「しょぉくん?」


…寝ちゃってる。


ありがたいことに仕事がめいっぱいで

でも急遽、翌日が午後からになった日。

しばらく会えてなかったから

思い切って食事に誘ったら二つ返事で来てくれた。


疲れてるとこ、悪かったかなぁ…。


仕事の連絡が入ってちょっとだけ抜けるはずが

思ったりよりもヒートアップしてしまって、

結構な時間が過ぎてたみたいで。

個室に残した彼が気になりつつ、

「ゆっくり飲んでるから気にするな」

って言ってくれたお言葉に甘えて電話を終えて戻ったら。


「フフ…くち、とんがってるよ」


起こすのがもったいないって思うゆったりした時間。

いまの今まで仕事の電話をしていて

でも、こうして彼の寝顔をみれば

急速に気持ちが和らぐのがわかる。


掘りごたつの気取らない個室はよく仲間を連れてくるけど、今日は彼とふたりきり。向かい合って座ってたけど、壁にもたれて眠ってる彼に近づきたくて、隣に座り直す。


前髪がおりてて顔のラインがほっそりして、

なんだか懐かしい気持ちになる。

加えて、変わらない寝顔。

やっぱり、すきだなぁ。


突き出てる唇が可愛くて、イタズラに指で撫でる。


「起きない…」


いや、ここで起こす気もない。

このまま暫く寝かせてあげよう…なんて優しい気持ちなワケじゃない。当然、下心だよ。こんなに無防備に寝てしまうって、オレだからってことでいいよね。


右足を掘りごたつの上に出して、部屋の角に上手く体を入れてリラックスしてる。手は緩く組まれて足の間に納まって。


オレの大好きな手。

子供の頃はよく頭や頬を撫でてくれたり、手を引いてくれてた。ピアノを弾く姿を近くで見ていても、横顔よりも手元を見ていることが多かったかも。


そんな郷愁を感じながら組まれた手のひらの隙間にそっと自分の手を差し込んでみる。少し汗ばんでしっとりとしてて、温かい。そのまま手のひらをゆっくり撫ぜる。


「…ん、ぁ…潤?」


「うん。ごめん、電話ながびいちゃった」


「いや、いいよ、ってか、寝ちゃってたわ」


「疲れてるとこ急に誘ってごめんね」


「俺が無理して会うタイプじゃないってわかってんだろ。平気だし、会いたいから、来たんだよ」


って、寝起きも相まって、優しい低い声で、ゆっくり話す。

オレの手がしょおくんの手の中にあることには触れずに。


このまま、手を握れば握り返してくれるかな。

それともなんにも無かったように

元の席に戻ったほうがいいか。


そんなことを思って黙っていたら


「潤?どうした?」


ずいぶん甘い声で聞いてくれるから、試しに


「オレ、しょおくんが、すきだよ」


って言ってみる。


「ん、ありがとな」


「…うん。」


「これからも一緒に、頑張っていこうね」


「うん、そうだな…」


って、オレの手を彼の左手がキュッと握って、解いた右手でオレの髪を耳にかけて梳いてくれる。


急に胸が苦しくなって泣きたいような気持ちになったから、

それを悟られたくなくて、わざと


「そんな甘い顔でこんなふうにされたら襲うよ?」


って言ってみたら


「お前はそんな事しないよ」


って、オレの頭をくしゃくしゃとかき混ぜた。


オレの中で、

どこか悪いトコのスイッチが入る音がする。


「…しないと思う?」


乱された前髪の隙間から彼を見つめたら


「俺は、お前のこと、知ってるから。」


「…知らないとこだって…あるかもしれないじゃん」


「うん、あるだろうね」


「じゃあ、なんで『しない』って、言えるの?」


「だから、『知ってる』から…だよ。」


「何言ってんの。…はぐらかさないでよ。」


そういうと、しょおくんは眉を八の字にして

はぐらかしてねーよって笑いながら

俺に真っ直ぐ向き合ってくれて

手を握り直してくれて

そしてなぜか、ほんの少し上目使いでオレを見る。


そのまま、言葉をひとつずつ置きながら

でも迷いなくゆっくりと、言った。


「俺がどれだけ、潤を大事に想ってるかを、お前自身がわかっててくれてる。で、それを俺が知ってる。だから、お前は、俺を追い詰めることは、しないんだよ」


って。


「…つまり、信頼してるって、こと…?」


「まぁね、平たく言えば」


「平たく言ってよ」


「そんな平たいもんでもねーわ、めっちゃ深いわ」


って笑うから、オレの負けだ。

いつだってこうやって満たされた敗北で組み伏せられる。

下心はとうに消えて、悪いとこスイッチもオフ。


握られた手を離しがたくてなんとなく

うん、とか、そっか、とか、深いのか、とか、

ブツブツ言ってやり過ごしてたら、

再びオレのスマホが鳴り出した。


「お前も忙しいねぇ」


って、俺の手を離して酒を飲み始めたから

ヘンに余韻を残すことなく手を離せて良かったかも。


うん、ごめんねって、

ポケットからスマホを出して画面を見ると…


ゾッとしたわ。


その場で応答する。


「もしもし」

「うん、まだ一緒」

「大丈夫、明日ゆっくりって…」

「うん…うん、いや別に…」


いきなりプライベートの会話を目の前で始めたオレに、はじめはびっくりしてたけど、途中からなんかわかったみたい。


「ごめん、雅紀?」


って笑いながら、言うからスピーカーにしてやった。


「相葉さん、櫻井くんはちゃんと起きてますよ」

『もー、電話出ないし、しょーちゃんが潤と飲みに行くって分かってても連絡取れないと心配なんだからさぁ』

「オレだから心配、じゃないの?(笑)」

『えー!ちょっとちょっと、そういうこと言う!?』

「相変わらず寝顔は可愛いね」

『は!?え?待って、いまどこにいんの!寝顔って何!』

「雅紀、うるせーぞ」

『あっ!しょーちゃん!大丈夫?悪いことされてない!?』

「悪いことってなんだよ、何もしてねーわ」

『しょーちゃん、ホント!?無事だね??」


って、相変わらずの相葉くんの『しょーちゃんレーダー』にはマジでビビるし、オープンな独占欲に戦意を持てなくなるのは、相葉くんの作戦勝ち。


「今日はしょおくんがオレをめちゃ信頼してくれてるってことがわかったから、無事に帰すことが出来て、オレも嬉しいよ」


って、言ったら


『…なに、なんかあったね』


急にトーンがマジモードになる。


「なんもないわ!」


なんてしょおくんが言うから


「まだまだ夜は長いからねぇ、じゃ、オレらデート中なんで」


おやすみって、電話を切ってやった。


「オイ、潤、面倒なこと言うなよなぁ」


ってあなたは笑いながら自分のスマホを確認してる。

着信とメッセージの件数に引くわーって嬉しそう。

返信してるの、ちょっとだけ見えちゃった。



【起きて待っててよ】



だって。

やっぱり今夜も一緒には過ごしてはもらえないか。


2人がどんな風に過ごしてるか

知らん顔してあげてるんだから

たまにはオレにも朝まで時間をくれてもいいのになぁ。


でも、今日は、なんだか満たされたからそれでいいや。


だいすきだよ、しょおくん。

今度はオレとも一緒に眠ってよね。


おわり。