先日、新入社員の配属が決まりました。

研修で講師を担当したこともあり、

何人かが挨拶に来てくれました。

 

「何か一つ、アドバイスをお願いします」

そう言われたので、私はこんな話をしました。

 

仕事で一番やる気が出る瞬間は。

目標を達成した時でしょうか。
興味のある仕事を任された時でしょうか。

もちろん、それもあります。

でも、多くの人が本当に力が湧いてくるのは、

「ありがとう」と言われた時です。

 

私たちは、
「大きな成果を出せばやる気が出る」
と思いがちです。

でも実際は違う。

「ありがとう」

たった五文字の方が、人を長く動かします。

 

仕事というのは、不思議なものです。

誰かの役に立った。
その相手が笑顔で「ありがとう」

と言ってくれた。

それだけで、「もう少し頑張るか」

と思えてしまう。

人間は、意外と単純です。

 

そこで新入社員には、一つだけお願いしました。

配属されたら、
たくさんの人に助けられます。

仕事を教えてもらう。
失敗をフォローしてもらう。
困った時に手を差し伸べてもらう。

 

そのたびに、

「ありがとうございました」

と言ってください。

しかも、普段の二倍の声と笑顔で。

「いや、それは大げさでしょう」

そう思うかもしれません。

でも安心してください。

 

ファストフード店で、

たまにとびきり元気な店員さんを見ます。

あの人たちは、

皆さんの五倍くらいの声で挨拶しています。

 

二倍なんて、全然普通です。

むしろ、「感じのいい新人だな」

くらいで終わります。

そして、その一言が案外効く

 

組織の中で一番価値がある人は、

仕事ができる人だけではありません。

周囲をいい気分にして、
「もう少し頑張ろう」
と思わせる人です。

 

そんな人のまわりには、
自然と人が集まります。

仕事も集まります。

信頼も集まります。

 

会社員人生は、
能力だけで決まるゲームではありません。

「ありがとう」をちゃんと伝えられる人が、
最後は強い。

 

新入社員へのアドバイスは、これに尽きます。

「二倍の『ありがとうございました』で、

社会人を始めてください。」

その一言が、
あなたの会社員人生で、

一番利回りの高い投資なるはずです。

先日、あるセミナーで講師を務めました。

参加者は90人ほど。
無事に終わってホッとしていると、

何人もの方が声をかけてくれました。

「今日の話、役に立ちました」
「またぜひ聞きたいです」
「現場で使えそうです」

ありがたい話です。

 

もちろん、講師をやったからといって

給料が上がるわけではありません。
肩書が増えるわけでもない。
しかし、不思議なものです。

「ああ、やってよかったな」

そう思う。

 

そしてさらに厄介なことに、

「次はもっといい話をしたい」
「この内容をもっと磨こう」

などと思い始める。

人間とは、なかなか単純な生き物です。

 

今回のセミナーも、準備は結構大変でした。
資料を作り、構成を考え、何度も修正する。

正直、楽ではありません。

でも、「役に立った」「ありがとう」と言われると、

不思議と苦労を忘れる。

そしてまた、次の挑戦をしたくなる。

 

結局、人は給料だけでは、

そんなに頑張れないのかもしれません。

仕事は、楽しいことばかりではありません。

むしろ、

「なんで俺がやるんだ」
「面倒くさい」

そんなことの方が多い。

 

それでもやる気が漲る時がある。

それは、

たまに訪れる「やりがい」を感じる時。

 

若い頃のやりがいは分かりやすい。

「できなかったことができるようになった」
「成長した」「昇進した」

こういう自分自身の変化が燃料になります。

 

しかし、40代、50代になってくると、

少し変わってきます。

「人の役に立てた」
「ありがとうと言われた」
「助かったと言ってもらえた」

こういうことの方が、じわじわ効いてくる。

年齢とともに、「やりがい」も変わるのです。

 

ところが会社という場所は、放っておくと

「やりがい欠乏症」になりやすい。

会議は増える。
雑務も増える。
責任も増える。

その割に、
「ありがとう」は減る。

 

これでは、エンジンも止まります。

だから、ミドル・シニア世代こそ、

自分から「やりがいの現場」に出ていく必要が

あるのだと思います。

 

後輩を育てる。
人に教える。
誰かの相談に乗る。
小さくいいから、人の役に立つ場面をつくる。

そうすると、

「まだ役に立てる」
「もう少し頑張ってみるか」

という気持ちが湧いてくる。

 

仕事の向上心というのは、

「やりがい」という燃料があってこそ、

走り続けられる。

根性論では長続きしません。

若い頃は「成長」が燃料だった。

そして年を重ねると、
「誰かの役に立てた」が燃料になる。

 

そして、「やりがい」は、
会社員人生における最高級のハイオクガソリン

なのかもしれません。

先日、ある団体の事務局長が退任しました。

この話、まず年齢を聞いてください。

85歳。

 

普通、85歳の事務局長と聞くと、こんな姿を想像します。

・大きな机にふんぞり返る

・部下に「それ、やっといて」と指示する

・パソコンは「見る専」

・ITの話になると、急に遠くを見る

ところが、この事務局長は違いました。

つい最近まで、自分でパソコンを操作し、

資料を作り、しかもブラインドタッチで作業していた。

 

正直、うちの60代の役員より、

はるかにICTリテラシーが高い。

うちの役員にICTの操作を教える時、

「火を起こすところから教えるの?」

と思う瞬間があります。

 

この方、東大を卒業し、一流企業に入社。

その後、この団体の設立にも関わり、

事務局長を約30年務めました。

 

70代くらいから、

東大の同級生にこう言われたそうです。

「お前、まだ働いてるの?」

 

まあ、言われますよね。

同級生たちは、

大企業や官庁でキャリアを終え、悠々自適。

一方で、この人は85歳まで現場で働いている。

 

でも、私は思うんです。

この事務局長は、「働かされていた」のではなく、

「働き続けたかった」のだと。

 

退任にあたって、会員企業から感謝の言葉が次々に出ました。

・「この協会は、この人がいなければ回らなかった」

・「本当に助けられた」

・「相談すると必ず動いてくれた」

この人は「人の役に立っている実感」

で働いていたのではないかと。

 

ここが大事です。

会社員も同じです。

どれだけスキルが高くても、

「やりがい」がなければ、その組織に長くはいられない。

そして、「やりがい」というのは、

だいたい「人の役に立った瞬間」に生まれる。

 

逆に言えば、

・誰の役にも立っている実感がない

・感謝もされない

・自分がいてもいなくても変わらない気がする

こうなると、どんな高給でも、

人はじわじわ消耗していきます。

 

しかも、この事務局長がいたのは業界団体です。

業界団体というのは、簡単そうに見えて、

実はかなり難しい。

 

なぜなら、いろんな会社、いろんな立場、

いろんな思惑の人たちが集まっているからです。

つまり、必要なのは「正論」だけではない。

ハンドリング力

 

もう少し分かりやすく言えば、

・空気を読む力

・根回し力

・調整力

・「まあまあ」と言える力

・そして、誰にも嫌われすぎない力

このあたりが、実務ではものすごく効く。

 

85歳まで続けられたのは、

単に頭が良かったからではなく、

人との関わり方が上手かったからでしょう。

 

この事務局長を見ていて、改めて思いました。

会社員人生の後半で、本当に残るのは何か。

それは、役職でも、年収でもなく、

「この人がいてくれて助かった」

と思われるかどうか、なのではないかと。

 

もちろん、若い頃はスキルも大事です。

成果も必要です。

でも、年齢を重ねるほど、「何ができるか」より、

「誰にどう役立っているか」が効いてくる。

 

85歳まで働くかどうかは、人それぞれです。

ただ、一つだけ確かなのは、

やりがいのない仕事を、

85歳まで続ける人はいない。

ということです。

 

人は、役に立つから動く。

必要とされるから、また明日も来る。

そう考えると、会社員人生というのは、

「何歳まで働くか」より、

「何歳になっても、人の役に立てる自分でいられるか」

の勝負なのかもしれません。

NHKの大河ドラマで『豊臣兄弟!』をやってます。

私は登場人物の中でも、

とりわけ好きな武将がいます。

藤堂高虎。

戦国武将です。

歴史好きの間では有名ですが、

歴史に興味ない人には知られていない。

 

なぜ私が高虎を好きなのか。

理由は単純です。

ものすごく会社員的だからです。

 

高虎は何度も主君を変えています。

そのため、

「裏切者」

と批判されることもありました。

 

歴史小説でも悪く描かれることがあります。

しかし私は少し違う見方をしています。

高虎は裏切ったのではない。

自分を評価してくれる「市場」を探した。

ただそれだけです。

 

高虎は名門の出ではありません。

「特別な血筋もない」「コネもない」

現代で言えば、

「親は有力者ではない」「学歴も普通」
そんなスタートです。

 

しかし彼には武器がありました。

「武芸」です。

さらに後には、

「築城技術」という強烈な専門性を身につける。

宇和島城、
今治城、
伊賀上野城、
膳所城、
二条城。

城づくりの実績だけ見ると、

戦国時代屈指のプロジェクトマネージャーです。

 

面白いのはここからです。

高虎は、

「私は武芸・築城が得意です」で終わらずに、

「私の強みを活かせる場所はどこか」

を考え続けた。

だから主君を変え、また結果を出す。

今風に言えば、

転職というより、

キャリアの最適化です。

 

現代の会社員、

多くの人は、「評価されない」

と嘆きます。

もちろん理不尽な評価もあります。

 

しかし一方で、

自分の強みが何なのか分からないまま、

ただ不満だけを抱えている人も少なくない。

高虎は違いました。

まず強みを磨いた。

そのうえで、

評価してくれる相手を探した。

順番が逆ではないのです。

 

私は会社員人生後半戦で大切なのは、

この考え方だと思っています。

まず、

自分は何屋なのか。

営業屋なのか。企画屋なのか。

人材育成屋なのか。

何でも屋ではなく、

自分の看板商品を持つことです。

 

さらに大切なのは、

その価値を分かってくれる人を顧客にすること。

戦国時代なら主君。

会社員なら上司や役員、顧客です。

どんなに良い商品でも、

価値の分からない相手に売ろうとすると苦しい。

高虎はそれを知っていたのでしょう。

 

そして高虎には有名な遺訓があります。

「寝屋を出るよりその日を死番と心得るべし」

意訳すると、

「今日が最後の日だと思って生きよ」

です。

なかなか重い。

朝から聞くには少々ヘビーです。

 

ただ会社員風に訳すと、

もう少し柔らかくなります。

「今日の自分は繁盛したか?」

ということです。

今日は誰かの役に立ったか。

看板商品は少し磨けたか。

昨日より少しでも腕は上がったか。

それを毎日問い続ける。

 

藤堂高虎は、

血筋で出世した武将ではありません。

自分の強みを知り、

磨き、

評価してくれる場所で戦い続けた武将です。

だから私は好きです。

 

そして会社員人生後半戦の考え方として、

かなりつながります。

結局のところ、

組織の中でも最後にものを言うのは、

肩書ではなく、

「あなたは何屋ですか?」

への答えなのかもしれません。

家には、少し変わった家電があります。

「ポップコーン製造機」です。

 

最近の家電は何でもできます。

電子レンジは温める、焼く、蒸す、揚げるまでやる。
炊飯器は米だけでなくケーキまで焼く。

 

そんな万能選手が多い家電売り場で、

このポップコーン製造機だけは違います。

できることは、たった一つ。

「ポップコーンを作る」。

以上です。

 

説明書も驚くほど短い。

・コンセントを入れる。
・とうもろこしの粒を投入する。
・スイッチを回す。

数分後。

ポン、ポン、ポン。

映画館のロビーみたいな香りが漂い始めます。

これで完成です。

なんとも潔しい。

「私はポップコーン以外やりません」

という職人魂すら感じます。

 

私はポップコーンが好きです。

出来たてのポップコーンにハイボール。

そして洋画や邦画を観る。

これはなかなか贅沢な時間です。

 

考えてみると、
この製造機の市場はかなり狭いはずです。

世の中の大半の人は、

「ポップコーンなんて袋売りで十分」

と思っています。

その通りです。

 

しかし一部には、

「いや、出来たてじゃないとダメなんです」

という、少々面倒くさい人種がいる。

私はその一人です。

そして、その少数派から絶大な支持を得る。

これがこの機械の生存戦略です。

 

会社員も同じかもしれません。

多くの人は、
何でもできる人を目指します。

もちろん素晴らしい。

しかし実際に組織で重宝される人を見ると、

意外と違います。

「あの件なら、まずあの人」

と言われる人です。

 

そういう人は、
決して派手ではありません。

ただ、

その道だけは異様に強い。

 

ポップコーン製造機は、
コーヒーも淹れられません。

パンも焼けません。

空気清浄もしてくれません。

しかし、

ポップコーンについては誰にも負けない。

だから存在価値がある。

 

会社員人生も同じです。

何でもできる人は魅力的です。

でも、「あなたといえば何ですか?」

と聞かれた時に答えがある人は、もっと強い。

一度頼ったら手放せない。

そんな存在になれたら理想です。

 

ポップコーン製造機を眺めながら、

「会社員も、結局は職人商売なんだな」

と思った次第です。