ゆっくりゆっくり、おもいだす。
あの部屋の、絵の具の匂い。
木炭とパンが転がってる汚れた床。
その床でなんども抱かれて
背中がとっても痛くて
膝と肘に青いアザができて
それでも
そのたびに
しあわせだった。
あの人がオレにくれる気持ちがカタチになってた気がして。
「急に......じゃ、なかったのか、だんだん、かな。」
「うん」
「もう帰らないって、言われて。それまでも帰ってこない日なんか
「うん」
「3ヶ月帰ってこなくて、それで、帰ってきたら、もう帰らないっ
「...うん」
「そのときにさ、オレ、なんかよくわかんないけど、ヘラヘラ笑っ
やばい....
落ち着いてたのにまた...
「...雅紀さん、やさしいね......よくできました。」
「......?」
「カレを責めたり、重荷になるようなこと言わないで、バカな振り
「...っもー!バカな振りじゃなくてホントにばかだとおもって
だめだ。
なんかしゃべってないと......泣く。
「まぁそりゃあ、しょーちゃんほど賢くはないけどぉ」
潤くんの前でもう泣くのイヤだよ。
こんな情けないトコみせたくない。余計なことばっかりしゃべってる。
「あーっそっかそっか!やっぱりおバカさんだから愛想つかされち
なんで潤くんがそんな泣きそうな顔するの...やめてよ。
こっちだってふざけてごまかすの限界なんだ。
「...今日は帰るね。雅紀さん、これ以上は僕に甘えてくれなさ
「甘えるって...オレ、潤くんにそんなことできないよぉ」
「...うん、そうだね。...おやすみ......またね、雅
「おやすみ...潤くん、また、きてね...」
いつも胸元で小さく手を振ってくれる潤くんだけど
今日は...
オレの手をきゅっと握って店を出た。