今回は京都の玄関口・京都駅ビルをクローズアップ。



JR西日本グループによって1997年9月に開業した京都駅ビルは京都の商業シーンに劇的な変化をもたらしたとともに、京都駅から4方向に延びるJR各路線の沿線人口を増やすといった副次的な効果をもたらしました。この成功モデルはJR東海の名古屋駅・JR北海道の札幌駅・JR九州の博多駅などJR他社にも大きな影響を与えたほか、自社における最大のターミナル・大阪駅における「大阪ステーションシティ」開発の嚆矢ともなりました。

京都駅ビルは私にとって思い出深い場所で、隅々までご紹介したいところではありますが、文字数の都合、次の3点にポイントを絞って、簡単にご紹介したいと考えます。


①建築的要素を強く織り込んだランドマーク的建築物

②「私鉄モデル」の関連産業育成

③ターミナル駅周辺および沿線開発への貢献




①建築的要素を強く織り込んだランドマーク的建築物


(出典:建設通信新聞)


京都駅ビル計画は国際コンペからはじまりました。安藤忠雄氏など国内の錚々たる建築家に加えて海外の建築家も交えたコンペで見事射止めたのが原廣司氏でした。原氏は全長460mに及ぶ敷地において、原氏の個性であるモダニズムを明確に主張しつつも京の碁盤の目に着眼、駅ビルに突き当たる烏丸通・室町通の正面部分については大きな吹き抜けをつくり広場にすることで「気の流れ」を確保しました。(※中国発祥の風水では建物内に吹き抜け空間をつくり「気を流す」設計が一般的とされる)


(出典:(株)京都駅ビル開発)


さらにビルを西ゾーン・中央ゾーン・東ゾーンに分け、西ゾーンには劇場とホテル、東ゾーンは百貨店およびグルメ施設をそれぞれ配置、中央ゾーンには駅のターミナル機能を集めました。西ゾーンについては4階の室町小路広場から屋上に向けて171段の大階段を設置し建物内における最大の見せ場として機能させつつ、その階下にあたる百貨店については2階に正面玄関とグランドフロアを配し、各フロアを階段状に配置することで上層階に進むほどフロアが西側にスライドしていく構造となっています。これを活用して百貨店2階から11階までの10フロアに亘ってカスケード状にエスカレーターを配置、ストアのシンボルとして親しまれています。


ジェイアール京都伊勢丹の中央エスカレーター。

ウインドウショッピング感覚で上がれるしくみ。


②「私鉄モデル」の関連産業育成


阪急電鉄の創始者として知られる小林一三翁は鉄道を中心に不動産・百貨店・レジャー・エンタメなどの事業を展開し今に続く「阪急ブランド」を構築していきました。この事業手法は多くの私鉄各社の範となすものでありましたが、JRの前身の国鉄の場合は組織の性質上、営利目的における事業展開に大きな制約が課されていました。

現在の京都駅ビル建設について、旧国鉄時代から構想はあったものの、具体的に計画がキックオフしたのがJR化後であり、鉄道に偏重する収益構造の転換機運と重なり、駅ビル内の施設は基本的に自社グループ内での展開を志向したものとみられます。


JR西口と新幹線中央口直結の南北自由通路では

伊勢丹とグランヴィアのエントランスが向かい合う。


先に触れたホテルに関しては新たに「ジェイアール西日本ホテル開発」を設立し、「ホテルグランヴィア京都」を開業させています。百貨店については伊勢丹の出資を受けるかたちで連結子会社の「ジェイアール西日本伊勢丹」を設立、店名は「ジェイアール京都伊勢丹」としてオープンさせました。その他にもSC「ポルタ」(旧、ザ・キューブ)や京都劇場(旧、京都駅シアター1200)なども含めて、ほぼ全施設をJR西日本のグループ企業が手がけることで、多角化に向けてのノウハウ吸収とグループ収益力強化に資する取組がみられます。


③ターミナル駅周辺および沿線開発への貢献



京都駅ビル開業前の京都の商業機能は四条通界隈に集約されていて、京都タカシマヤと大丸京都店の2大店舗を中心に、四条河原町阪急、藤井大丸、京都ビブレ、BALといった大型商業施設が集積、さらには四条・河原町・新京極・寺町などの商店街も

対する京都駅地区には丸物から転じた京都近鉄百貨店や京都唯一の地下街「ポルタ」などがあったものの、基本的にはスーベニアニーズが殆ど。

そこに百貨店とホテルを中心としつつ、京都最大のグルメゾーンを含む延べ床面積238000㎡の「まち」が生まれたわけですから、大きなインパクトになることはまさに自明の理であるわけです。


京都駅ビルといえばこの大階段。

伊勢丹の各フロアと直結している。


また、京都駅ビル開業を機にJR西日本はJR京都線(東海道線の京都〜大阪間)のデータイムにおける京都発着の普通電車を倍増させるなどのダイヤ改正を実施、四条のライバル百貨店は「ダイヤまで弄れるのはJRならでは」と舌を巻いたそうです。

京都駅のハブ機能強化に伴ってJR京都線の向日市・長岡京市、琵琶湖線の大津市・草津市、嵯峨野線の亀岡市・園部町、奈良線の宇治市・城陽市などの沿線自治体の人口は軒並み急増、JR西日本の京都駅利用者(※東海道新幹線を除く)の1日あたりの利用者は駅ビル開業前の95年には約30万人だったものが開業5年で約34万人、開業10年で約36万人と急増、開業18年目にあたる2015年には初めて40万人を突破しています。駅ビルのみが利用客数の純増に直結しているとまではいえないまでも、駅ビルのプレゼンスの大きさの立証には繋がっているものといえます。



一方でこれは京都駅ビルにとっての課題ともいえ、伊勢丹のハウスカードのデータにおいても、メインの顧客はJRの4方面沿線在住者となっていて、裏を返せば洛中からの集客は依然として四条界隈がグリップを利かせている状況が開業から変わっていません。足元商圏の弱さをどう克服するのかは、京都駅ビル、また京都駅地区の地元における商業エリアとしてのプレゼンス強化に直結するため、避けては通れない道であります。


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