に後悔するんだから。
溺れてるのは間違いなくオレの方。
この自分の魅力に無自覚な可愛い人は誰にでも愛される。
オレから手放したらダメなんだ。


わかってる。
わかってるのに。



「なぁ…なんで、潤と、キスしたの」

「……まちがえて…」

「…は?」

「雅紀と、間違えて…だよ」

「…イミわかんね。どういうことだよ」

「飲んで盛り上がって、かなり酔ってた自覚はあった。でも意識はあった…つもりだったんだ。だけど、潤が…」

「潤が?」

「アイツ、俺の事『しょーちゃん』って、呼んで、『うち帰ろう』なんて言うから…」

「そんなことで、オレだとおもったってこと?」

「だってめちゃくちゃ酔ってて、俺をそんな呼び方して家帰ろうって言われて…あの時、雅紀は忙しくてぜんぜん会えなくて、会いたくてたまんなかったときだったから…だから、雅紀だと思って、迎えにきてくれたのかと思って嬉しくて」



ホラやってくれたよ、無自覚。

この賢い人が言う
そんな馬鹿みたいな理由が
きっとホントのことで。

オレの嫉妬をいとも簡単に溶かしていく。


「…で、潤のキスはどうだったの」


「わかんねーよ、雅紀だと思って受け入れたらなんか違うから目ェ開けて見たけど近すぎてすぐに潤だってわかんなかった」

その時に問題のセリフを言われた、とのこと。


……わかった。
アイツめ。
潤には今度お仕置。



しょーちゃんを力任せに抱き寄せてると
少しの抵抗をしたものの
この扱いを受け入れるようにカラダの力を抜いた。


「もう、間違えんな」

「ん、ごめ…ッ!」


謝ってチャラになんかさせやしないよ。
アナタが誰のものかわからせなきゃ。

口内を犯すように舌でぐちゃぐちゃに掻き回す。

「っはぁ、ま、さき…っ」

歯列をなぞって唾液を送ると
素直に舌に吸い付いてくる



「ん…っはァ、んっ、」


かわいいしょーちゃん

喘ぎながら

オレの舌を
唇を
甘く食むように

そのあいだずっとオレを見てる…

「今…誰とキス、してんの」

「…ま、さき、」


唇を解放して


「オレの味、思い出した?」

しょーちゃんは俺の首に腕を回して
首筋で深く息を吸いながら頷いた。




「雅紀の味も匂いも…やっと戻って来た…ずっとまってたんだ。…忘れるわけねーだろ」



ぎゅっと抱きしめ返して
今度はオレがしょーちゃんを味わう番。


見つめあったまま何度も何度もキスをして
久しぶりお互いの温もりを感じあった。



おわり