以前にも投稿しましたが、「コクヨ」による間接的な「ぺんてる」の筆頭株主化。


1) 正確に言うと、

「ぺんてる」の筆頭株主は東証1部に上場している投資会社のマーキュリアインベストメントが運営するファンド(37%を出資)。


そのマーキュリアは2018年、「ぺんてる」の創業一族(創業者の孫の堀江圭馬氏)から保有株を譲り受け筆頭株主になりました。

 

このファンドに「コクヨ」が5月10日に101億円を出資し、間接的とはいえ事実上、「ぺんてる」の筆頭株主になりました。


これは「ぺんてる」の和田社長は「一方的な行い」だと言っています。


「ぺんてる」は、未上場の会社ですので、同社の株式の売買には取締役会の承認が必要な譲渡制限がついています。


この譲渡制限条項については、


ファンド側は、

「ファンドへの出資者が変わっただけで、ファンドが「ぺんてる」株を持っている状態に変わりはなく違法ではない。大手弁護士事務所のお墨付きももらっている」

と言っています。


一方「ぺんてる」側は、

「当社取締役会の承認が必要な株式譲渡につながるような、当社株式を保有する組合出資持ち分の譲渡を決定、しかも公表直前に当社に連絡があった事実は大変遺憾」

として、脱法行為だと反論しています。


この件については、個人的には上場企業であるファンドへの譲渡を認めた時点で、そのファンドへの投資家が変わる可能性があることはわかっていたはずですから、法的にも道義的にも問題ないと思います。


2) 「ぺんてる」の和田社長が怒る理由はもう一つあるようです。


「ぺんてる」は水面下で文具大手の「プラス」との資本提携の話を進めていたそうです。


「ぺんてる」からすれば、

「「プラス」との交渉を一方的につぶされて、突如、「コクヨ」と組まされることになった」

と憤慨しているようです


「マーキュリア」は筆頭株主として社外取締役を「ぺんてる」に送り込んでいるため、「プラス」との提携の内容も把握していたはずです。


「マーキュリア」とすれば、「「ぺんてる」が「プラス」との提携内容が「ぺんてる」にとって不利な内容が多かったと思ったために、「コクヨ」を提携相手として連れてきた、ということでしょう。


「ぺんてる」と「プラス」は共同出資会社を立ち上げる予定だったようですが、その株式のマジョリティーは「プラス」側だったようですし、「ぺんてる」が利益を上げるには相当な売り上げ増を必要とする無理な計画であったようです。


そこで、「マーキュリア」は

「今の計画で「プラス」と組むと「ぺんてる」の企業価値が毀損する」と感じて「コクヨ」を引き込んだようです。


そして「コクヨ」は「ぺんてる」が今後も成長が期待できる中国事業に強みを持つため「一緒に成長できる」と判断したようです。


投資ファンドのマーキュリアとしては、いずれやってくる株の売却時に高値で売るためには、ぺんてるの企業価値をできるだけ上げておく必要があります。


「ぺんてる」は2018年3月期の連結売上高が409億円。


一方、「コクヨ」は2018年12月の連結売上高が3,151億円と企業規模では大きな開きがあります。


それでも世界初のノック式シャープペンシルを発売した「ぺんてる」の老舗のブランド力は強く、海外売上高比率は6割を超えます。

一方で「コクヨ」の海外売上高比率は1割に満たないようです。オフィスのデジタル化による文房具離れや人口減による国内市場の縮小に悩む「コクヨ」にとって、「ぺんてる」が持つ海外販路は魅力的でしょうね。


3) 今回の一連の動きの底流には「「コクヨ」と「プラス」の綱引きがある」と指摘する業界関係者もいます。


「プラス」は売上高が年間1700億円強と総合文具メーカーとして「コクヨ」に次ぐ地位です。

「コクヨ」が得意なノート分野を含めて積極的な買収を重ね、営業などを巡る攻防は文具業界では「PK戦争」と称されるほどです。

業界関係者は「「プラス」と「ぺんてる」が一緒になることへの警戒感もあったのではないか」と分析します。


4) 更にこの話をややこしくしているのは、「ぺんてる」と既存株主の関係です。

「ぺんてる」が株主に送付した総会の招集通知によると、「ぺんてる」の個人株主が会社側に株の買い取りと増配を提案しているそうです。

2018年に創業家がマーキュリアに「ぺんてる」株を高値で売却したのにも関わらず、この株主に「ぺんてる」は「1株125円でなければ買い取りできない」と通告したそうです。

取締役会の承認がなければ売却できない制限があるため、個人株主は不満を強めているといわれています。

株主は発行済み株式の3%を上限として買い取るよう会社側に提案しています。

取得総額は5億4000万円になるとみられます。

国内市場で苦戦し減収減益が続く「ぺんてる」は「自社株買いは財務体質が悪化する」という理由で反対しています。このため個人株主と「ぺんてる」はそれぞれ他の株主に文書で賛同を求めている、という状況です。

「ぺんてる」が反対する理由は取得額の高さだけではなく、自社株買いが実行されれば株式総数が減り、「コクヨ」が大口出資者となったファンドの議決権割合が相対的に高まることです。

これは「コクヨ」の影響力が高まることを意味します。しかし、21日になってマーキュリアは個人株主の提案には賛同しないと発表しました。


今回の事例は、非公開企業も今や株主ガバナンスとは無縁ではいられない、という教訓を教えてくれました。

と同時に、株主ガバナンスを行使した結果、経営陣とのあつれきで企業価値が向上するどころではない泥沼に陥るリスクもある、という副作用にも気づかせてくれました。


私も小さな会社のオーナー経営者ですが、他の株主との友好な関係も大切だとと再認識させられました。


それでは、また。(^_-)