JRグループ在来線の普通列車が5日間乗り放題となる「青春18きっぷ」の夏バージョンの発売要項が、去る6月18日、JRグループ旅客6社（北海道・東日本・東海・西日本・四国・九州）から発表されました。
この発表時期が普段の発表時期からずれたことで、ひょっとしたら今夏の発売がないのでは？というウワサがSNSを中心に拡がっていました。
（出展:Wikipedia）
青春18きっぷはなかなか面白くて、基本的に春・夏・冬の3シーズンに販売、ことし夏の発表資料によると、7月20日から9月10日までの任意の5日間、JR在来線の普通列車（各新幹線・特急列車・急行列車などは除く）乗り放題で12050円、要は1日あたり2410円という代物。私も大阪〜東京間（通常8910円）を移動するのに早朝に大阪駅を出て名古屋駅で降りて名古屋モーニングを食べ、浜松でうなぎ、静岡でおでんなどと食べながらまる1日かけて移動したことがあります。普通列車の旅に飽きれば1駅2駅を新幹線移動してしまえば、お金は嵩みますが早く移動することもできます。
ちなみにアバウトな数字ですが各シーズンで70万枚ほどを発売、およそ80億円を売り上げているようで、旅客6社に対しては路線延長キロ数で分配されるのか、あるいはシンプルに6等分されているのかなどの規定は明らかにされていません。要は経営が苦しい北海道・四国・九州の離島3社の経営支援がこのきっぷ発売の目的とさえ言われております。
私が青春18きっぷ使用時によく購入するのが、
愛知県・豊橋駅名物「壺屋」のいなり寿司。
鉄道ファンからは熱烈に支持されるこのきっぷも、発売元であるJRグループ、とりわけ本州3社にとってはあまり嬉しくありません。6社のトータルで80億円の売上ですから収益に繋がりにくいうえに、「○○ダッシュ」というような、乗換駅で席を取るためにホームや階段を走る光景がみられます。むろんJR側は駅構内で走らないように呼びかけてはいますが、それで怪我でもされれば法的に注意義務違反に問われるのは施設管理者であるJRとなる可能性が高いわけで、JRとしては安く乗客を集めていることに大きなリスクを背負っているといえるのです。加えて、同きっぷ発売日には乗客が集中するものの、収益性の観点から臨時便までは出せず、混雑がみられる区間が出てきます。他方、これらにより通常運賃で乗車する乗客の快適性が大きく毀損されるとも考えられ、公共交通の存立のベースである公平な受益者負担たる観点から見直しの声があることも聞いております。実際に各社では回数券を廃止したり、外国人観光客向けの「JAPAN RAIL PASS」の大幅値上げに踏み切ったりしています。
一方でこのきっぷの利用者は鉄道ファンだけではありません。時間に余裕があり余暇を愉しまれているご様子の高齢の夫婦や団体、そしてお父さんとこどもたちなど家族連れで旅行しているところを何度も見かけました。青春18きっぷは5日分だと申しましたが、これは複数人利用にも対応していて、たとえば5人で1日利用するといった使い方もできるようになっていますので、グループ旅行で使われる方も多いようです。
昭和62年（1987年）の国鉄分割民営化、要するにJR発足以後、直接的な資本関係のない旅客6社は各々のエリアの誘客策を打ち出していきます。たとえば首都圏に広大な在来線網を持つ東日本は駅ビルやエキナカなどの事業を拡大しつつ、ICカード「Suica」などによって識別顧客を増やす戦略を、私鉄王国と呼ばれた京阪神地区に主たる経営基盤のある西日本は私鉄競合区間に重点的な新型車両投入を進め、スピードアップと快適性向上に努めたことで私鉄から大きくシェアを奪っていきました。こういう取組の一方でJRグループとしての連携は薄れていき、会社境界を跨ぐ列車運行の削減、車両開発の独自化、また会社間での企画乗車券の発売も縮小傾向にあります。
JR西日本のターミナル・大阪駅は分割民営化当時
63万人だった利用者が80万人にまで膨らんでいる。
そんな中で存続してきたこのきっぷ、私的には継続で良いと思っているのですが、運賃そのものが値上げトレンドにあるなかで現行の発売額で良いのか否か、自動改札すら通れず有人改札で入鋏印をもらうというスタイルのまま今に至っており、磁気きっぷ化などの対応はなされていないことからも、今後の先行きは依然不透明とされます。JR各社は「廃止の予定はない」と口を揃えていますが、今後、このきっぷを巡ってはなんらかの変更が加えられることになるでしょう。
▶︎次回の記事は6/23（日）に公開します。
なお、翌24日（月）は休稿とさせていただきます。
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