「...あ、あの、じゅんくん......」

「...?…...雅紀さん、どうしたの?」

「あの、あのさ、」

心臓が跳ねる。

でも

聞かずにはいられない。



Tシャツに描かれたイラストから目が離せなくなった。

これを、オレは知ってる。
正確には、このイラストは初めて見る。
だけど、毎日、見てた。
ずっとこれに囲まれてた。
まさかまた見ることになるなんて。

息がうまくできない

目の奥がぎゅぅってなって
喉が潰れるように苦しくて
指先が冷たくなる
呼吸が浅くなる
潤くんがおどろいてるオレは仕事中おちつけおちつけ大丈夫オレはもうだいじょうぶしょーちゃんどうしようどうやって息吸うんだっけなんでオレのなにがしょーちゃんたすけてちがうそうじゃなくておちつけ



「雅紀さん......?」



「あ、ご、ごめん...」

「いいよ、ゆっくりで...どうしたの?」

「その、Tシャツのイラストって、有名な、なにか?」

「あ......これ?うん、最近一緒に仕事したアーティストのデザイン」

「しごと、したの?」

「うん、そこの歩道橋にあった前の看板、あの涙のやつ」



「あ、あれ、なんの広告かなっておもってた......」

「覆面アーティストの新曲のね。ほらココ」


ってそのTシャツには
イラストと一緒に
小さくQRコードがあった。


「これ読み込んでみて。MV見られるんだよ。」


スマホで読み取ると再生画面に切り替わった。


動画を撮ってる人が歌ってるんだろう。
かなり近い距離で聴こえる優しい声。
真っ白な部屋に散らばった画材。
これは絵描きのアトリエだ。
海が見えるちいさな窓。
風がレースのカーテンをささやかに揺らしてる。
こぼれた色とりどりの絵の具。
かわいたパレット。
転がる絵筆。
描きかけのキャンバス。
たぶん完成しているいくつかの絵。

それらをゆっくりと映しながら歌いながら
アトリエを奥へとすすむ。

自然光だけの薄暗い部屋にたどり着く。

そこには裸の男の背中が描かれた絵...。
左肩にはアザがあって。
撮影してた歌声の主はどこかにカメラを置いたのだろう、画角は傾いたまま定点になる。
映りこんだ歌う男は顔は見えないけど小柄で少し猫背。
アザのある男の絵を白い絵の具でゆっくりと塗りつぶしていく映像と共にフェードアウトしていった。


最後には

『regret』

と、文字が浮かんで動画は終わり。



「なに、これ......」

「ちょ、ちょっと!雅紀さん、大丈夫!?」


カウンターの中にへたりこむ



そのまま営業中だということも忘れて

声を上げて泣いてしまった。