こんにちは
ぼく、栞吏ちゃん
「さよならを決めたことは
けっしてあなたのためじゃない
不安に揺れるキャンドル
悲しかったから〜♪」
ぼくと並んで
ホットカーペットに寝転がりながら
小さく歌っているのはおーねいちゃん
4月も中旬だけれど
毎日ホットカーペットの電源は付けている
季節外れのサイレント・イヴ
どうして美登里を歌っているのか?
おーねいちゃんの腕に
バシバシと尻尾を振り当てながら尋ねると
「次はクリスマスまでイベントはありません」
え?
聞き直すぼくに
「お誕生日も全部終わりまんた」
何となく
すねくれたような
眠たそうな返事だ
おーねいちゃんが言うように
我が家は3人とも早生まれだ
クリスマスが終わり年が明ける
1月から3月までに
結婚記念日、誕生日が全て詰まっている
おーねいちゃん曰く、イベントとして弱い
バレンタインとホワイトデーを勘定に入れても
やはりこの期間に収まってしまうのだ
ご馳走をよばれられる
お洒落なお店に行ける
ケーキが食べられる
誕生日はちょっと偉そうにしてみる
ほとんどが食に関するイベントの美点を
冗談交じりに羅列して
聞かされることもある
恒例のふたりのお花見も
楽しいとは言っているけれど
花より団子なのじゃろう
ぼくが
おーねいちゃんとおーにいちゃんと家族になり
今年は7年目
ぼくもやはり早生まれ
ただ
家族になった記念日は6月だ
空白だった4月から11月の間に
きらりとひとつ
光が当たる
家にはカレンダーは貼られていない
けれど
もしカレンダーがあるのなら
6月6日の欄はマーカーで囲まれ
キラキラ光るペンでハートやらダイヤマークやら
装飾されているはずだ
それくらい
大切な日だと思っているのに…
やはりまだホットカーペットに転がる
おーねいちゃんに
ぼくが居て良かったね?
と話し掛ける
おーねいちゃんは少しだけ頭を浮かせると
そのままぼくのお腹にスライドさせ
顔を乗せてくる
「顔に毛がめっちゃ付く〜」
嬉しそうに笑うおーねいちゃん
…
誤魔化されているのじゃろうか??
諦めずにもう一度尋ねる
良かったね?
「ひゃひゃひゃ
本当は6月が楽しみだよ〜ん♪」
6月の記念日を忘れられていないか
不安なぼくの気持ちを見透かしたような
おどけた返事
くるりと身を翻し
うつ伏せのおーねいちゃんの背中に
トンッと飛び乗る
ふみふみを始める
あんよの爪は
少しだけ伸びている
「ちょっと痛いかも〜!」
先に爪を切ろうと提案するおーねいちゃんの声は
サイレント
サイレントなのだ!
ぼくは
小さなあんよで
ガシガシガシガシ
雪辱を果たすのであった







