JR西日本は京阪神エリアの運賃体系を来春にも変更する検討に入ったことが報じられております。
こちらはJR三ノ宮駅の運賃表ですが、大阪駅までが420円なのに対して、大阪駅から一駅先に進むといずれも150円もアップし、たとえば天王寺駅に至っては320円アップの740円になります。大阪駅から天王寺駅までが200円ですから、大阪駅で一旦改札を出入りするだけで120円浮く、ということになります。
このカラクリのキーは「大阪駅」です。
JR西日本では大阪駅や京都駅など主要駅どうしやそれらの区間において私鉄との競合が認められる際、特定区間運賃として値下げしているのです。
実は関西のJRユーザーの多くがこれを知っていて、かつて回数券の販売があったときには回数券をそれぞれの区間で購入し、2枚の回数券を同時使用することで評価の運賃よりも格安に移動していたのです。むろんこれは目的地相互間有効のきっぷが存在しているので、不正乗車には当たりません。
ただ、JR西日本の私鉄対策ともいえる運賃体系には特に私鉄競合のない区間のユーザーからは不評でした。そして今回、運賃収受の公平性を鑑みて、関西圏の運賃体系の統一をめざすとしているのです。
JR西日本の京阪神エリアの運賃体系は複雑怪奇なもので、幹線運賃のほかに電車特定区間、さらには大阪環状線およびJRゆめ咲線、大和路線のJR難波〜天王寺間のみの利用であればさらに割安となる「大阪環状線内」運賃が適用されます。加えて先述した通り、大阪〜三ノ宮や京都〜大阪など、私鉄との競合駅間においてはこれとは別の「特定区間運賃」を設けています。
報道によってまちまちなのですが、基本は都市部では値上げ、一部郊外区間は値下げとなるもよう。「都市部」該当路線として大阪環状線は各種報道で共通しているのでほぼ値上げで間違いないのでしょうが、私鉄と競合するJR京都線（京都-大阪間）・JR神戸線（大阪-三ノ宮-姫路間）の値上げがあるのか、仮に値上げとなった場合の値上げ幅はいかばかりになるのか、注目が集まるところです。
大阪環状線はおもな競合路線としてオオサカメトロが挙げられまして、大阪駅（梅田駅）から天王寺駅までですとJRが210円、メトロが290円と開きがあります。これを仮に幹線運賃に置き換えても240円ですから、運賃面での競争力は保持できると考えられます。
ただこうなるとJR京都・神戸両線が大きな問題です。現行の幹線運賃にそっくり置き換えると、大阪-三ノ宮は現行の420円から590円になり、競合私鉄である阪急阪神ホールディングス傘下の阪急電鉄・阪神電気鉄道の320円から大きな差が生まれることになります。阪急は梅田-三宮間を27分で結んでいて速達性も高く好評であることから、阪神間の直通旅客をごっそり取られてしまう懸念があります。
ここからは私の予測の範疇ですが、以上を踏まえてJRは京阪神地区の近郊路線用に統一した新たな運賃体系を導入するのではと推測しています。おそらく幹線運賃と電車特定区間の普通運賃もしくは特定区間運賃との間を取ってくるのではないかと。そうなるとたとえば大阪-三ノ宮（元町）間は500円〜510円程度、京都-大阪間は現行580円から670円〜680円程度、であれば適度な競争力の維持が可能でありましょう。
そもそもわが国の公共交通機関は安すぎます。鉄道事業における運賃収入では利益率は薄すぎるため、各社では特急料金や座席指定車の導入などで客単価の増加を図っていますが、本格的な人口減少社会を見据えて、広く受益に見合った負担をしていくべき時に来ているともいえます。今回のJRの運賃改定に対して競合私鉄、とりわけ阪急阪神HDの動きが物凄く気になるところですが、梅田-三宮などは100円単位の値上げとしても、良いとは申しませんが大いに納得できるものであると考えます。
地方からみれば、都市圏域の中心都市にストローされている現状への危機感とそれを抑制する効果を期待したいものです。都市間を安く快適に移動できることで、圏域の衛星都市から中心都市へと大きく流れ出てしまっている、それをどう止めていくのかの手立てのひとつになる可能性も秘めます。ただ、運賃改定が衛星都市にとって活性化に直結するわけではなくて、段階的な鉄道輸送体系の変化によって各都市におけるテナントミックスに変化が起き、徐々に消費者のマインドとして定着していけば、その効果が顕在化してくるであろうとの認識です。
※GW期間中はお休み、次回の記事は5/8（水）に公開します。
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