潤くんの前で情けなくも号泣したあの日から数日。
なんにも話さないでスルーはできないだろうなぁって
なんとなく思ってた頃連絡をくれた。
「あ、潤くん...来てくれるんだ」
昼過ぎ、寝起きでぼんやりとコーヒーをいれて
LINEに返信する。
『連絡ありがと。何時くらいに来られそう?』
『雅紀さんの仕事の前に会える?』
『何それ、同伴?(笑)』
『ま、そーなりますかね。エスコートさせて?』
『了解!どこで待ち合わせする?』
同伴なんて制度はうちの店にはないけど
遊んでたついでにそのまま店で飲むってのは
よくあるパターン。
潤くんに会うならちょっとカッコよくしてかなきゃ
なんて、気合いが入っちゃうのは、
あの夜に手を握られたから......かもしれない。
待ち合わせはあの歩道橋。
涙のMJとしょーちゃんの手は
健全な太陽よりも、黄昏時によく映える。
ぼんやり眺めながら
ダウンロードしたあの曲を聞く。
『regret』
......後悔、か。
何に後悔してる...の、かな。
スっと隣に並ぶ人影からいい香りがして
あ、潤くんだ、ってわかったから
イヤホンを片方はずして
「こんばんは」
って顔を向けたら......
「ひっ!!!」
心臓が止まるかと思った。
「っははは!なんだよそれ!」
「えっ、えっ!だ、だっ、だって、え!?」
「ねぇ、雅紀さん、ほんとに今まで気づかなかったの?」
「いや、え?あ、いや、えっと...えっと、えぇ!?」
「ねぇ、ちょっと、雅紀さん、おちつこ?」
「いや、だって、え、おちつくってどういういみ、え?なにしたらいいの、あ、えと、ちょ、ちょ、ちょっと、まって、えっとまって」
完全に我を失ったオレを
潤くんは面白そうに
「こんばんは、雅紀さん」
って、優しく見つめてた。
「え、あ...えー...、えむ、じぇ︎ー?」
「なにそれかわいい」
「あぁ......その言い方......うん...潤くん、だねぇ」
「はい、松本潤です」
いまさら...
本当にいまさら、気づくとは...
「あぁ...しょーちゃんの後輩のMJは、まつもと、じゅんくん、でしたか...」
「ハイ、しょおくんの後輩のMJの松本潤です(笑)」
「......オレがMJに救われた話、どんな気持ちで聞いてたんだよ、ってか、なんで!なんで隠してたの!?」
「あー...ごめん、隠してたって言うよりも、先に、雅紀さんに気づいて欲しかった...というか...うん」
「いやいやいやいやハイレベル過ぎるソレ」
「そぉ?」
「だって!あんな防御力高そうなメガネして!見抜けって方が無理よ!?」
「防御力(笑)」
「それに前髪だってわさーって下ろしてるし!」
「キャップかぶっちゃうとセットしないからね」
あわあわと謎に潤くんだかMJだかを責めるように言い募るけど、いよいよおかしくなってきた。
「あぁぁぁー!もぉ!!潤くんとMJに弄ばれたぁ!!」
「ちょっとちょっと、人聞きの悪いこと言わないでよ」
「ともだちだと思ってたのに...そんな...MJだなんて...」
「MJだったらともだちじゃなくなっちゃうの?」
「...だって、えむじぇー、だよぉ?」
って、あの看板を仰ぎ見る。
「ねえ、雅紀さん?アレも、ここにいる僕も、呼び名が違うだけで、ずっとおんなじひとりだよ?」
「...うん、それは、わかってるけど......」
「言わなかったのは、ごめん。でも、からかってた訳じゃないってことは、わかって?」
MJの
あの瞳に真っ直ぐに見つめられて
耐えられる人がいるなら教えて欲しい。
どうしたってオレは
もうこの瞳に撃ち抜かれてしまっているんだから。
「...わかった。」
そう答えると
MJは
あの瞳を少しゆらめかせて
オレの手をきゅっと、握った。