オイラは産まれた時から体が弱く
母親はオイラを見捨てて兄弟たちとどこかへ行ってしまった
弱肉強食のこの世の中
生き残れない者を置いていくのは当然のことで
オイラは母親を責めるつもりもない
もう何日も食べていない体はボロボロで
いつお迎えが来てもおかしくない状態になっていた
今日も水を探してふらふらと歩いていると
あいつが…雅樹がオイラを抱き上げた
怯えて泣き叫ぶオイラ
だけど弱った体では大声にならなくて
そんなオイラを優しく撫でて
自分の家へ連れ帰ってくれた
オイラに残された時間が短いことは自分でよくわかってる
だからほっといてくれよ
隙を見て逃げ出そうとするオイラの前に
たっぷりの水と美味しそうなキャットフード…
警戒するオイラに気づいてそっと部屋を離れる雅樹
オイラは久しぶりにお腹を満たすことが出来た
雅樹がオイラを『おーちゃん』と呼ぶもんだから
何だか警戒心も薄れてきた
んふふ…おーちゃんか…
初めて名前を呼ばれて なんだかくすぐったい
とにかく雅樹は不思議な人で
オイラのことは何でもわかってしまう
ボロボロの体が痛んでニャアと鳴けば
悲しそうな顔で何度も何度も背中を撫でてくれて
抱っこしてほしくてもじもじしていたら
黒目がちな優しい瞳がオイラの目線まで降りてきて
微笑みながら優しく抱き締めてくれて
オイラは痛みなんか消えちゃうくらいふわーっとあったかい気持ちになった
仰向けになってぎゅっとしてくれた腕の中は気持ちがよくて
オイラはすぐにうとうとしてしまう
雅樹の胸も深い一定のリズムを刻み始める…それは揺りかごのように心地よくて…
オイラが完全に眠ってしまうまで優しく優しく揺れていた
このまま時が止まればいいのに…
しかしオイラに異変が起きた
すぐにその時が来たと悟った
オイラはするりと腕から抜け出し
雅樹のおでこにそっとキスをすると
感謝してもしきれないほどのありったけの思いを込めてニャアと鳴いた。
いったいどれくらい歩いたのか
足が思うように動かない
遠くから雅樹がオイラを呼ぶ声が聞こえたような気がした
オイラは力を振り絞って
追い付かれないようにふらふら歩く
ふと見上げれば 真っ青な空とたくさんの向日葵
…ここがいい
雅樹ならわかってくれるだろ?
オイラが黙って出ていった意味を
楽しかった時間を思い出す
初めて受けた愛情は
オイラがこの世に生まれてきた意味を
充分に感じることが出来た
オイラ 生まれ変わったら人間になりたいな
そしてまた雅樹に会うんだ
人間の言葉でちゃんと言うよ
…んふふ…
その時は…もう一度…抱き締めてくれ…るか…な………
オイラは幸せな気持ちになって
たくさんの雅樹たちに囲まれて目を閉じた
●END●