冒頭いきなりですが、「松坂屋・本店」という名の百貨店店舗は存在しません。


イルミネーションに映える「松坂屋・本店」。

手前が本館、奥が南館。


現在では「松坂屋名古屋店」と呼称します。これは大丸と統合して「J.フロントリテイリング」(JFR)発足以降、大丸との呼称統一(※大丸の本店である心斎橋店は母店扱い)のために「名古屋店」(なごやてん・なごやみせ)と店名が変更になっていますが、長らくの歴史、松坂屋単体の頃はこの店は「本店」でありましたので、私もどうしても「名古屋店」とは言えずに「松坂屋・本店」の名のまま貫いてしまっております。本節においてはこれで統一したいと思います。


隠さずに申しますと、私が名古屋で一番よく行く百貨店は名駅のジェイアール名古屋タカシマヤであります。平成12年(2000年)3月のオープン以降通い詰めて、すっかり地元人勝りと申しても良いほど店内に詳しくなってしまいました。


決してタカシマヤが嫌いではありませんし、むしろ名古屋の百貨店はひとつひとつ個性が際立っていてどこも好きなのですが、なかでもこの「松坂屋・本店」に入る時には胸の高鳴りが抑えられません。私はこの店が百貨店の佇まいを持っているわが国最高峰の店舗だと思っています。なにも私だけが思っているわけではなくて、そうはっきり言う百貨店関係者も多くおられることは、はっきりお伝えしておきたい。


(出典:CBCテレビ)


私が大好きを超えて愛してさえも…(?!)というCBCの若狭敬一アナウンサーがMCをやっておられるイブニング情報番組「チャント!」(月〜金:15:49〜19:00)で、「松坂屋・本店」の改装工事のようすが特集されました(5/20(月)OA)。

改装工事に伴う内装解体では、昭和初期に貼られた壁紙や太平洋戦争(昭和16年〜20年)において炎上し黒ずんでいる柱なども見つかりました。歴史的遺構にもクローズアップすることで、名古屋のまちに欠くことのできない「生活と文化を結ぶマツザカヤ」たる所以を紹介してみせた番組構成の手腕は素晴らしい!!


(出典:CBCテレビ)


ファッションショーにはじまり、従業員制服、福袋、デパ地下、土足入場、エレベーターガール、お子様ランチなど、のちに全国の百貨店に広がった取組を日本で最初にはじめたのが松坂屋。この功労者として知られているのが伊藤家15代祐民、法人格としての松坂屋の初代社長であります。栄町角、今のスカイルが建つ好立地にみずから開業させた名古屋初のデパートメント・ストアが手狭になると見るや、大正14年(1925年)には南大津町に鈴木禎二設計の地上6階、地下2階建の壮麗な新店舗を開設、これが今の「松坂屋・本店」の本館です。お城と比肩するとまでもてはやされた名古屋随一の高層建築物で、モダンな内外装も相まって瞬く間に名古屋っ子の憧れの的になったのだそうです。


(出典:CBCテレビ)


しかし太平洋戦争はそんな名古屋の誇りを奪い去ろうとしました。「城でもつ」とまで讃えられた名古屋城は天守・本丸までもが炎上、消失。松坂屋も米軍が落とした焼夷弾により解体こそ免れたものの全焼したのです。ファサードが黒く焼け焦げているのがお分かりいただけるのではないでしょうか。

松坂屋はまちの希望の灯は消さないとばかりに終戦後すぐに復旧工事に取り掛かり、昭和24年(1949年)秋にはほぼ全館の改装オープンを果たしますが、それを前にした昭和23年(1948年)に制定し、今に引き継がれているキャッチフレーズが先に掲げた「生活と文化を結ぶマツザカヤ」。五・七・五調でリズミカルに纏めた一方で、生活=日常、文化=非日常と置き換えるとまさに百貨店の使命感を言い当てていて、ましてや当時、まだ国土の復興が進んでいない貧しい時代に、打ちひしがれたひとびとの光とならん!との強い決意をも秘めたメッセージです。


名古屋の成長をともにつくり、名古屋が悲しみに包まれる時はともに苦しみながらもまちを励ましてきた「松坂屋・本店」。前期売上(総額ベース)は約1268億円とJFRグループとしてはトップの実績、とはいえ地域一番店のジェイアール名古屋タカシマヤの約1940億円(ゲートタワーモール含む)には遠く及びません。しかしJFRグループとして「松坂屋・本店」の南側にある名古屋パルコの売上を足すと昨年度の実績は約1580億円と数字が拮抗しだします。JFRの好本達也社長(当時、現会長)は令和3年(2021年)の日経インタビューで「(名古屋は)一番大きな利益をあげているエリア」として「当社一番の重点地域」だと明言しています。「松坂屋・本店」および名古屋パルコの改装に加えて、再来年春オープン予定で工事が進む地上41階建、高さ211mに及ぶ錦三丁目25番街区開発では地上4階、地下2階の6層に亘って商業ゾーンを展開、それを加えた同社の栄地区での売上は2000億円強の売上高を目指しています。


(出典:CBCテレビ)


「松坂屋・本店」の改装工事はまず第一弾として本館3階・4階をことし12月のオープンに向け鋭意工事が進んでいます。フロアを部分的にクローズしながら玉突きで行われることの多い商業施設の改装工事ですが、今回の改装は2フロアまるまるクローズして一斉に工事が行われているという大胆さ。


栄の盟主・JFRグループが名古屋のトップへと返り咲ける日は果たしてくるのだろうか……来年、現店舗100年を迎える「松坂屋・本店」をめぐっては今後、このような記事を上げていく予定です。


・伊藤祐民と別荘・揚輝荘(近日公開予定)

・「いとう」を捨てた祐民の名古屋気質

・大番頭・鈴木正雄の隆盛と転落

・コト消費をいち早く掴んだ新・南館

・松坂屋の強みと弱み

・名古屋とともに歩んだ松坂屋


***


ちなみにですが…。


若狭敬一アナウンサーは岡山出身、大阪と広島に挟まれたエリアでタイガースかカープかで割れるような場所で育っているのに大の中日ドラゴンズファンとして広く知られます。ドラゴンズのドラフト成功祈願のために毎年10月には倶利伽羅不動寺(守山区)で滝行されていて、年々鍛えた身体がクローズアップされていますね(笑)。そのおかげでドラフトでは本当に心がきれいで人間的に魅力的な選手たちが毎年入ってきていてありがたいことだと思っています。ひとりひとりの選手の魅力度ではダントツ12球団トップのドラゴンズが、チャンピョンフラッグを掌に収める歓喜はいつのことになるのやら………。



※次回の記事は5/31(金)に公開します。


■□■GO-chin無料相談所■□■


アパレルショップ関係、販路マッチング、都市問題を中心にお問合せ、お困り事など何なりとお寄せください。24時間以内に返信を心がけますが、内容によっては返信いたしかねる場合がございます。


g.osada.55labo@gmail.com