阪急阪神百貨店が直営している大阪・梅田の阪神百貨店(阪神梅田本店)が10月8日オープンします。それに先駆け、6日、7日にプレビュー(内覧会)を開催していて、早速見に行ってきました。皆さまにはひと足早く店内レポートをお届けします!

かといって報道などと同じ内容をここで延々と書き連ねても面白くないでしょうから、ここでは店頭やアイテムのご紹介ではなく、マーケティング的な見地からお話をすることにしますので、他のご祝儀的な記事に較べてやや辛口だと思いますが、オープン後に店頭をご覧になられる際の見方のひとつとして、ご参考になれば幸いです。

プレス関係ではないので、皆さん気になられるであろう店内写真は認められていないため、一切掲載はございません。ご容赦くださいませ。


食を中心にしたラインナップ

「阪神梅田本店」が正式店名になっていますが、これは阪急阪神の経営統合前からの名残の継承であって、実質的な本店機能は真向かいの阪急本店が担っています。よって、正式名称はややこしいため、本記事では阪急本店を「本店」、阪神梅田本店を「阪神」と記すことをお許し頂きたく思います。


阪神はもともと食に強い百貨店とされていて、「アンテノール」「ヴィタメール」「ルビアン」「柿安ダイニング」などの全国のデパ地下でお馴染みのショップは阪神を1号店としています。また阪神の鮮魚売場は近傍の歓楽街である北新地にある料亭なども仕入れに訪れるといい、まさに「玄人御用達」の店…こういうデパ地下も珍しいのではないでしょうか。

阪神はこの「食」を売上・集客両面の切り口にするべく、B1のみならず1階も食品オンリーにするとともに、9階にはレストランとフードコート、阪神電車の駅と接するB2にはバルを設けています。


全体環境

店頭に自然光を取り入れる取り組みも。


環境は非常によく考慮されています。「テラス」と呼ばれる中央部を中心に自然光が差し込むほか、B1にも2階までの3層吹き抜けが設けられ、地下階にも自然光が届く仕掛けは流石の一言。店頭は概ねナチュラルテイストで纏められ、ショップ同士は仕切り壁がないほか床面も統一されていて買い周りを強く促されます。


トラフィック構造

阪神の入る建物敷地はL字型になっていて、

南側(画像下)のトラフィックが悪い。

(Googleマップより)


建物のトラフィックですが、広い上にL字になっているため全館回遊の大きな障壁となっているようです。やはり今日見てみても建物西側の集客が南側に波及していませんでした。エスカレーター配置は2018年開業の1期棟に設けられている東と南に加え、今回開業時、西にダブルクロスのエスカレーターが設けられています。ここをダブルクロスにしたのは地下道(JR大阪駅サイド)からの誘導を考慮したのでしょうが、私は置くならもう少し場所を変えた方が良かったのではないかという気がしております。


ターゲット

阪神(左)・大丸(右)から西梅田方向を。

高感度なショップも並ぶ落ち着いた街並み。


阪神は1期棟オープンより社内で「西梅田OL」と呼ばれる若年層の女性の開拓に注力していますが、今回、OMO戦略と合わせて、その戦略をより先鋭化させています。バイヤー自らが「ナビゲーター」と称してSNSを駆使し顧客接点を持つという斬新な取組を実施、各アイテム別のナビゲーターは100人にも達するそう。使用するSNSツールは定められていないとのことですが、そのほとんどはインスタグラムを使っています。ここに10代後半〜30代前半にアプローチしようという狙いがはっきり見えます。

阪神は先の大阪万博が開催された1970年代ごろにヤングマーケットの開拓を実施、国内の百貨店有数のヤング向けフロアを誇った時期があり、そこから半世紀を経て顧客層の高齢化が問題となっていた(私はこれを「店が歳を取る」と表現しています)ところに、ナビゲーターの存在を軸にしたターゲットエイジのリプレースが実施されようとしているわけです。


MD及びゾーニング

ただしターゲットに対してMDがついていけていないのが非常に残念。ターゲット的には「ルクア大阪」に近いと思われますが、テイストやグレードにおいて何故ベンチマークが行われなかったのかがやや腑に落ちないところです。


2012年に7年半を掛け全館建替開業した本店は、

「東の伊勢丹・西の阪急」と形容される。


ひとつ申し述べれるのは、本店とのバッティングを極度に恐れたのでは、ということ。国内百貨店では伊勢丹新宿本店(東京・新宿区)に次ぎ、関西随一の商品力を持つ本店には有力ショップが名を連ねますので、差異化を図った結果がコレだということかも知れませんが、両店のターゲットを分析すると、本店3階の「シスターズクローゼット」あたりを丸ごと阪神に移しても良かったのではないかと考えます。


上記の理由によるものなのでしょうが、婦人雑貨・身廻品については少し厳しい表現になりますが、ラインナップを拝見するに郊外店クラスで苦戦を強いられると見ます。阪神はB1に次いで2階のロケーションが良いので、活用できないとなると非常に勿体ないので、ここも従前の百貨店がフォローしきれていなかったグレードとのミックスでオリジナリティを発揮できるのでは、と感じました。殊にコスメについては現段階でもリモデルが推進されており、プライスラインはやや下がるものとみられます。


(エイチ・ツー・オー リテイリング リリース)


ゾーニングについては従前の百貨店のものを踏襲したような感じを受けました。ただ上層階にフードコートがあるところと、B2をバルと銘打ち「酒」を強く打ち出したところは百貨店としては新しい取組だと思います。1階の食のフロアの構築はこれまでの百貨店の食品フロアのカテゴリー、ゾーニングと大きく異なり面白いのですが、「面白い」が数字に直結するのかは分からないところです。


改善ポイント①…ストア南側

全館フロアを3周以上して脚がパンパンになるほど歩いた中で(笑)、より良くなるポイントをお示ししたいと思います。


「阪急側」のトラフィックが1点となり、

ほぼ直角に折れ曲がってしまっている。

(エイチ・ツー・オー リテイリング リリース)


まずは先ほど触れた南側のトラフィックの問題。首都圏にある多くの有力百貨店のハード形状はスクエアになっているのでこの悩みはないのですが、大阪の百貨店は区画の問題からか、L字型の店が多いのです。阪神はもともと北東に欠けはありましたがほぼスクエアだったため理想的なトラフィックが描けていましたが、現在の店はもともと別区画の建物(新阪急ビル)と一体化して建設されたため東エスカレーター付近を支点にして約90度折れ曲がったトラフィックを構築せざるを得ませんでした。そもそも南側のエントランス機能が弱いことも相俟って建物南半分の集客に難が出てくることが想定されます。こういう場合には無理にワンフロア(横)でゾーニングしようとするより階層を超えて(縦)ゾーニングした方が有利です。また南側と北側でやや別のターゲットを設けて中央の「テラス」で出会うかたちにすれば、これまでにない賑わい性や文化性も生まれうると考えます。


改善ポイント②…ショップ誘致

期待の無印良品はグランフロント(写真)と、

ルクア大阪にも入っているが……


次に有力テナントの誘致について。具体的な論評は避けますが見慣れないブランドも多く、目新しさはあって見ていて楽しいのですが、尖ったショップがみられず数字が全く読めません。有力ブランドについては定借で入居させる取組も必要です。とりわけ今よりもグレードを落としたラインナップを揃えないとターゲットの獲得は難しいでしょう。7階に12月にオープンする「無印良品」は全館に相当良い影響を与えると思われますが、その影響を最大限享受するためには無印の入る南側の上下階にうまく回遊してもらえる仕掛け…ハッキリ申せば親和性の高いショップ…を導入することは非常に大切です。


改善ポイント③…トラフィック

ダブルクロスエスカレーターが端すぎるのが、
全館トラフィックにどこまで影響するか?
(エイチ・ツー・オー リテイリング リリース)

最後にトラフィックですが、ダブルクロスのエスカレーターがなぜ建物中央ではなく端に寄せたのか、という疑問は残ります。地下階からのアクセスを考慮したとはいえ、あれでは1階以上の全館トラフィックが偏重してしまうのですが、作ってしまったものは仕方ないということで、それを補うための手段としてパブリックな環境、とりわけレストスペースの増設が望まれます。現在はコロナ禍で設置が見送られているものと推察しますが、旧館時代から見ていて今回の構造を重ね合わせると、オープンから数ヶ月くらいしてくるとトラフィックが弱いところが必ず出てくるはずですので、そこは思い切ってパブリックなスペースとしてストア全体の回遊性の強化に繋げて欲しいと考えています。


まとめ…最後に数字

対峙し合うように見える「阪急」と阪神だが、
実は同一企業の本店と支店が並び立っている。


7年を掛けた阪神のリモデルがいよいよオープンするということで、阪急阪神百貨店のファンのひとりとして感慨を覚えると同時に、真向かいに建つ本店とともに全社で力を合わせて大阪・梅田地区の魅力をさらに高めていって欲しいと念じます。

22年度売上(総取扱高ベース)目標は730億円、これは相当意欲的に映ります。リアルで言えば500億円前後、達成率7割くらいかな、というのが私の見立てですが、OMO戦略の成否次第ではECで積み上げが期待できるのでしょうか…そこまで私は考慮に入れておりません。


阪神の新しいショッパーはどことなく

阪急の花柄ショッパーを意識した!?


それにしても新店を色々考えながら拝見するのは非常に楽しいものです。少額ですがショッピングも楽しませて貰って、新しいショッパーも頂きました。阪急阪神百貨店は来年に神戸阪急(神戸・中央区)のリモデルも控えますし、新しい百貨店のありかたに向けてのトライアルが成就することを陰ながら応援する意を示し、記事を閉じたいと思います。