始発が走り出した頃。

スマホには

『カギ、預かってくれてありがとな』

ってしょーちゃんからLINEがきてた。

『うん、なんか、マツモトくん、不思議な魅力のある人だね。また来るって言ってくれたよ。カギどーする?届ける?』


片付けも終わって帰ろって思った頃だったし、

マツモトくんのことも聞いてみたくて、朝メシ一緒に食べれるかなって思って返事してみたら


『松本どうだった?好み?』

って返事。

...返事になってない。

『好みも何も、お顔を見せてくれませんでしたー』

『は?だって店行ったんだろ?しゃべったんだろ??』

『その話、朝メシ食いながらじゃダメ?』



『仰る通り。そのカギないと帰れないから迎えに行く。』

『OK、待ってるね』


しょーちゃんが来るまでに
コンビニでコーヒーでも買ってこよっかな。




透明な月が薄い水色の空にぽっかり浮かんでる。
こうやって自然に空を見上げるようになったのも
MJのおかげだな...




「あ...しょーちゃんだ、かっこい♡」


夜のうちに貼り変わったんだ。
いつもの歩道橋の上の看板。

そして真っ赤なルージュをひいたSHOの口元に寄せる
もうひとつの唇に目を、奪われる。

バイオレットのルージュで飾られた、すこし開いた唇のほの暗い隙間からささやかにのぞく赤い舌。

くちびるに綺麗に並んだほくろがめちゃくちゃ好み。


あんな唇とキスできたら気持ちいいだろうな...


コーヒーを買いに行くのも忘れて見蕩れてると
聞きなれた足音。
そっと後ろから抱きしめられた。


「たーだいま。」

「...おーかえり。」

「びっくりした?」

「ちょっとした。こんなとこでオレに抱きつくなんて、チカンかしょーちゃんくらいだからね」

「おいー!俺はチカンとおなじかぁ?」

「うふふ、ごめんごめん。ねぇ!あれカッコイイね!」


2人で看板を見上げる。


「だろ?俺も気に入ってる」

「うん...すごくいい。ずっと見ちゃってたよ。」

「どっち?」

「え?」

「赤と紫、キスするなら、どっち?」

「...どっちって...」


一瞬、考えちゃった。


「こっち」


言いながら振り返り軽くキスをする。



なんだか腑に落ちない後ろめたさを感じて
ちょっと居心地が悪くなって。
何気なく腕から抜け出し

「なにたべるー?」

って話題を変えて歩き出した。