北陸新幹線の敦賀開業以降、SNS上で話題となっていて、3月24日の東海テレビ「ニュースONE」でも取り上げられた「北陸・中京新幹線」構想が本日のテーマです。

(注※北陸新幹線は高崎(至東京)方が上り、北陸本線は米原方が上り。本編ではそれに準拠した記載とする)


(出典:東海テレビ放送)


北陸・中京新幹線は福井県の敦賀駅から名古屋駅までを結ぶ新幹線の基本計画に盛り込まれている路線です。経由地は特に示されていませんが、敦賀-名古屋間は直線距離で約90kmですが、路線延長な約50kmとされていることから、米原駅(滋賀県)付近で東海道新幹線にコネクトする案が有力と考えられています。


北陸新幹線新大阪延伸が無理な理由。

巨大なロータリーが設けられているJR新大阪駅。

北陸新幹線はこの地下にホームが設けられる予定。


北陸新幹線はもともと東京と大阪を結ぶ路線として企図されたもので、現在でも敦賀から大阪までの基本計画は生きています。現在では小浜市を経由して京都へ、そこから松井山手駅(京都府京田辺市)を経由して新大阪駅に至るルートが決まってはいるものの、日本海側から一気に瀬戸内海側に貫く長大な地下トンネル工事の弊害が指摘されていて、工事着手はできないでしょう。


新大阪延伸にあたって一番現実的とされる米原ルートも、JR西日本が反対意思を表明しています。JR東海の社長・会長を歴任された葛西敬之さん(故人)の著書「未完の国鉄改革」で国鉄分割民営化時の労務部門を取り仕切り、実務派として知られた南谷昌二郎さんがJR西日本の社長の頃には米原ルートを推して、とにかく大阪に繋げることを目指したのですが、これをやるとJR西日本単独の収益となっている北陸〜京都・大阪間のうち、米原〜京都・新大阪間はJR東海の収益となることから反対姿勢に転じたのです。国がうまく按分せよという政治評論家や議員センセイの論もありますが、JR本州3社が純然たる民間企業となったいま、それはあまりに暴論であると考えます。

JR西日本の収益構造を守るためには、現行の〈サンダーバード〉号による現行の湖西線・敦賀経由を残す必要がある…そのためには「米原ルート」は良しとしても「米原駅」には接続できないという、なんとも矛盾めいたジレンマを抱えているといえます。


このほか、比良山地をトンネルで貫く「湖西ルート」では駅ができない滋賀県に費用負担と湖西線を並行在来線にする問題が発生すること、小浜市と新大阪駅を最短経路で結び、亀岡市付近に駅を設置する当初の「小浜ルート」は京都駅を設置しないことで、現在の特急〈サンダーバード〉号の輸送実態に即しておらず、賢い選択とはなりません。


北陸・中京新幹線の課題。

以上が北陸新幹線の新大阪延伸が不可能な理由であります。

こうなると北陸地方の悲願である北陸と太平洋側を結ぶ新幹線ネットワークの2系統化(首都圏および西日本)を達成するためには、敦賀駅から先、名古屋市に至る北陸・中京新幹線の建設しか見えてこないと考えます。


ただ、思いつくだけでも大きな課題が3点あります。



まず、米原駅の立地上、京都・大阪方面には直通できる一方で名古屋方面へはスイッチバックが必要となります。実際に敦賀から名古屋に向かう在来線特急「しらさぎ」号は北陸線から米原駅に入り、方向を変えて東海道線に入ります。新幹線でスイッチバックする事例は「ミニ新幹線」方式を取る秋田新幹線の大曲駅で存在しますが、これを現実的でないとすれば、米原駅の東海道新幹線東京方から敦賀方面に線路を敷設する必要があります。


つぎに、本構想の立地自治体の大半にあたる滋賀県の同意が取れるかどうか。現行の整備新幹線計画においては建設費および並行在来線問題で滋賀県の承認が欠かせず、米原ルートですら反発の声があるなか実現可能なのかという疑問が出てきます。


さらに、北陸新幹線の列車が東海道新幹線の線路に乗り入れできるのかという問題です。現状のダイヤではピーク時にのぞみ12本、ひかり2本、こだま2本の計16本となっていて、うちこだまの1本は東京発名古屋どまりとなるので、1本/hのスジは確保できるが、2本/hは確保しようとすると、東京〜新大阪間のひかり号かのぞみ号を名古屋どまりにする必要があるでしょう。東京-名古屋-大阪の国土軸を直結することを最大の使命とするJR東海にとって、大きなマインドチェンジが必要にも思えます。


新たな新幹線が名古屋にもたらす好機。

北陸・中京新幹線ができることにより名古屋から金沢まで1時間9分で結ばれると試算されていて、これまでは新幹線ネットワークにおいて通り道であった名古屋が、拠点性を持った経済圏として確立されることでしょう。

中部運輸局が旗振り役となっている中部地方の観光プロジェクト「昇龍道」は北に能登半島から北陸、飛騨・美濃を経て名古屋、そして空の玄関口・セントレアから伊勢神宮、熊野古道へと至る観光ルートでありますが、この観光における起点としても認知が進むと考えております。



愛知県・岐阜県・三重県からなる中部管内の宿泊客統計を見ますと、延べ宿泊客数は5618万人泊で前年比14%あまりの伸長、うちインバウンド客は438万人泊で前年からは5倍以上の伸びをみせているものの、コロナ禍前の2019年対比では半分にも達していません。インバウンド客の比率は8%弱となっていて、同管内におけるインバウンド集客の弱さが顕在化している、ともいえますが、先ずは2019年比イーブンに持っていくことが当面の中部観光における目標として良いと思います。


中部地方には北に飛騨高山や下呂、白川郷、南には伊勢神宮や和歌山県と跨る地域に熊野三山といった霊場が控えます。愛知県だけに絞っても国宝の5つの城のうちのひとつ、犬山城や1900年以上の歴史を持つ熱田神宮があるほか、世界一大きな駅ビル・世界一大きなプラネタリウムなど「世界一」「日本一」が数多集まる中核都市・名古屋市中心部の威容も魅力のひとつ。わが国のさらなる魅力発信のために「昇竜道」の訴求は欠かせず、また現状の北陸〜名古屋駅間において乗り換えを強いられるトラフィックの改善は待ったなしであります。


「乗り換えを強いられる」というのは北陸新幹線の金沢〜敦賀延伸により名古屋〜金沢間の特急〈しらさぎ〉号は敦賀以遠の営業運転を終了し、名古屋〜敦賀間のみの運転となったため、敦賀駅での乗換が発生します。加えて名古屋駅からの最速ルートは東海道新幹線で米原へ、米原から特急〈しらさぎ〉号、敦賀で北陸新幹線と2回の乗換が発生するため、広義の「中部圏」とされる北陸三県と中部の盟主たる名古屋市との経済的なコネクトが弱まるのではと懸念の声が上がっています。先般のGWにおいても特急〈しらさぎ〉号は半分近く客数を落としていて、これには福井市周辺〜首都圏の移動が東海道新幹線から北陸新幹線に転移した結果ともいえるため、まるまる名古屋〜北陸の需要減衰とはいえなくとも、もし〈しらさぎ〉号が廃止あるいは減便となれば、さらに大きな影響が想定されます。


都市が魅力を持つためには圏域の拡張が不可欠とすれば、名古屋市がさらに魅力を高めるためには、「金沢名古屋ライン」、すなわち北陸・中京新幹線が必要です。


実現に向けてのウルトラC。

さきほど、「北陸・中京新幹線」実現の障壁を3点記しました。


①米原駅でのスイッチバック

②滋賀県の対応

③JR東海の経営マインド



商店街と伝統建築物の双方を活用し活性化に成功、

全国の市街地活性化のモデルとなった長浜市。


まずは①と②についてです。加えて北陸新幹線の新大阪延伸について「米原ルート」は建設区間だけを見れば現実的と言われつつもJRどうしの収益分配の問題で米原駅には繋げられない………

ならば「米原ルート」をなぞりながらも、敦賀駅から長浜駅に繋いで、そこから米原駅は通らず、米原駅の東京方で東海道新幹線に合流して名古屋駅に向かう経路を提案したいと思います。長浜駅は北陸本線に含まれますが、京都・大阪に繋がるJR西日本の琵琶湖線の終端となっていて、平成3年(1991年)の直流化にともなって新快速が2本/h(当時)乗り入れ、伝統的建造物を活用した「長浜黒壁スクエア」の開業など商店街活性化の事例の嚆矢として知られています。しかしながら現状では新快速も1本/hに減便され、依然として湖北随一の観光スポットとはいえ京阪神の大都市圏から遠く、県内でも近江八幡市や彦根市に観光施策で遅れを取っています。新幹線による名古屋駅との直通が実現すれば長浜市にとっても千載一遇の好機で、また北国街道の宿場町として栄えた歴史を踏まえて北陸と抱き合わせた観光ルートの提案も考えられます。その場合、長浜〜敦賀間は並行在来線となりますが、現行でも長浜駅で系統分離されているので滋賀県としても比較的呑みやすい条件とは思いますし、湖北振興につながる施策に県も真っ向から反対はしづらいだろうと考えます。


次に③について。運行システムについてはATCシステムの違いなどで両新幹線に直通できる仕様の車両開発が必要といわれます。が、フリーゲージトレインを用いた新在直通仕様などに較べれば難易度は低いと考えられます。

ただ、駅施設については両新幹線で車両の仕様が異なることなどから別につくる必要があります。途中駅の岐阜羽島駅は通過と仮定しても、名古屋駅の北陸・中京新幹線専用ホームの新設は必要と考えます。その費用負担について、整備新幹線計画の一部として整備できるのか否かについては非常に大きな問題になるでしょう。


「社会基盤」名古屋市のために。

JR東海の経営理念は以下のとおりであります。


「日本の大動脈と社会基盤の発展に貢献する」


「日本の大動脈」とは東京〜名古屋〜大阪の国土軸を指していて、すなわち現在の東海道新幹線であって、また建設が進む中央新幹線であります。

「日本の大動脈」と並んで位置付けられた「社会基盤」とは同社が本社を置く名古屋地区を中心とした在来線営業エリアを意味しています。この事業の代表格は名古屋駅前で展開している駅ビル群。この開発で「名駅」と呼ばれる名古屋駅周辺は一気に都市化することとなり、名古屋駅前のオフィス賃料は首都圏を除く地方都市のなかでトップをひた走ってきた大阪駅(梅田)地区と今や比肩するまでに登り詰めました。


名古屋市を通過点から中部日本の拠点都市として

世界に向けて大きく雄飛することを期待したい。


リニア中央新幹線建設において多額の建設費を負担する同社があらたな新幹線を開業できるのか、また運行管理システムが異なる列車の乗り入れが本当に可能なのか否かなど、課題は山積であります。しかしながらこの新線によって、同社が「社会基盤」と位置付ける本丸・名古屋市の発展に繋がることは疑う余地がなく、東海躍進のために万難を排し実現に向けて検討を頂きたいと、切に願うものであります。


※次回の記事は5/27(月)に公開します。


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