『雅紀、今日出勤だよな』


ってしょーちゃんからのLINE。


『うん、店くる?』


『いや、ごめんだけど、オレ行けなくて。マジ申し訳ないんだけど、後輩の松本ってヤツからオレの家のカギ、受け取ってほしいんだ。今日の現場かなり遅いから、会って受け取ることが難しくて。店で雅紀が預かっといてもらいたいんだわ。』


『りょーかい!マツモトくん、店来たことないよね?』


『ないよ、雅紀のことは「店でいちばんうるさいヤツ」って伝えてある(笑)』


『おーい!ひどくね?(笑)めっちゃ静かにしててやるかんな』


『雅紀の笑い声は、なんかいいんだよ。いつもデカい声で笑っとけ』



しょーちゃんは冗談混じりで、だけど、いつもこうやってオレがありのままでいられるような言葉をくれる。


気持ちがふわっとして、今日も頑張ろって思えた。



「いらっしゃいませ」


「こんばんは...」


「初めてのご来店ですか?ご紹介あったりします?」


「えっと...SHO、からのお使いで来ました」


「あ!マツモトくん、ですか?」


「はい、そうです、松本です。こんばんは。」


「こんばんは、雅紀です。ようこそ。」


お使いで、ってお行儀よくご挨拶をしてくれて好印象

...なんだけど、それよりもオレはビビったよ。



重たくおろした前髪


黒縁にやたら分厚いレンズのメガネ


さらに黒いマスク




どんだけ顔見られたくないんだっての(笑)




「マツモトくんも、モデルさんですか?」


「はい、しょおくんと同じくパーツモデルをしています」


「そうなんですね、良かったら飲んでいきますか?お酒がダメなら軽い食事かスイーツもだせますよ」


「せっかくのお誘いですが、明日撮影なので節制しなくてはいけなくて...すみません」


表情は見えないけど、申し訳なさそうにぺこっとお辞儀をしてくれた。


「わっ!そっか!逆にモデルさんにむやみに勧めちゃって、ごめんなさい!こちらこそ申し訳ないです!」


「しょおくんはリップとハンドだから荒れてなければいいけど、ぼくはアイモデルなので目元の浮腫とか充血は絶対NGなんです...なので、コンタクトも今日はダメで、メガネとマスクつけたままですみません...」


「おぉー!だから防御力高そうなメガネなんだぁ!」


「防御力...」


「うわっ!ごめん、じゃなくて、た、たいへん失礼いたしました!」

マツモトくんはたぶん、柔らかく笑ってくれてるんだと思う。


だって


「こんどはおやすみの前の日に、お使いじゃなく、飲みに来ますね」


そう言って、しょーちゃんの家のカギをオレに渡してくれた。


普段オレのお客様にはしないことだけど
しょーちゃんのお客様だもんね、
お店の外までお見送り。

...なんて、
ホントはもうちょっとおしゃべりしてみたかったって
下心ちょっぴり。


「なんでしょーちゃんちの鍵、マツモトくんが預かってたの?」


「ハイ、事務所でちょっとした写真を撮ったんですけど、その時に脱いだジャケットのポケットに鍵が入ってて。なのに脱いだまま出かけて行っちゃって」


「あー、しょーちゃんやりそー(笑)」


「フフ、そうなんですよね。で、僕が現場まで届けるって言ったら、雅紀さんのお店に預けておいて欲しいって、言われまして。」


気になってたことは聞けたけど、地下の店から階段をワンフロア上がるだけの時間で話題を広げるなんてことは難しく、特に面白いことも言えないまま外に出てしまった。



「じゃあ、ここで大丈夫なので。...また。」


『また』


って言ってくれたのに嬉しくなっちゃって、思わず


「はいっ!お待ちしています!」


って、いつものテンションで応えたら

ビクッて体全体で驚いて


「...ホントだ(笑)」


って、くつくつと笑いながら


「店でいちばんあかるい声で笑ってる人が雅紀さんだって、聞いてました。...じゃ、お疲れ様です。」



って言って、ちっちゃく胸元で手を振って帰っていった。