本書は、2000人以上を在宅で看取ってきた
緩和ケア医・萬田緑平氏が、
「どう生き、どう死ぬか」
を現場経験から語った一冊です。
本書の中心にあるのは、
「歩けるうちは、人は死なない」
という非常に印象的な言葉です。
著者は、寿命を左右するのは
単なる病名や検査数値ではなく、
「歩こうとする気力」と
「生きる意志」だ
と説いています。
本書では、現代医療への鋭い問題提起がなされています。
日本では「少しでも長く生きること」が善とされがちですが、
著者は
「延命」と
「幸福」は
必ずしも一致しないと指摘します。
例えば、点滴や胃ろう、
過剰な抗がん剤治療によって身体の自由を失い、
病院のベッドで苦しみながら長く生きるよりも、
住み慣れた自宅で好きなものを食べ、
会いたい人と過ごしながら
自然に最期を迎えるほうが幸せではないか、
と問いかけます。
特に印象的なのは、著者が実際の患者のエピソードを
数多く紹介している点です。
例えば、余命1〜2週間と宣告されたがん患者に対して、
著者は「とにかく歩きましょう」と伝えます。
普通なら安静を勧めそうな場面ですが、
患者は少しずつ外を歩き、
自分で動くことで表情が変わり、
生きる力を取り戻していきます。
中には亡くなる数時間前まで歩いていた患者
もいたといいます。
著者は、歩行能力とは単なる筋力ではなく、
「脳の活力」
「気力」
の表れだ
と説明しています。
また、本書は「ひとり暮らし」や「孤独死」に
対する一般的なイメージにも一石を投じています。
世間では孤独死は不幸と捉えられがちですが、
著者は、家族に気を遣い過ぎず、
自分らしく自然体で最期を迎えられるケースも多い
と語ります。
さらに、「認知症は長生きしたい人にとってはむしろ有利」
という逆説的な話も登場し、
読者の固定観念を揺さぶります。
著者自身は、かつて外科医として最先端医療に
携わっていました。
しかし、管につながれ苦しみながら亡くなる患者を
見続ける中で、
「本当にこれが人間らしい最期なのか」
と疑問を抱き、
在宅緩和ケアの道へ進みました。
その経験から、本書では「治療中心」ではなく、
「その人らしく生ききること」を重視しています。
本書は単なる終末医療の本ではありません。
「死を考えることは、より良く生きることにつながる」
という哲学が根底にあります。
歩くこと、食べること、人と笑うこと―
―そうした日常の営みこそが人生の本質であり、
健康寿命とは単に長生きすることではなく、
「自分らしく生きられる時間」
を意味するのだと教えてくれます。
老いや病気への不安が強い現代だからこそ、
多くの人の心に響く一冊です。
