「ふぅ......」

「雅紀さん、僕ここにいて平気?」

「ん、ごめん、いてくれて助かる...ありがとね」


あれからすぐに店の同僚がカウンター中で座り込んでしまったオレを外に連れ出してくれて、いまは潤くんの隣で座らせてもらってる。ひとしきり泣いて、まだまだじわじわと涙は出るし、息が苦しいけど、どうにか、会話をすることはできるようになった


「...潤くん、気になるよねぇ(笑)」

「あー......うん、まあ、他人の涙に興味はないけど、雅紀さんの涙はぬぐってあげたいと思うよ」

しょおくんみたいに綺麗な手じゃなくて悪いけど、って冗談まじにりに、それでもずいぶんとカッコイイことを言う。


「ありがと。ちょっとだけ、聞いてくれる?」

「うん。もちろん。」


はぁっ...と



ひとつ息を吐いて。





「...そのTシャツのイラスト、たぶん...ってか、まぁ、絶対なんだけど、元カレの絵なんだ。」


「え......って、えー!?絵!?え、これ、この、絵!?」

「潤くん、『え』ばっかり(笑)」

「いやだって、えー...あーそっか、そうなのか」

「ふふ...うん、そうなんだ」


元カレと別れてからもう2年。

しょーちゃん以外のひとにはじめて話した。

そしてまさか自分がいちばんビックリしてる。


未だにこんなにも揺さぶられることに。



「別れたのは2年前の夏...。もうここには帰ってこないからって言われたんだ。」

「一緒に暮らしてたの?」

「うん。......オレは、そのつもりだった。一緒に、生活をしている、つもりだったよ。」

「カレのほうは、そうじゃ、なかった...?」

「んー...わかんない。雨風しのげて、お風呂に入れてごはんがある、そういう場所だっただけなのかも。」

「......それは、最初からそうだったの?」

「今となってはわからない。しょーちゃんには、カレにとって『ハウス』ではあっただろうけど、『ホーム』ではなかったんだろうって。」

「ふふ、しょおくんらしい言い方だね。」


そうだ。

あのときしょーちゃんに


『俺たち、お互いのホームにならない?』



って言われたんだっけ。




何かあっても絶対に揺るがない......帰れる場所。


だけど
縛りつけるのではなくて
いつでも解けるからこそ
いつでもお互いに結び目を気遣いながら
どちらかが強く引いたり
どちらかが適当に放らない

だから
オレたちはずっとずっと一緒にいられる。
これは恋愛じゃない。

ある種の、依存...かな。


「......しょーちゃんには...ホント、救われたなぁ」

「そっか...その時の雅紀さんのそばにしょおくんがいて、よかった。」

「うん...」


『よかった』って言ってくれた潤くんの顔は
ぜんぜん、よかったって顔じゃなかった。