今回は、先日観てまいりました

歌舞伎座昼の部の感想です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今月の歌舞伎座は

おめでたい雰囲気に包まれています。

というのも、今月は萬屋一門の特別な公演。

中村時蔵さんが初代中村萬壽、

中村梅枝さんが六代目中村時蔵を襲名。

梅枝さんご長男の小川大晴(ひろはる)くん(8歳)も

五代目中村梅枝を襲名。

また、中村獅童さんご長男の

小川陽喜(はるき)くん(6歳)が初代中村陽喜

次男の小川夏幹(なつき)くん(3歳)が

初代中村夏幹として初舞台を踏んでいるのです。

 

 

 

1階大間には襲名「ご挨拶」のパネル。

 

 

 

 

 

 

五代目中村梅枝くん。

 

 

 

 

 

 

初代中村陽喜くん(右)と、

初代中村夏幹くん。

 

 

 

ちなみに、

「初舞台」は俳優として

初めて舞台に乗ることを意味し、

初舞台以前に本名のまま舞台に初めて上がることを

「初お目見得」といいます。

 

 

 

 

 

 

2階ロビーには大きな箱が2つ展示。

この箱に祝幕が入れられていましたよ、

という、印の箱だそう。

ただ、実際には、この中に幕は入りません。

あの大きさですものね~。

(と書きながら、実は最近知った事実。

思い込みは恐い)

今回は2種類の祝幕があるので、箱も二つ。

大道具さんが準備をするのだそうです。

 

 

 

お隣にはこのような展示が。

 

 

 

 

 

 

初代中村萬壽、六代目中村時蔵

襲名記念漆喰鏝絵(こてえ)

 

 

 

「漆喰鏝絵」は静岡県松崎町に伝わる伝統芸術。

今回の襲名を祝って、中村一夫氏が、

萬屋の定紋「桐蝶」を制作。

優美で美しい定紋が、

伝統芸術によってより美しく見えますね。

 

 

 

さあ、それではお芝居の感想を。

はい、今回のブログ、ご想像通り、

と~~っても長くなります~。

 

 

 

六月大歌舞伎 昼の部

 

一、上州土産百両首

 (じょうしゅうみやげひゃくりょうくび)

 

 

 

 

 

 

 

新派などで活躍した劇作家の川村花菱(かりょう)が、

米国の作家オー・ヘンリーの短編小説

「二十年後」を下敷きに創作した芝居です。

初演は昭和8(1933)年。

あの藤山寛美さんも演じています。

私は、今回が初めての観劇。

 

 

 

幼馴染の正太郎(しょうたろう)と牙次郎(がじろう)。

偶然の再会をして喜んだ二人でしたが、

別れ際に互いの懐から財布を抜き取って

掏摸(すり)を働いてしまったことを嘆きます。

互いに堅気となって真面目に生きようと誓い合うと、

二人は、美しい月夜に照らされた

浅草・聖天様の森で10年後の再会を約束するのでした。

 

掏摸の与一と縁を切った正太郎は上州にたどり着き、

牙次郎のことを思いながら、

板前としてこつこつと働いて金を蓄えます。

ところが、与一とかつての仲間の三次が

偶然に正太郎の前に現れ、

三次からは強請られてしまいます。

 

一方の牙次郎も目明しの勘次のもと、

心を入れ替え、岡っ引きとして働いていますが、

ドジな性分は変わらず、成果を上げられずにいます。

 

そして、二人はあの約束の日を迎えますが…。

 

 

 

いいお話なんです!

恵まれない境遇に生まれた二人の男が、

懐かしい幼馴染に出会ったことから改心し、

全うに生きようとするのに、運命が邪魔をする。

笑わされて、ほっこりして、じ~んとして、

そして最後がなんとも切ない。

観終わったあと、題名が心に刺さります。

そういうことか、と。

 

 

 

物語は、二人の主人公に手厳しいのですが、

その二人がとても魅力にあふれたキャラクターで

ぐいぐい引き付けられます。

兄貴分の正太郎は獅童さん。

ぴったりの役どころ!

道からはずれがちだけれども、

根は真面目な男をしっかり表現。

ドジで間抜けな牙次郎は菊之助さん。

こういう菊之助さんは初めてかも~。

動き方、喋り方、とても工夫しています。

この芝居、いい人がたくさん出てきますが、

唯一の悪人が三次。

正太郎のかつての掏摸仲間ですが、

隼人さんのワル~イ演技が光っていました。

そのほか、与一に錦之助さん、勘次に歌六さん、

正太郎の許嫁おそでに米吉さんなど。

 

 

 

二、義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)

 所作事 時鳥花有里(ほととぎすはなあるさと)

 

 

 

 

 

 

『義経千本桜』の道行といえば「吉野山」ですが、

こういう道行もあるのですね~。

江戸時代にはさまざまな道行がつくられたそうです。

この作品は、

義経主従が河内から龍田を抜けて大和へ向かう様子を

長唄の舞踊で描きます。

 

 

 

源平合戦で功績を上げながらも、

兄の頼朝から謀反の疑いをかけられ、

都落ちする源義経。

義経と家臣の鷲尾三郎が

道中で出会った白拍子と傀儡師は、

義経主従の旅の慰めに芸を披露しますが、

実はその正体は龍田の明神と神女で…。
 

 

 

義経は又五郎さん。気品に溢れます。

脇に仕える鷲尾三郎は染五郎さん、きれい!

主従二人が美しく、都落ちの哀れが滲みます。

白拍子は児太郎さん、米吉さん、左近さん、

そして孝太郎さん。

三人の若手は艶やか、

孝太郎さんは神々しさがありました。

そして、種之助さんの傀儡師。

お面を次々取り替えて、

キレがいい、ひょうきんな踊りが実に楽しかった~。

 

 

 

26分と短い舞台ながら、大満足の舞踊でした。

 

 

 

三、妹背山女庭訓(いもせやまおんなていきん)

 三笠山御殿(みかさやまごてん)

 

 

 

 

 

 

六代目中村時蔵さんの襲名披露狂言です。

ご長男の小川大晴くんは、五代目中村梅枝の名を継いで初舞台。

五代目時蔵さんは萬壽の名で舞台に上がります。

 

 
 
謀略を巡らし権勢を誇る蘇我入鹿の三笠山御殿へ、
入鹿の妹の橘姫が戻ってきます。
橘姫の振袖に赤い糸をつけて
後を追いかけて来た恋人の求女(もとめ)が現れると、
二人は御殿の中へ…。
 
そこへ、求女を追ってやって来たのは、
杉酒屋の娘お三輪。
恋い慕う求女の裾につけた
苧環(おだまき)の白い糸が切れてしまい
途方に暮れるお三輪は、
通りかかった豆腐買おむらにその行方を尋ねます。
すると、これから橘姫と求女が祝言を挙げるとのこと。
御殿の中へと急ぎたいお三輪でしたが、
橘姫の官女たちにさんざんに弄ばれた挙句、
聞こえてきたのは祝言を祝う声。
嫉妬に狂い、凄まじい形相となったお三輪が
中へ押し入ろうとすると、
漁師鱶七が立ちはだかり…。

 

 


大化の改新を素材としたお芝居です。

ヒロインのお三輪は女形の大役。

恋しい求女さんを探して

場違いな御殿に迷い込んだところが、

官女たちにいじめられまくって、

あげく思いがけないことで命を散らす、という、

ものすごいドラマが彼女一人の身にふりかかります。

恋する娘の情熱、哀れ、

“疑着の相”に代表されるすさまじいまでの嫉妬の表情、

そして、すべて受け入れて事切れる様子。

 

 

 

この役について時蔵さんはインタビューで、

「“疑着の相”に向かって、

どういう感情のプロセスを踏んでいくかが

ポイントの役だと思います。

気持ちの整理をつけないと成立しないでしょうし、

壮大なお芝居だからといって、

すべてを背負って出てきてしまうと、

娘らしさが出てこなくなってしまいます。

きちんとたどり着くべきところに向かいながらも、

場面場面を自然に見せていければ」

と語っています。

 

 

 

とても自然な、そして健気なお三輪だったと思います。

一所懸命な様子が可愛らしくも哀しくて、

「がんばれ、お三輪」と思いながら観ました。

 

 

 

 

 

 

官女の顔ぶれはとっても豪華!

隼人さん、種之助さん、萬太郎さん、

歌昇さん、獅童さん、錦之助さん、

又五郎さん、歌六さんと、

親戚筋の方がずらり並んでお三輪をいたぶるのですが、

まあ、その様子の怖いこと、可笑しいこと。

皆さん、楽しそうでした。

また、橘姫は七之助さん、漁師鱶七は松緑さん、

そして求女は五代目時蔵さん改め萬壽さん。

まさにオールスタ-キャストの舞台。

なかでも極め付きが、

豆腐買おむら役の仁左衛門さん。

おむらの娘おひろ役の新梅枝くんの手を引いて登場。

劇中で口上となりました。

仁左衛門さんの口上は何度も拝見していますが、

女形の衣裳では初めて。

可笑しかった~。

「ゆくゆくは歌舞伎界を背負って立つ立派な女形さんに」

とエールを送っていらっしゃいました。

 

 

 

豪華顔ぶれでの壮大なドラマ、楽しかったです!

新時蔵さん、新梅枝くんのこれからに、

そして萬壽さんのますますの輝きに期待します!

 

 

 

 

 

 

「初代中村萬壽 

六代目中村時蔵襲名披露 

五代目中村梅枝初舞台」

を寿ぐ祝幕は

昼の部では三幕目の直前と、

終演後にかかります。

 

 

 

手掛けたのは、日本画家の千住博氏。

千住氏を代表する滝の絵が全面に描かれています。

「品格があって、格調が高い、

そしてお祝いですので、紅白の滝にしました。

光が当たって、自らが発光する。

そんなあり方が萬壽さん、時蔵さん、梅枝さんに

ふさわしいと考えました」

とのこと。

たしかに、光を放つよう。

 

 

 

 

 

 

舞台上手側にお三方の名前。

 

 

 

これから歌舞伎座に行かれる方、

しっかり観てきてくださいね。

 

 

 

『六月大歌舞伎』

6月24日㈯、千穐楽です。