こんにちは
ぼく、栞吏ちゃん
「よく見付けたね、すごーい!」
少し慌てた様子で
ぼくを褒めるのは
おーねいちゃんだ
見付けたものは
物ではなく
小さな虫さん
おーねいちゃんは褒めながらも
ぼくを警戒している
それは
【虫さんを殺してしまわないだろうか】と
…
ある晩のこと
小さな虫さんではなく
大きなゴキちゃんを見付けた
おーねいちゃんは
やはりぼくを褒めたかと思えば
「おーにいちゃん、栞吏ちゃんを押さえといて!」
そう言うと
綿棒の入ってた空き箱を使い
ゴキちゃんを捕まえたのだ
おーねいちゃんは
ゴキちゃんは怖くない
しかし
お風呂を出た後に玄関の外へ出ることが【苦手】
体と服が汚れてしまう感じがして
もう一度お風呂へ入らなければならなくなるからだ
そうなると
ここからはおーにいちゃんの出番
迷い込んだゴキちゃんを
玄関から帰してあげる
ぼくがいち早く見付けて
おーねいちゃん、おーにいちゃんに
繋いでいくという訳
「家族一丸って感じよね~」
おーねいちゃんは笑って言うのだ
ゴキちゃんが帰ってから
数日経ったある日
仕事から帰って来た
おーにいちゃんに向かって
「今日、おともだちが尋ねて来たわよ」
おーねいちゃんはそう言ったが
あれれ?
一日中、一度も
インターフォンは鳴っていない
誰かと聞き返す
おーにいちゃんに
「小さな茶色いおともだちが
この間はありがとー…って♪」
おーねいちゃんの
戯れ言は
虫さんをお外へ帰す度に
繰り返される
おーねいちゃんと二人きりになる昼間
何でいつも嘘を言うのか尋ねると
「本当よ!栞吏ちゃんがお昼寝してる時に来てるの」
あたかも真人間のように
まっすぐな瞳でぼくを見つめる
インターフォンは聞こえなかったと
反論すれば
「虫さんが鳴らすと音が小さいの」
………
埒が明かない
ぼくは返事をするのは止めて
昼寝を始める
…
ウトウトとしだした、その時
ピンポーン
いつもより小さな
小さな小さな
ピンポーンが鳴った気がした
本当に本当なのだろうか?
本当に虫さんが尋ねて来ているのだろうか
確かめよう…
確かめようと思いながら
…
ぼくは眠ってしまったのだった
たくさん見付けてくれてありがとうね、栞吏ちゃん