(※売上はすべて総額ベースで記載しています)


このほど三越伊勢丹ホールディングスが発表した前期(23.3月期)決算資料によると、百貨店店舗として日本一を快走する伊勢丹新宿本店の売上は前期比114.7%の3758億円で着地、過去最高売上となりました。新宿店の後を追いかける業界2位の阪急本店(大阪市)も前期比20.3%増の3140億円と初の3000億円台に。おそらく総額売上で3番手につけているとみられるジェイアール名古屋タカシマヤは前期2000億円に乗ったかそれたかというところとみられていて(※決算書内に総額売上の記載なし)、伊勢丹新宿本店・阪急本店両店の勢いの良さが印象付けられます。


伊勢丹の店章は店祖・小菅丹治翁(初代)の直筆。

初代は華美な思考に奔ることを徹底的に嫌った。

(新宿本館屋上「アイガーデン」にて撮影)


ただしこれらは失礼を承知ではっきり断言させていただきますが、両店の取組の成果ではなく、マーケットの変化による受益という側面でしかないことは、誰の目から見ても明らかであります。

まずは為替。円安による外国人客の流入で大きく売上を押し上げています。伊勢丹新宿本店の免税売上は前期比倍増の500億円に達していてグロスの13.4%に。阪急本店のインバウンド比率はこれを上回る20%に達し、新宿を上回る600億円強を外国人で稼いでいるのです。


阪急本店は9階に4層吹き抜けの広場を用意して、

しっかりと店頭集客を進めているようすが窺える。

(阪急本店9階「祝祭広場」にて撮影)


為替差益をアテにした訪日外国人客によってラグジュアリーは大盛況となっていて、ブティック前には行列が絶えません。そこから日本語が聞けることはごく稀でほぼ外国人といった様相。ある百貨店内のラグジュアリーショップに勤務するスタッフからは、日本語で接客することは1日通してもほぼないと聞いております。ただこの潮流は為替以外にわが国の免税手続を悪用したブローカーの存在も確認されていて、あえてそれを知りつつ販売を続けているケースもあるようです。


つぎに株高。投資に意欲的な40歳代を中心とするあらたな富裕層が登場し、そこを外商客として獲得することに成功しています。それによりジュエリーやウォッチの売上を大きく底上げされています。伊勢丹新宿本店のVIP催事「丹青(たんせい)会」も過去最高売上を記録(※以前は開催1日限り、ニューオータニでやっていたが、現在は会場費削減のため複数日に亘って新宿店頭で開催していることから面積・日数が増加する中で厳密な単純比較は不可)するなど好調の一方で、年間300万円以上購入のID顧客向けに新宿本館7階に新設したラウンジは週末ともなると行列がみられるなど"ブサイク"な一面も発現しています。ちなみに阪急本店にも同様の状況を見ております。


結果、ラグジュアリーとジュエリー、ウォッチで稼いだかたちで、売場効率的にも明らかなバブルの様相。マーケットの傾向が10年以上同じ傾向で推移するとも考えられず、またどう捉えても店舗の実力による数字でないだけに、どこかで夭折(ようせつ)するのは目に見えています。せっかくの好機を逃せとまでは申しませんし、しっかり恩恵にはあずかれば良いと思いますが、良い時期だからこそ、百貨店の基本は店頭にあるということを認識して、しっかり店頭に投資する、あるいはスタイリスト(販売員)の顧客に対する態度に目を配ることのできる企業こそが、10年、20年先に生き残るだろうと思っております。


※次回の記事は5/20(月)に公開します。


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