こんにちは

ぼく、栞吏ちゃん




「ビビビビ!」




適当な効果音と共に

小刻みに人差し指を震わせ

優しいタッチでおでこを刺激してくるのは

おーねいちゃん






閉じていた目をそろりと開く







待ち構えているおーねいちゃんと

目と目が合う









ぼくは親切な猫さん




テレフォンオペレーターさながら

愛想良く丁寧に

用件を尋ねてみると









「車に乗りたくなってきたじゃろう?」









…え?








「まだ足りてないね?

ビビビービビビー!」



先程よりも

少しだけ強い刺激に変わる









まるで分からないし止めてね




それに








気付いていると思うけれど
 



“涼し気”




と昨年の夏に買って来て以来

一年中敷きっぱなしのこれ






てんで座る気にならないもん

退けてもらえる?




ぼくは

やはり愛想良く話す










おーねいちゃんは

少しだけしょんぼりして





「栞吏ちゃんて不満を溜め込んで

一気に伝えてくるタイプね



あれよ



昭和新山よ

有珠山よ」










北海道好きな

おーねいちゃんらしく


見た事のある活火山を絡めながらの抗弁






ほんならせめてと


車がどうしたのかと尋ねる







おーねいちゃんは

ぼくのしましま模様を

ゆっくりと擦りながら





先日


前を走る車に

犬さんが乗っているのが見えた事


とても嬉しそうに乗っていて

ぼくともあんな風に出掛けられたら良いと思った事



を話してくれた


 



そして






車も外出も好きではないぼくに



“ビビビ”



催眠術を掛けているのだと







タオルで手を拭く事が苦手で

ティッシュばかりに頼る

おーねいちゃん




そのティッシュが空になる事は

とても不安





ぼくのトラックは

何時だって積載量オーバー





おーねいちゃんの

“心配”こそ

催眠術で治ってしまえば良いのじゃけれど







諦めの良い

おーねいちゃん



人差し指を伸ばした手から

お水をすくう様な優しい手の形に変えて

ぼくを抱き上げる






「ふふふ〜ん」

おーねいちゃんの適当なリズムを子守唄に

眠ろうとした所で






「チャッチャッチャラーラ」

元気の良過ぎるリズムに変わる






「明るい笑いを振り撒いて

お料理片手にお洗濯

タラちゃんちょっとそれ取って

母さんこの味どうかしら」





「明るい私は明るい私は

サザエさん〜」





あぁ

またこの歌




思い出したように

定期的に口ずさまれている

 



“明るいサザエさん”





明るい曲調とポジティブな歌詞



元気になれる



気がする時もあるらしい








慣れっこのぼくは

合いの手を入れるでもなく

上手ねと褒めるわけでもなく

目を瞑る








料理も洗濯も

あれやこれやと不安になりながら

「大大変」と言いながら

ひとつ、ひとつ

必死にやっているおーねいちゃん






「お料理しながらお洗濯なんて想像もつかない」





明るくて、器用に家事をこなし

ドジをしても

やはり明るいサザエさんは眩しい







眩し過ぎて

歌いたくない時期もあった

“明るいサザエさん”







けれども

最近では

“明るい栞吏さん”という

替え歌まで披露してくれる








歌い終わると

毎回必ず、




前の事に

サザエのつぼ焼きを食べている時に

思い掛けず大きなまま飲み込んでしまい




「本当に苦しくて

もうダメかと思うくらい苦しかったのよ」





それでも

サザエが無事に取れてホッとした事



ぼくにも気を付ける様言いたい所だが

「そもそも

栞吏ちゃんは食べたらいけんね〜」



と定型句で締め括る所までがセット










猫さんの耳は

イカ耳なんて呼ばれているけれど









ぼくに限っては



タコ耳なのではないじゃろうか




可愛いの秘訣はティッシュを載せるだけって本当なの?栞吏ちゃん!