「国鉄民営化」「郵政民営化」を筆頭に、公的なものを民営化することが現代の流れのようにいわれています。大阪市は18年に市営地下鉄を民営化し、「Osaka Metro」(オオサカメトロ)として始動されていますが、今回は民間運営の私鉄を市営化したという逆の事例を取り上げたいと思います。


都市部から僅か8分で農村へ…

「北神急行電鉄」路線図。

基本、全便が地下鉄西神・山手線に直通する。

(国交省資料より)


「北神急行電鉄」は市街地に位置する新幹線接続駅である新神戸駅(中央区)から六甲山地をトンネルで貫き山の背後、神戸電鉄有馬線(湊川-有馬温泉間)との接続駅となる谷上駅(北区)をノンストップ、8分で結ぶ路線です。北神急行電鉄そのものは阪急電鉄グループ(現・阪急阪神ホールディングスグループ)に属する純粋な民間企業ですが、新神戸駅から市営地下鉄の西神・山手線との相互直通運転が行われ、開業時より神戸の中心・三宮にも乗り換えなしの所要時間10分で繋いでいます。北神急行開業前は乗り継ぎありで30分もかかっていたので、移動時間が1/3も縮まったことになります。


高額な建設費が重荷に

ただ、1駅だけの区間といえ7.5km区間の殆どを山岳トンネルという構造から、トンネル総工費が555億円(神戸市交通局100年史)と膨らみ、北神急行線の開業に必要な谷上駅の高架化移転等の工費を含めると700億円超の支出となった模様。それを料金で回収するため、新神戸-谷上間は1駅8分で430円という高額な運賃設定となりました。流石にこれには利用者からの不満が噴出し、神戸市・兵庫県等の支援により運賃の値下げが図られたものの、2019年の時点での運賃は谷上基準で新神戸まで370円、三宮まで550円という高額さは変わらず、利用客数が低迷。当時の北神急行電鉄の決算資料をみれば資産(簿価)が400億円、負債が650億円、つまりはざっと250億円もの債務超過に陥っていました。


久元喜造市長の大英断→市営化

北神急行電鉄の保有車両7000系。

グループの阪急電車とそっくりのインテリア。


2019年の正月、神戸市の久元喜造市長は初詣がてら引いた神社のおみくじで「動かざるべき年」と出たといいます(市長ブログより)。しかし久元市長はおみくじに「反し」、市民とりわけ北神急行線の利用者の多くを占める北区民に寄り添う決断をします。神戸市から北神急行電鉄を傘下に収める阪急阪神ホールディングス(阪急)に対して北神急行線の市営化を打診、話を受けた阪急も債務超過解消の見通しのつかない同社の扱いに困窮していたとみられ、話し合いの末に北神急行線の簿価資産400億円を198億円で取得し、20年6月には「市営地下鉄北神線」としてリスタートを切りました。


ダイナミックな交通戦略

久元喜造市長率いる神戸市の戦略はおもに2点です。ひとつは市域の公共交通を担う民間会社の救済。「救済」と言うと聞こえは悪いのですが、民間公共交通を運営する企業体が傾きかかっているのでは、いずれは安定的な輸送に弊害が起こります。これは公営交通存立のベースと言って良い事案であり、まさに北神線におけるベストな判断であります。


北神線市営化による大幅値下げを伝えるPOP。

様々な掲示物などで利用者に強力に訴求。


もうひとつは市域の均衡ある発展。北神線市営化により谷上から新神戸・三宮まで280円へと運賃値下げを図りました。北神線がらみで利用者が集中する谷上から三宮までおよそ半額という値下げ幅は日本の鉄道事業者で前例がありません。市営化した20年6月からの1年で、コロナ禍に見舞われた中で北神線の乗客は1割増え、平日日中、これまで閑散としていた谷上方面に向かう三宮駅地下2階ホームは電車を待つ乗客の列ができるようになっています。この施策は明らかに市域のトラフィックを動かしました。


北神線をより活用する仕組みを!

地下鉄三宮駅の谷上行きホームには、

平日日中でも多くの待ち客が並ぶようになった。

(ブレブレですみません💦)


私は先日、有馬温泉に行く際に北神線を利用しました。三宮から30分弱、680円で非日常の温泉街に出向けることは、実のところ神戸市民の方ですらご存知でない方もおられるようです。

逆に街と近いことが強調されすぎると日帰り客が増えすぎる可能性がある一方で、都市部に近い温泉地のメリットをしっかり活用したいところです。


宿泊でお世話になった「有馬きらり」からの眺望。

私ならこんなところで仕事がしたい………


一例として、ワーケーションの取組が考えられます。ご存知の方も多いと思いますが、ワーケーションとは「work」+「vacation」からなる造語で、休暇先で仕事をする新しい働き方で、都市に住まう人たちと地域との接点づくりとして注目されています。新たな首都圏ではおもに東京から100km圏の範囲でのワーケーションの取組が功を奏し、湘南や千葉などでの取組がさかんです。近畿圏では和歌山・白浜町や奈良・十津川村がこの動きに積極的で、仲良くさせていただいているベンチャー企業も参画していて、お話を伺うと、離島などオフィスから遠すぎるロケーションでは危機管理の観点からワーケーションとしては成立しづらく、先ほど申した「100km圏内」がキーになるようです。となると、三宮まで30分、大阪までも高速で1時間ほどの有馬は非常に有望です。

神戸市のワーケーションについての取組についてはまた記事を改めてお話ししたいと思いますが、このように、久元市長の英断で決まった北神線の利活用について、さまざまな視点からのアイデアが生まれれば良いと願っているところです。


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