先日、アクション映画を観ました。

内容は簡単です。

神様から「不死身の体」を与えられた主人公と、

悪魔から「不死身の体」を与えられた敵役が戦う。

 

不死身同士ですから、

普通に戦っていたら終わりません。

観ているこちらとしては、
「で、最後はどうなんだ?」
という話です。

 

この手の映画には、

大きく二つのパターンがあります。

「なるほど、そうやって倒すのか」
と感心する結末。

もう一つは、
「不死身なのに、それで終わり?」
という、ちょっと肩透かしの結末。

 

不死身の敵役をどう退場させるか。
映画としては、なかなか難しい問題です。

 

ところが、会社にも似たような

「不死身の会社員」がいます。

いつまで経っても会社を辞めない会社員です。

 

特に同族企業などで、

オーナー経営者に若い頃からずっと仕えている人。

社長の右腕になり、
その社長が代替わりしても残り、
後輩がどんどん辞めていっても残っている。

 

「あの人、いつまで会社にいるんだろう」

こちらがそう思い始める頃には、

本人はもうベテランどころか、

会社の風景になっています。

 

ところが、そんな「不死身の会社員」も、

いつかは辞めます。

そして、意外なほど静かに去っていく。

長年会社に尽くしてきたのだから、

盛大な送別会があってもよさそうです。

ところが、案外そうでもない。

 

「あれ、もう辞めたんだ」

そんな感じで終わってしまうことがあります。

 

なぜそんなことになるのか。

もちろん、その人の人柄にもよるでしょう。

ただ、長い会社員人生の中で、
「上に気に入られること」を最優先し

横や下との関係を作ることを後回しにした人が多い。

 

出世することも大事です。
上司に評価されることも大事です。

でも、それだけではない。

「この人と一緒に仕事ができてよかった」
と思ってくれる後輩を、社内に何人作れたか。

 

会社員の価値は、

案外そこに表れるのかもしれません。

 

本当の「不死身の会社員」とは、

会社を去った後にも、

「お世話になった先輩」として

後輩の記憶に残り続け人なのかもしれません。

テレビの旅番組を見ていると、

地方の「ソウルフード」が紹介されることがある。

レポーターが一口食べる。

そして、ほぼ必ずこう言う。

「おいしい!」

 

まあ、そうでしょう。

「ちょっと塩辛いですね」
「これは私の口には合いません」

なんていう食レポは、見たことがありません。

店主もニコニコ。
レポーターもニコニコ。
視聴者も「おいしそうだな」と思う。

実に平和です。

 

ところが、会社にも似たような人がいます。

私は勝手に、

「社内食レポーター」と呼んでいます。

 

たとえば、部長が会議で新しい方針を発表する。

「これからは、このやり方でいきたいと思います」

すると、すかさず、

「部長のおっしゃる通りだと思います」
「非常に良い方針だと思います」

とコメントする。

 

心の中では、

「いや、それ本当にやるんですか?」

と思っているかもしれません。

それでも、まず褒める。

一見すると、単なる太鼓持ちです。

 

ところが、これが意外と高度な技術なのです。

人間というのは、

自分の意見をいきなり否定されると、

その後に何を言われても、なかなか素直に聞けません。

 

逆に、

「なるほど、その考え方は面白いですね」

と受け止めてもらってから、

「ただ、ここはこうしたほうが、

もっと良くなるんじゃないでしょうか」

と言われると、

「なるほど。それもそうだな」

となりやすい。

 

つまり、先に肯定してから意見を言う。

これは単なるお世辞ではありません。

相手の耳を開くための、ちょっとした技術です

 

最近の若い会社員は、

「思ったことを言う」人が増えました。

しかし、思いを言えば相手が動くとは限らない。

むしろ、思いを正面からぶつけた結果、

相手の心のシャッターが閉まることもある。

だったら、最初の一言くらい、

「それ、いいですね」

でいい。

 

もちろん、

何でもかんでも「最高です!」では困ります。

それは本物の食レポと同じで、ただの予定調和。

大事なのは、

相手の考えを受け止めたうえで、

自分の意見を乗せること。

 

「まず褒める」は、媚びることではない。

相手に自分の話を聞いてもらうための、

入口をつくることです。

会社員にとって、

これは案外重要なスキルなのだと思います。

 

そして、今日もどこかの会議で、

「部長、それは素晴らしいと思います」

という社内食レポーターが活躍している。

 

もしかすると、その人。

単なる太鼓持ちではなく、

かなりの人間関係のプロかもしれません。

業界団体に参加していると、

思わぬ情報が手に入る。

それは、「会社の外から見た自社の評判」

が耳に入ってくることです。

 

社内にいると、自社の評価は意外と見えません。
社内で飛び交うのは、どうしても

「自分たちが思っている自社」です。

 

ところが業界団体には、ライバル会社もいる。

「御社は、あの分野に強いですよね」
という話もあれば、

「御社のあのやり方、法的に大丈夫ですか?」

なんていう、

営業現場ではまず聞けない話も出てきます。

 

ここが重要です。

自社にとって都合のいい情報だけではなく、

都合の悪い情報まで入ってくる。

会社の死角とは、

そもそも自分たちから見えない場所です。
だから、外にいる人の目を借りる。

 

そして、その情報を経営層に持ち帰る。

「うちの会社、外からはこんなふうに見られていますよ」

すると、

「えっ、そうなの?」

となる。

この「えっ」が、結構重要なのだと思います。

 

経営層にとって、

会社の外から見た自社の評価や、

競合から見た自社の弱点は、

経営判断に直結する情報です。

 

しかし、

会社の中の情報に詳しい社員はたくさんいますが、

会社の外から自社の死角を見つけ、

その情報を社内に持ち帰れる社員は少ない。

そして、少ないからこそ価値がある。

 

会社の外に出るというのは、

単に人脈を増やすことではありません。

「自社を外から見る目」を持つこと。

それを会社に持ち帰れる人は、

意外と希少なのです。

最近、会社を代表して

業界団体の活動に参加しています。

これが、実に面白い。

 

会社の仕事も面白いのですが、

会社には一つだけ欠点があります。

世界が狭い。

 

朝から晩まで、

自社の売上、自社の商品、自社の会議。

気づけば、

頭の中は「うちの会社」でいっぱいです。

 

ところが業界団体は違います。

テーマは、「業界全体をどう良くするか」。

視点が、一段高くなる。

だから面白いのです。

 

行政との意見交換もある。

制度づくりに関わることもある。

「この業界は5年後どうあるべきか」

そんな話が普通に飛び交います。

会社にいるだけでは、

なかなか味わえない世界です。

 

もう一つ面白いのは、人です。

業界団体には、ライバル会社の人もいます。

営業の現場なら、

「絶対に負けたくない相手」です。

 

ところが会議室では、

「この業界を良くするには、どうしましょう」

と、一緒に知恵を出し合っている。

なんとも不思議な光景です。

 

しかも、こういう場に出てくる人は、

だいたい一芸に秀でています。

制度に詳しい人。

技術に異様に強い人。

人をまとめるのがうまい人。

クセも強い。

だから刺激になる。

 

さらに、自社以外の空気も分かります。

「あの会社は、そんなことをやっているのか。」

「その発想はなかった。」

視野が広がる瞬間が、何度もあります。

 

よく、

「会社以外の居場所を持ちなさい」

と言われます。

趣味でもいい。

地域活動でもいい。

その通りです。

 

でも仕事好きの会社員にとっては、

趣味より仕事の話のほうが、

やっぱり面白い。

だから業界団体という場所は、意外と相性がいい。

 

会社とは違う景色を見ながら、

会社の仕事にも役立つ。

なかなか効率のいい学び場です。

 

会社員人生の後半になるほど、思います。

会社の中だけで育つ人より、

会社の外にも仕事仲間がいる人のほうが強い。

 

会社の肩書きではなく、

「○○さんに聞けば分かる」

そう言われる人は、組織の外にも居場所があります。

結局、人を成長させるのは仕事だけではありません。

仕事を通じて出会う人です。

 

会社の外にも、自分の仕事場を一つ持つ。

それだけで、

仕事は驚くほど面白くなるのだと思います。

45歳を過ぎると、

会社員は少しずつ現実が見えてきます。

出世レースの順位。自分の立ち位置。

そして、あと何年会社員をやるのか。

だいたい見えてきます。

 

さらに追い打ちをかけるように、

AI。DX。デジタル化。

新しい武器が次々と会社に入ってくる。

しかも、それを軽々と使いこなすのは、

たいてい自分より20歳くらい若い社員です。

ちょっと心が折れます。

 

会社も昔ほど面倒を見てくれません。

「自己啓発してください。」

最近は、この一言で終わります。

 

年下の上司も忙しい。

育てるべき相手は新人や若手です。

45歳を過ぎた社員には、

「経験あるんだから、お願いします。」

この一言。

 

悪く言えば放置。

良く言えば信頼。

微妙なところです。

だからこそ、

この15年間は自分で設計しなければなりません。

 

もちろん、

言われた仕事だけを淡々とこなし、

定年を迎える人生もあります。

会社に残れれば再雇用。

給料は下がるし、仕事はバックヤード。

 

それも一つの生き方です。

否定するつもりはありません。

 

でも、私は少しもったいないと思うのです。

45歳から60歳。

この15年間は、

会社員人生で一番自由になれる時間でもあります。

 

若い頃のように失敗を恐れなくてもいい。

経験もある。人脈もある。

だからこそ、

「自分は何で役に立つのか」

を磨くには最高の時期です。

 

ここで必要なのが、

「やりがい」です

最近、「やりがい」なんて言葉は少し古臭いと言われます。

でも私は違うと思っています。

 

やりがいは精神論ではありません。

「燃料です」。

人の役に立つ。感謝される。評価される。

だから、もっと勉強したくなる。

もっと腕を磨きたくなる。

そして、また人の役に立つ。

 

この循環が回り始めると、

仕事は驚くほど面白くなります。

気がつけば、会社の中でも、会社の外でも、

「あの人に頼もう」

と言われる存在になっている。

 

そうなれば、

定年はゴールではありません。

会社に残るのもいい。

独立するのもいい。

別の場所で挑戦するのもいい。

選択肢は、自分で選べます。

 

会社員人生の後半は、

会社が決めるものではない。

自分が積み上げた価値で決まる。

 

45歳からの15年間。

ここをどう過ごすかで、

定年後の景色は、驚くほど変わるのだと思います。