今回のブログは、

今月の歌舞伎座公演第三部の感想です。

毎年8月の歌舞伎座は

『八月納涼歌舞伎』と銘打ち、

3部制での上演。

若手が多く出演し、

演目も肩の凝らないものが並びます。

 

 

 

が、今年の第三部は、

ちと毛色が違いまして…、

というお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出掛けたのは初日、8月4日㈰。

初日だけあって人がすっごい!

いや、初日というだけでなく、

京極夏彦先生のファンが

どっと押し寄せたに違いない。

一風変わったお着物スタイルとか、

黒ずくめとか、

あきらかに京極先生の影響を受けたと思しき

服装の方が多いのです。

 

 

 

というのも、第三部の演目は、

京極夏彦先生が初めて

歌舞伎のために書き下ろした作品

『狐花 葉不見冥府路行

(きつねばな はもみずにあのよのみちゆき)』

なのですよ。

これは、ファンなら観たいでしょう!

 

 

 

初日を前に小説も出版されたので、

読んでから観る、

という方もいるかもしれません。

実は私も本を入手済みですが、

今回は、観てから読む、にしました。

実際に舞台を観終わって、

読んでからのほうがよかったかなあ、

とちらと思いましたが、でも、

ラストの衝撃は、

読んでしまってからでは感じられない。

観てから読んで、また観て。

というのがベストかと、

今現在は思っていまして、

もう一回リピートするか思案中。

 

 

 

 

 

 

素敵な装丁です。

ちなみにこの本、

歌舞伎座1階お土産処木挽町でも

販売しているようです。

 

 

 

さあそれでは、

今月の歌舞伎座第三部のお話を。

 

 

 

『八月納涼歌舞伎』第三部

狐花 葉不見冥府路行

(きつねばな はもみずにあのよのみちゆき)

 
 
 
 
 
 
 
今回のポスターは2種類。
どちらも素敵なのに、
照明が写り込んでいて残念。
 
 
 

時は江戸。

作事奉行・上月監物(こうづきけんもつ)の屋敷の

奥女中・お葉は、

たびたび現れる男に畏れ慄き、

死病に憑かれたように伏せっている。

彼岸花を深紅に染め付けた着物を纏い、

身も凍るほど美しい顔のその男・萩之介は、

実は“この世に居るはずのない男”であった。

 

一方、この騒動を知った監物は、

自らの過去のあの悪事と

関わりがあるのではと警戒する。

 

そして屋敷に招かれたのが、

“憑き物落とし”を行う武蔵晴明神社の宮守の

中禪寺洲齋(ちゅうぜんじじゅうさい)。

いくつもの謎をはらむ幽霊事件を

解き明かすべく挑むのであるが、

そこには哀しき真実が隠されていた…。

 

 

 

京極夏彦先生、

小説家デビュー30周年なのだそうです。

おめでとうございます。

この作品は、その記念すべき年に、

歌舞伎のために書き下ろしたお芝居ということで、

実にチャレンジング!

でもワタクシ、観る前から、

京極夏彦の世界は

きっと歌舞伎にマッチするに違いないと

確信しておりました。

逆に、なぜこれまで

歌舞伎にならなかったのかしら、と。

 

 

 

果たして、幕が開いたその瞬間から、

歌舞伎座全体は“京極歌舞伎”の色に染まっていました。

暗い暗い闇の中に、一面の彼岸花!

美しい!そして、妖しい!

(ちなみに彼岸花にはこのお芝居の題名の

“狐花”という別名があり、

ほかにもたくさんの別名があります。

これ、ちょっとネタバレかも)

 

 

 

これ以上は細かいことはやめておきますね。

 

 

 

今回の舞台美術は、とにかく素晴らしい!

圧倒的な美しさ、妖しさに満ちています。

回り舞台を駆使して、

物語があの独特の世界観をまとい、

進んでいきます。

ねっとりと湿度の高い(誉め言葉です)物語世界、

膨大かつ美しい響きの台詞を体中で味わいながらの、

前後編併せての2時間40分。

濃密な舞台でした。

正直、濃密すぎて、

舞台美術に気を取られていたら

台詞を理解しきれなかった、とか、

俳優さんの演技に見入っていたら

台詞を聞きそびれた、とか、

まあ主に台詞モンダイなのですが、

かなり消化不良なところもありまして、

よって、

「観てから読んで、また観て。

というのがベストか」

というわけなのです。

台詞はもうホントに、量は真山青果クラス、

そして、タッチは違いますが

独特の異世界風という意味では

泉鏡花作品に匹敵するような。

軽い気持ちで観に行くと、

なかなか手強いのです。

 

 

 

さて、今回の物語は、

大人気シリーズ「百鬼夜行」の主人公、

京極堂こと中禅寺秋彦の曾祖父の

中禪寺洲齋の時代を舞台にしています。

中禪寺洲齋を演じたのは幸四郎さん。

インタビューでは

「京極さんの作品を歌舞伎にできるのは、

夢の夢の夢ぐらいに思っていました」。

一方の京極先生は、

「中禅寺秋彦の台詞のリズムには

歌舞伎がかなり強い影響を与えています。

中禅寺のひいおじいさんの洲齋を主人公にしたのは、

ある意味で必然だったのかと思います」。

超膨大な台詞を語る幸四郎さん、

とても頑張っていました。

ただ、初日ということで、

まだこなれていない感じが

(と台詞聞き逃しがちだった私が言うのもなんですが)。

まだまだこれから、

良くなっていくのではないかと思います。

 

 

 

悪役の上月監物は勘九郎さん。

いかにも悪役というお化粧、

そして声がいつもの勘九郎さんではなく、

最初誰だかわからないくらい!

驚きました。

“身も凍るほど美しい顔の男”萩之介と、

奥女中お葉を七之助さん。

ぴったり!

当て書きかと思いましたが、違うそうです。

 

 

 

女形がいずれも魅力的で、

雪乃母・美冬を笑三郎さん、

監物娘・雪乃を米吉さん、

近江屋娘・登紀を新悟さん、

辰巳屋娘・実祢を虎之介さん、

上月家老女老松を梅花さん。

ほかに、近江屋源兵衛に猿弥さん、

辰巳屋棠蔵は片岡亀蔵さん、

染五郎さんは上月家用人・的場佐平次という

重要な役を立派に勤めていました。

まだ19歳なのに、どんどん上手になるなあ。

 

 

 

と書きながら、

幕見でもいいからもう一度観に行こうかしら、

という気持ちになっている私です。

 

 

 

『八月納涼歌舞伎』

8月25日㈰千穐楽です。

 

 

 

 

 

 

美しくも妖しいお芝居の後に見る

夜の歌舞伎座は、

いつにも増して雰囲気たっぷり!