もう10年以上前の事と記憶していますが、日本空港ビルデング代表取締役の大西洋副社長(羽田未来総合研究所代表取締役社長執行役員)が伊勢丹(現・三越伊勢丹)の社長になられて間もないころに、「伊勢丹の課題はどこにあるとお考えですか?」と質問したことがあります。
大西社長がお答えになったのは、
「社内に『スペシャリスト』が少ないのです」と。
「大概のことが平均的に出来る『ゼネラリスト』ではなく、ひとつのことに秀でる『スペシャリスト』を育成したいと、静かに、そして熱く語っておられたのを今でも鮮烈に憶えています。

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私は自身を見つめ直したとき、特に目立つこともなく、現実に即した地道な積み上げを心掛けている部分では「ゼネラリスト」の気風が強いと思っていますが、「スペシャリスト」への憧れは人一倍持っています。だが自分が表に立てない性分のため、「スペシャリスト」を看板に据えて、そのクリエイティビティーのもと、私は実務に専念することが組織運営上いちばんうまくやれるのではと感じているところです。

私が定義する「スペシャリスト」とは、単にひとつのことに特化しているという意味にとどまりません。あらゆる前提条件を排し、まっさらなキャンバスに構想を描ける人材こそスペシャリストになりうると考えます。クリエイションの最大の敵は先入観にあって、ひとたび先入観に支配されてしまうとモードは発現しないというのがファッション業界の通説でありますが、まさにスペシャリストについてもきっとそうなのだろうと理解します。

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こちらは少し前の話になりますが、賃金計算の方法をめぐって論争になったことがありました。適切な賃金(フィー)を先方に提示するにあたっての相談を受けた際に、私は県内の最低賃金をベースに計算し提示」することを提案しました。そうしますと、、
「最低賃金の根拠はどこにあるのか?」と聞き返してくるものだから、
「決まっているものに根拠もへったくれもない」
と返したところ、堂々巡りの議論になったのです。
最低賃金制度は法的(最低賃金法等)に保証されたものであって、法に準拠した提案は社会では受け容れられやすいというのが私の考えでしたが、彼はまったく納得いかないようすで、その制定の根拠であるとか、定められた最低賃金が本当に適正なものかを私に問うてきました。
以前にも記しましたが、私は「変えられること」「変わらざること」を明確に分離する中で、法や制度の根拠を問うという「無駄な議論」は避ける方向で押し切りたかったのです。

しかし、結果としてその言動は失敗だったと感じています。
あくまで条件提示の根拠を論ずるなかで、結果的に「変わらざること」の議論が「無駄」であることにほぼ疑いの余地がなく(※むろん労働法の観点からの議論は否定しないが)、前提条件であるべきものに異論を呈する彼の問題提起に共感する人もそういないのでしょう。それゆえに、側にいる私が突き放すべきではなかったのです。
あらゆる前提条件を排除して"amazing!"な着想を持つ彼の可能性を感じた私こそが突き放して、どこの誰が分かってあげられるのか、と。
スペシャリストの素質を秘め、これから社会に大きく貢献するだろう彼から私が自信を奪ってしまったとすれば、とんでもないことです。

ディベートは一応制したのかもしれない私が得たものは何もなく、却って大きなものを失ってしまったいま、"It's Amazing!"な発想だけは、彼に貫き通して貰いたい、そして、類まれなスペシャリストへの階段を登って行ってもらいたいと念ずることしかできません。


※次回の記事は5/17(金)に公開します。


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