学校のジャージを着て、背中にはリュックサック、両手には髪アイロンなどがいっぱい詰まった袋をぶら下げた娘の姿を見ると、もう二度と帰ってこないような錯覚にとらわれる。
病院に向かう車の助手席で娘はスマホをいじっている。
「『もうすぐ教室に行くからね』と友だちからラインが来た。
わたし、教室にいると思ってんだ。
そうだよね。学校を1日も休んだことないんだから。」
「この入院は、きっと神さまが仕組んだんだよ。
おまえの人生にとって、大事なことが見つかるような気がする。
かっこいい男子が見舞いに来たりして…」
二人で笑った。
「ステロイドを使って最初は効いたんだけど、その後、効かなくなってしまった。
点滴からステロイドを増やして投入し、この状況を抑えたい。
4、5日して効果がなければ別な方法を考えよう。」
若い精悍な顔つきの医師の言葉に、私はハイと答えるしかない。
ソフトボールのピッチング練習も普通にできて、いたって元気な娘の体が、絶食に近い状況を強いられ、また強力な薬で痛めつけられるのか。薬の副作用で娘の顔の頬がややむくんできていた。げっそりとやせ細った娘の姿など見たくない。
何か、おかしい。
これが現在の科学の限界か。