本書は、安全保障研究者の五十嵐隆幸氏が、
台湾海峡をめぐる問題を
「中国はいつ台湾に侵攻するのか」
という単純な予測ではなく、
歴史、軍事力、米中関係、抑止と
危機管理の仕組みから総合的に分析した一冊です。
著者は1895年の日本による台湾領有から、
国共内戦、冷戦、台湾の民主化を経て現在までを
たどり、今日の緊張が長い歴史の積み重ねに
よって生まれたことを示します。
具体例として、1949年に中国共産党が
中華人民共和国を成立させる一方、
蔣介石率いる国民党は台湾へ移りました。
当時は中国側だけでなく、台湾側も「大陸反攻」を
掲げており、双方に武力によって現状を変える
可能性がありました。
1950年代以降、米国が台湾海峡に関与することで
双方の軍事行動を抑え、現在につながる
「現状維持」の枠組みが形成されていきます。
本書の重要な論点は、中国の軍事力が強大になった
からといって、直ちに台湾侵攻が起きるわけでは
ないという点です。
台湾海峡を渡る大規模な上陸作戦には高い
軍事的リスクがあり、台湾側の防衛力、
米国の介入、中国が負う政治・経済的損失など、
多くの要因が中国指導部の判断を制約します。
本書は軍事侵攻だけでなく、圧力を強めながら
「戦わずして統一」を目指す可能性についても
検討しています。
そして日本にとって大切なのは、
「台湾有事」を既定路線として語るのではなく、
有事を起こさせないための抑止と外交、
危機管理をどう機能させるかという視点です。
台湾問題を中国対台湾だけの問題ではなく、
米中関係や日本を含む東アジア全体の安定という
観点から考える必要があります。
危機を煽るのでも楽観視するのでもなく、
台湾海峡の平和を維持する条件を
冷静に考えるための一冊です。
