ある取引先からメールが届きました。

内容は、

その会社が企画していたセミナーを

「延期します」という連絡でした。

 

私はそのメールを見て

「なんだ、こりゃ」と思ってしまいました。

別に、セミナーが延期になったことに

怒っているわけではありません。

 

そのセミナーは、

私とその会社の社長で企画していたものですが、

実際に開催するのは先方の会社。

私は開催予定日を丸々空けていました。

 

ところが、そろそろその周辺の予定も埋まってきた。

そこで、

「セミナーは予定どおりやるのか、延期するのか、

そろそろ教えてください」

と連絡しました。

 

すると返ってきたのが、

「今回はセミナーを延期いたします」

というメールでした。

しかも、

「本来はこちらからご連絡すべきところ、

申し訳ございません」

と、丁寧なお詫びまで書いてあります。

 

延期すること自体は、別に構いません。

ビジネスをやっていれば、

予定が変わることなんていくらでもある。

問題は、

「決めたのなら、早く言ってください」

ということです。

 

つまり、先方にとっては「セミナーを延期した」

という一つの出来事でも、

こちらにとっては、

その間ずっと予定を拘束されていたわけです。

「貴重な時間を奪われていた」状態です。

 

これは単に連絡が遅れたという話ではありません。

「相手にどれだけ迷惑をかけているのか」

という想像力が欠けている、

という話になってしまう。

 

会社の信用をつくるのは大変です。

約束を守る。
期限を守る。
きちんと連絡する。
一つひとつの仕事を丁寧にやる。

 

そういう小さな行動を積み重ねて、

「この会社なら大丈夫」

という感覚が、少しずつできていく。

階段を一段ずつ上るようなものです。

 

ところが、信用をなくすときは、

急降下するエレベーターの時があります。

 

約束を守らない。

納期に間に合わない。

イベントを中止する。

それ自体は、仕方のないこともあります。

 

問題は、そのことが分かった時点で、

相手に早く伝えているかどうかです。

「間に合いません」

と分かったなら、早く伝える。

 

そうすれば、相手も次の手を考えられる。

予定を組み直すこともできる。

別の仕事を入れることもできる。

つまり、相手の負担を最小限にするために動く。

それが、私はビジネスにおける配慮だと思います。

 

ところが、これを怠ると怖い。

一つの約束を軽く扱ったことが、

「この会社に大きな仕事を任せて大丈夫だろうか」

という話につながってしまうからです。

 

今回の取引先は、これまでの付き合いも長く、

私自身も信頼している会社です。

だから今回は、

「まあ、今回は勘弁しましょう」です。

 

でも、もしこれが初めて付き合う会社だったら。

私は、おそらくその会社と

大きな仕事をすることには慎重になります。

 

ビジネスの信頼というのは、

つくるのは時間がかかる。
なくすのは、一瞬です。

だからこそ、約束を守ること以上に、

約束を守れなくなったとき、どう振る舞うか。

そこに、その会社の本当の信用が出るのだと思います。

先日、人事課から、

某課長の「360度評価」の依頼がありました。

課長から次長に昇格するための評価です。

 

360度評価とは、

上司だけでなく部下や同僚など、

立場や関係性の異なる複数の人から

評価してもらう人事制度です。

 

昔の会社員の評価といえば、

基本はシンプルでした。

上司が部下を評価する。

だから会社員も、

ある意味では分かりやすかった。

「上司からどう見られているか」

ここを気にして仕事をしていればいい。

 

もちろん、それがいいことだとは限りません。

上司との相性が大きく、

「上司に気に入られている人が評価される」

ことも多い。

逆に、仕事はできても上司との相性が悪ければ、

なかなか評価されない。

 

ところが、360度評価になると話が変わります。

上司だけではない。

部下も同僚も後輩も評価する。

「上司の顔だけを見て仕事すればいい時代」

ではなくなった。

しかも、評価は原則匿名。

360度、どこから評価されるか分からない。

まあ、今どきの管理職も大変です。

 

上司から見れば「頼りになる課長」。

部下から見れば「話しかけにくい課長」。

同僚から見れば「ちょっと面倒な課長」。

本人は「いい課長」のつもりでも、

見る方向が変われば、景色も変わる。

だから360度評価は、面白い。

自分では気づかなかった一面が見えてくる。

 

360度評価にも良い面、悪い面はあるでしょう。

匿名だからこそ率直な意見が出る一方で、

個人的な好き嫌いが入り込む可能性もある。

 

結局、人が人を評価する以上、

完全な客観性などありません。

だから私は、

360度評価を

「正しい評価をする仕組み」というより、

「自分が周囲からどう見えているのかを知る仕組み」

くらいに考えたほうがいいと思います。

 

「周りから、自分はどう見えているのか」。

管理職になればなるほど、

この視点が重要になる。

昔は上司を見ていればよかった。

今は、360度。

会社員も、ずいぶん忙しい時代になりました。

先日、出張のため羽田空港から

飛行機に乗ろうとしていたときのこと。

 

搭乗口では、別の便の搭乗が始まっており、

乗客は次々と搭乗し、

全ての乗客が機内に入った思ったとき、

JALの地上スタッフが、

「○○様、いらっしゃいませんか!」

と、大きな声で呼び始めました。

 

どうやら、

搭乗手続きをしない人が一人いるらしい。

 

さらに場内アナウンスでも、

「○○様、搭乗口へお越しください」

と呼びかける。

それが何度も続く。

乗り遅れた乗客一人のために、

空港全体がその人を探しているような状態。

 

その人はすでに手荷物検査を終えて、

搭乗ロビーのどこかにはいる。

5分くらい

スタッフも必死に呼び続けています。

 

私はだんだん、

「その人を置いて飛んでもいいんじゃないか」

と思い始めました。

 

飛行機の中では、

他の乗客はとっくに座席に座っている。

シートベルトも締めている。

あとは飛ぶだけ。

なのに、一人だけ来ない。

そして、その一人のために全員が待っている。

 

すると、出発間際になって、

30代くらいの会社員らしき男性が小走りで登場。

何事もなかったように搭乗手続きを済ませ、

飛行機の中へ入っていきました。

 

彼が機内に入った瞬間、

周りの乗客から一斉に

「白い視線」を浴びたのではないか。

そんな光景が目に浮かびます。

 

この一件を見ていて、

会社員の仕事も同じだなと思いました。

会社の仕事は、一人で完結するものより、

チームで進める仕事のほうが多い。

 

誰かが資料を作り、誰かが確認し、

誰かがそれをもとに次の仕事をする。

当然、各々の仕事の期限も決まっています。

 

ところが、必ずいるんです。

「すみません、まだできていません」という人が。

本人にとっては、

自分の仕事が遅れているだけかもしれません。

しかし、チームにとっては違います。

一人の遅れでプロジェクトが遅れる。

 

飛行機の搭乗口で5分間呼び続けられる人と、

会社で何度も催促される人。

どちらも共通しているのは、

「自分一人の問題だと思っている」

ことなのかもしれません。

 

チームで仕事をするというのは、

実はそういうことではない。

自分の仕事の「締め切り」は、

自分だけの締め切りではない。

 

飛行機は一人の乗客を待ちます。

しかし、会社のチームは、

いつまでも待ってくれるとは限りません。

「一人の遅れ」が、チーム全体の信用を削る。

あの日、羽田の搭乗口で、

そんな当たり前のことを

改めて思い知らされました。

先日、私が所属する業界団体の会長が、

厚生労働省の検討会に出席しました。

団体を代表して意見を述べるので、

私たちスタッフで発言案を作り、

会長に渡しておきました。

 

制度について問題点はあるものの、

行政の検討会ですから、

まずは少しオブラートに包んで発言しましょう、

という内容です。

 

ところが、会長が発言を始めると、様子が違う。

こちらが用意したオブラートを、

会長が「メリメリ」と全部剥がしてしまった。

 

制度の問題点を、

かなり具体的にズバズバ指摘していく。

私は内心、「そこまで言わなくても……」

と焦りました。

 

この会長、普段は非常に物静かな人なのです。

団体の会議や打ち合わせでも、

自分の意見を前面に出すタイプではない。

 

ところが、公の検討会に出ると、

実に堂々と発言する。

今年6月に就任したばかりなので、

私もまだ会長のことをよくわかっていなかったわけです。

 

面白いのは、前の会長とはまったく逆なこと。

前の会長は、

普段の会議では自分の意見をどんどん言う人でした。

ところが、行政の検討会になると、

途端に発言のトーンを落とす。

 

普段は静かな人が、本番では強くでる。

普段は強い人が、本番では慎重になる。
人は、なかなか面白いものです。

 

私たちはつい、

「あの人はこういう人だ」

と決めつけてしまいます。

しかし、それは自分が見ている一面。

 

人は、置かれる場所や立場によって、

別の顔を見せる。

長く一緒に仕事をしていても、

「この人のことはわかっている」とは限らない。

今回の一件で、改めてそう思いました。

 

人は難しい。
だから、面白い。

最近の会社は、若手社員に親切です。

半年に一度、上司との面談があって、

「これからどんな仕事がしたいですか」

「どこで働きたいですか」と聞いてくれる。

「できれば転勤したくありません」

と言えばその希望も一応聞いてくれる。

 

さらには「キャリアチャレンジ」なる制度。
一定期間、別の部署を経験してみることができる。

海外研修や海外トレーニー制度もある。

昔の会社員からすると、羨ましい話です。

 

私たちの頃は、

「配属されたところで頑張りなさい」が基本でした。

「営業は嫌です」
「大阪支店には行きたくありません」

そんなことを言おうものなら、

「君、会社に何をしに来たの?」で終了。

会社が仕事を決め、社員はそれに応える。
それが会社員というものでした。

 

ところが、今は違います。

会社は若手社員に、

「あなたは何がしたいですか?」と聞く。

つまり、会社が社員のキャリアを決める時代から、

社員自身がキャリアを考える時代になった。

 

背景には若手社員の離職防止があります。

「この会社にいながら、やりたいことに挑戦できますよ」

「あなたのキャリアについて、会社も一緒に考えますよ」

というわけです。

転職しなくても、

自分の可能性を広げられる会社にしよう。

これは、とても健全な考え方です。

 

ただし、ここには会社にとって、

ちょっとした「副作用」があります。

若手社員に選択肢を与えると、

若手社員は会社そのものを評価し始める。

 

他部署を経験すれば、自分の部署と比較でき、

海外に行けば、外の世界を知ることができます。

キャリアについて考えれば、

「自分は、この会社で何をしたいんだろう?」

という、少々やっかいな問いにもたどり着きます。

そして、ときには、

「やっぱり、この会社じゃないかもしれない」

という結論にたどり着く。

 

会社としては、

若手に成長してもらうために用意した制度です。

ところが、その制度を使った結果、

「会社を辞める」可能性もある。

なんとも皮肉な話です。

 

だからといって、この人材不足の時代、

会社が何もしないわけにもいきません。

これからの会社に必要なのは、

社員を「囲い込む」ことではないのだと思います。

いろいろな選択肢を見せたうえで、

「優秀な社員を見極め」、

その社員に「この会社にいたい」

と思ってもらえる会社になること。

 

会社も社員も、お互いに「見極める」。

どうやらこれからの会社員人生は、

「会社が社員を選ぶゲーム」から、

「会社と社員がお互いを選ぶゲーム」

へと変わっていくようです。

 

だからこそ、会社が若手社員に
「あなたは何がしたい?」と聞くことには、
それなりの覚悟が必要なのだと思います。