今回のブログは、

昨日行ってまいりました

歌舞伎座公演昼の部の感想です。

 

 

 

 

 

 

四月大歌舞伎

昼の部

 

 

今月の歌舞伎座昼の部の公演は、

最初と最後に濃厚な義太夫狂言の名作、

その間に若手勢揃いの

短い舞踊が入るという編成です。

まずはこちらから。

 

 

 

一、双蝶々曲輪日記

(ふたつちょうちょうくるわにっき)

 

 

 

 

 

 

都のはずれの八幡の里の南与兵衛の家。

亡き父の後妻であるお幸と女房お早が、

明日に迫った放生会(ほうじょうえ)の支度に

余念がありません。

そこへやって来たのは、相撲取りの濡髪長五郎。

幼い頃に養子に出されたお幸の実子である長五郎は、

久々の再会を喜ぶお幸に対して、

どことなく冴えない様子。

 

濡髪を二階で休ませたところに、

今度は与兵衛が代官所から戻ってきます。

郷代官に任ぜられ、父の名である

南方十次兵衛を名乗ることが許されたと言う与兵衛に、

お幸もお早も大喜び。

しかし、初仕事が

逃亡犯の濡髪を捕縛することと聞き、

凍り付きます。

その任務は日暮れから夜明けまでと聞き、

思案する母と嫁。

一方、十次兵衛は二階にいる濡髪に気づき…。

 

 


舞台は、仲秋の名月を翌日に控えた京都。

翌日に控えた「放生会」とは、

捕えられた生き物を解き放つ

石清水八幡宮の儀式で、これが物語のカギ。

また、題名にもなっている、

明かり取りの天窓(引窓)が

重要な舞台装置になっています。

 

 

 

いいお話なんですよ~。

 

 

 

南与兵衛と義理の母のお幸、そして女房のお早。

そこに現れたお幸の実子の濡髪。

どの人物も、他者を気遣い、

自分がどうするべきか悩んでいる。

心打たれます。

 

 

 

心揺さぶられたのは東蔵さんのお幸

うまいな~。

南与兵衛は梅玉さん、静かな演技が素敵。

扇雀さんの女房お早も情愛にあふれ、

松緑さんの濡髪も風格がありました。

 

 

 

バランスの取れた、大人のお芝居でした。

 

 

 

二、七福神(しちふくじん)

 

 

 

 

 

 

波間から宝船が現れると、

そこには招福をもたらす七福神の姿。

祝儀の盃を重ね、やがて興が乗った神々は、

廓勤めをする傾城とその恋人の様子を踊り、

天下泰平を祈念し舞い踊ります。

 

 

 

室町時代末期頃から始まったとされる

七福神信仰を素材に、

平成30(2018)年に歌舞伎座で、

新たな音楽、振付で上演された舞踊作品です。

 

 

 

今回の顔ぶれは、歌昇さんの恵比寿、新悟さんの弁財天、

隼人さんの毘沙門天、鷹之資さんの布袋、

虎之介さんの福禄寿、尾上右近さんの大黒天、

萬太郎さんの寿老人。

花形七人がいずれも初役で勤めます。

 

 

 

美しい富士山をバックに、

宝船に乗って舞台中央に登場する七福神。

それだけで、気分があがります。

多幸感に包まれます。

しかもその七福神が、

お酒を酌み交わしながら、陽気に踊り出すのです。

神様、というより、その辺のおっさん(失礼)のような

親しみやすさ、可愛らしさ。

若々しさに溢れ、エネルギーに溢れ、

20分足らずの舞踊ですが、

終始、口角上がりっぱなしの一幕でした。

 

 

 

三、夏祭浪花鑑

(なつまつりなにわかがみ)

 

 

 

 

 

 

大坂で実際に起こった事件を基にした

浪花の侠客の生きざまを描いた義太夫狂言です。

 

 

 

喧嘩沙汰から牢に入れられていた団七九郎兵衛。

団七の女房お梶と息子市松は、釣船三婦とともに

出牢を許された団七を住吉神社の鳥居前で迎えます。

 

義理と人情に厚い団七は、

大恩人の息子である玉島磯之丞と

恋人琴浦の危難を救うため、

釣船三婦や義兄弟の契りを結んだ一寸徳兵衛、

徳兵衛女房お辰らと奔走。

ところが、金に目が眩んだ強欲な舅の義平次が

琴浦を悪人の手に渡そうとするので、

団七は…。

 

 

 

感想を一言で書くと、ひじょうに面白かった!

愛之助さん、大奮闘!脇の俳優さんたちも皆とてもよく、

これまで何度も観ているお芝居ですが、

今回も身を乗り出して見入ってしまいました。

 

 

 

このお芝居、上方狂言の代表作ですが、

上方の俳優が歌舞伎座で上演するのは

今回が初めてなのだそう。

たしかに、今まで観てきた『夏祭浪花鑑』とは

テンポが、温度・湿度が、空気感が違う気がします。

こってりとして、妙にリアルなのです。

…言葉でしょうか。

関西の、母音が長めのあの言い回しからなのかしら、

などと帰る道々考えていました。

 

 

 

主人公の団七黒兵衛は愛之助さん。

カッコいい、だけでなく、とてもリアルな生身の団七。

髭ぼうぼうの情けない罪人姿でまずは登場、

そこからさっぱりとした浴衣姿で再登場した時の

鮮やかな変わりよう!

ただ着替えただけなのに、拍手喝さい。

そしてクライマックス、

思いがけず義父を殺すことになってしまった団七の、

苦悩や戸惑いや後悔の念が、ぐちゃぐちゃになって

観ているこちらに伝わってくるのです、

にぎやかな祭りの音に乗って。

ねっとりとした湿度の高い夏の大坂の空気を感じました。

 

 

 

愛之助さんは団七のほかに、

徳兵衛女房お辰も演じています。

この役、出番は短いのですが好きなんです!

カッコいい、同性でも惚れ惚れするハンサムウーマン。

愛之助さんの女形、どんな感じか興味津々でしたが、

大人の女の香りがするお辰でした。

 

 

 

団七の相棒的存在、一寸徳兵衛を演じたのは菊之助さん。

団七のカッコよさとはまた違う、すっきりとしたカッコよさ。

揃いの格子の、色違いの浴衣で二人が並ぶと眼福です。

 

 

 

愛之助さん、菊之助さんも素敵でしたが、

今回私がしびれまくったのが、

歌六さんの釣船三婦(つりぶねさぶ)!

一挙手一投足がカッコよく、老侠客を地で行く感じ。

芸の力とはこのことかとつくづく。

息子さんの米吉さんは、団七の女房のお梶

相変らず声が美しく良く通り、

今回は“姉さん”という風情が素敵でした。

ちなみに、団七倅の市松は秀乃介君

歌昇さんの次男ですって。可愛らしかった。

そして、泥場で熱演を見せた舅義平次は橘三郎さん

実に嫌らしい、みごとな憎まれ役ぶりでした。

 

 

 

今回の上演は、

「住吉鳥居前の場」「難波三婦内の場」「長町裏の場」の三場、

上演時間2時間。

なかなかの長丁場ですが、見どころ満載、俳優陣は大熱演。

どの場面も目が離せず、

ぜひ通しでも観てみたいと思いました。

 

 

 

 

 

 

愛之助さんの団七黒兵衛と

菊之助さんの一寸徳兵衛が対峙する

カッコいいポスター。

背景の格子柄は、

後半の祭りのシーンで着る浴衣の柄ですね。

 

 

 

『四月大歌舞伎』@歌舞伎座

4月26日㈮千穐楽です。