「ほんとに…
言った…?」
「携帯のボイスレコーダー、聞く?」
私は冷たく言い放った。
夫は、呆然と頭を抱えた。
不思議だ。
不倫する人間はなんと愚かなんだろう。
なぜ、嘘がバレると思わないんだろう。
まりこが言わないと思ったんだろうか。
薄っぺらい信頼関係でもあったんだろうか。
慰謝料が発生するようなバカなことを
まさか言うなんて思わなかったんだろうか。
夫はきっと
まりこが言うかもしれないなんて
考えもしなかったんだと思う。
都合の悪い事は全部、ブラックボックスにしまうことができたから。
なぜ?
どうして?
そんな質問に、説明なんてできない。
私は夫に
車で「やった」のか聞いた。
「車で…?え…?車…?」
戸惑い、記憶を巡らせているようにみえる。
不倫の少し前に買い替えた
ワンボックスのファミリーカー
家族の為というより
夫が乗りたい車
夫に乗ってほしい車
一生懸命貯めた大事なお金。
好きな車に乗って会社に行けば
気分が上がるじゃん?
とか思ってさ。
「一括で買えるなんて、かっこいい!!」
「ううん。らんちゃんのおかげだよ」
なんて、2人で感謝し合ったりして。
夫の車のナンバーは、
いつも私の誕生日だった。
私達の
特別な車
見ないようにしていたけど、
ドア横に立っていた私の視界に
助手席がうつった
吐きそう
泣きそう
涙と共に何かが一気に溢れそうになって
その場を去った。
その後、すぐに兄が来た。
「認めたよ」
兄に伝えた。
「お前の前で認めたか。
そうか…認めたか…」
兄は表情を変えず
いつも通り
温和な挨拶を夫にした。
「ふみくん、俺の車に移動しようか。」
「私も同席したい」
兄の車に乗り込み
夫の供述が始まった。
時系列に合わせて
兄が聞き取っていった。
夫は聞かれたことに
記憶を必死に巡らせながら
言葉つまらせ
話していった。