ヤッホ~!帆足由美です。

 

 

 

今回は、先日観てまいりました

歌舞伎座公演の感想を。

 

 

 

 

 

 

今日の歌舞伎の礎を築いた

二人の名優、

九世市川團十郎と

五世尾上菊五郎を顕彰する

「團菊祭」。

今年の夜の部の公演は、

多彩な演目が並びます。

ただし、「團菊祭」と謳いながら、

團十郎さんの夜の部の出演がないのが

ちょっと、なのですが。

 

 

 

團菊祭五月大歌舞伎

夜の部

 

 

 

一、宮島のだんまり

 

 

 

 

 

 

海辺の厳島神社。

傾城浮舟太夫が

いわくあり気な巻物を読みふけるところへ、

巻物を奪おうと近づく

源氏の智将・畠山庄司重忠と大江広元。

さらに浮舟を捕えようと次々と人々が。

ついには平家一門を率いる

平相国清盛も現れ…。

 

 

 

「だんまり」というのは、

歌舞伎独特の演出のひとつ。

暗闇のなかで、

善悪入り乱れた人物たちが

無言で一つの宝物を探り合う、

というのがお決まりです。

登場人物たちは

スローモーションのような

ゆっくりとした動きを見せますが、

要所要所で美しい形を見せたり、

見得を切ったり、

絵画的な場面が連続します。

長いお芝居のなかのワンシーンとして

演じられることもありますが、

この『宮島のだんまり』のように

単独で上演されることもあります。

 

 

 

この作品の面白いところは、

主役が傾城に化けた盗賊、

というところ。

後半には正体を明かし、

上半身は男、下半身は女という姿で、

男の勇ましさと遊女の色っぽさを

同時に表現しながら花道を引っ込む

“傾城六方”は、

他では見られない面白さです。

演じたのは初役の雀右衛門さん。

気品に溢れた女形のイメージがありますが、

キリリと描いた眉など、

男性的なお化粧が新鮮!

今回は花道から近い席だったので、

“傾城六方”も堪能しました。

 

 

 

その他、畠山庄司重忠は又五郎さん

大江広元は尾上右近さん

平相国清盛は歌六さんなどなど、

源平物語の登場人物が

ゆったりとした動きで巻物を奪い合う姿は、

さながら動く錦絵!

20分という短い時間のなかに

歌舞伎の素敵さが

ギュッと凝縮した一幕でした。

 

 

 

二、達陀(だったん)

 

 

 

 

 

 

鎌倉時代。

奈良・東大寺の二月堂では、

修二会(しゅにえ)の法会が行われています。

法会を取り仕切る僧の集慶(じゅうけい)が

東大寺に所縁ある故人たちの名を記した

過去帳を読み上げるところ、

どこからか青衣(しょうえ)の女人が現れます。

実はこの女は、集慶のかつての恋人。

女人が集慶への思慕の念を伝えると、

集慶も、彼女と過ごした

美しく、甘く切ない日々を思い出しますが…。

 

 


俗に「お水取り」と呼ばれる

東大寺二月堂の修二会の行を題材に、

二世尾上松緑が創作し、

昭和42(1967)年に初演された舞踊劇。

私は初めて観る作品ですが、

感動しました!!

すばらしかった!!

 

 

 

舞台は静かに幕明けます。

暗い舞台、僧たちが大きな籠松明を運び、

松緑さん演じる集慶が神妙な面持ちで登場。

やがて童子たちの踊りとなるまでは、

静けさの中にただならぬ緊張感が漂い、

じわりじわりと舞台が熱を帯びていく様子がたまらない。

シンプルな舞台、シンプルな振り付けですが、

これから行われる行法の厳しさが感じ取れます。

 

 

 

中盤は、僧・集慶の

俗世時代の恋人・青衣の女人(の霊?)が姿を現し、

それまでとはガラッと変わった

美しく艶やかな舞踊。

青衣の女人は梅枝さん

この世のものではない気配をまとい、

美しくも妖しい。

若い頃の集慶は松緑さんご子息の左近君

梅枝さんの恋人、というには幼いルックスですが、

きれいに勤めていました。

 

 

 

そしていよいよ、達陀の行法です!

達陀とは梵語に由来する「火の行事」という意味。

集慶を筆頭とする大勢の僧たちが、

降り注ぐ火の粉をものともせず踊り抜きます。

これが、圧巻!

いったい何人の役者が舞台に立っていたでしょう?

こんなに沢山の人が踊る歌舞伎座の舞台は、

私は初めてかも。

しかも、みんなが揃いの僧侶の姿。

剃髪に、黒を基調とした袈裟に身を包んでいます。

振り付けは直線的かつダイナミック。

腕をぐるぐると回し、激しい足音を立て、飛び、

指先はメラメラ燃える火の粉を模しているのか

不思議な動きを見せます。

沢山の役者がぴたりと呼吸を合わせ、

一糸乱れぬ踊りを見せるさまは

まさに「行法」、

強い祈りを感じ、思わず涙が出ました。

 

 

 

僧たちを演じたのは、市蔵さん、松江さん、

歌昇さん、萬太郎さん、巳之助さん、

新悟さん、尾上右近さん、廣太郎さん、

種太郎さん、児太郎さん、鷹之資さんなどなど。

ベテランから花形までが顔をそろえ、

オペラグラスで確認したい衝動にも駆られましたが、

群舞を全体で味わったほうが良いだろうと欲望を封印。

結果、素晴らしい舞踊を堪能することができました。

 



 

 

 

沢山の僧たちの先頭に立って踊った松緑さん。

持ち味が活きた、素晴らしい一幕でした!

再演、熱望。

 

 

 

三、梅雨小袖昔八丈

 (つゆこそでむかしはちじょう)

 髪結新三(かみゆいしんざ)

 

 

 

 

 

 

江戸の小悪党、髪結新三。

材木問屋の白子屋の一人娘のお熊と

手代の忠七が恋仲であることを知ると、

忠七を騙してお熊を誘拐し、

身代金をせしめようと企みます。

俠客の弥太五郎源七は

白子屋からの依頼でお熊を取り戻そうとしますが、

新三になじられ追い返されてしまう始末。

次にやってきた家主の長兵衛は、

老猾な掛け合いで新三をやり込めますが…。 

 

 

 

明治6(1873)年に初演された

河竹黙阿弥の人気の世話物です。

今回は、お芝居が始まる前に

黙阿弥の弟子・蔦三(蔦之助)が登場し、

相関図を見せながら前説をしています。

『FFX歌舞伎』の手法をここでも取り入れたようですが、

元々わかりやすいお芝居ですし、

2時間20分の長尺になったことを考えると、

なくてもよかったのではと感じました。

 

 

 

さて、このお話、

髪結(今の理容師さん、美容師さん)の

新三という男が主人公ですが、

これがなかなか悪い奴なのです。

演じるのは菊之助さん

お父様の菊五郎さんの新三は

何度も観ましたが、絶品!

江戸の人、という風情なのです。

菊之助さんは清潔感があって

生真面目な印象を持っていたので、

さて、この小ずるい男をどう演じるのかと

興味を持って観ましたが、

気合十分でしたね。

花道の出から目がぎらついていて、

うわあ、と。

忠七の髪を直しながら背後から掛ける台詞も、

ぞくっとしました。

そして、立ち姿!

尻ばしょりした着物から覗く足の形が

菊五郎さんにそっくり・・・、

ってどこ見てるんですか?

台詞回しや声色も、

菊五郎さんを彷彿とさせるところが沢山あって、

さあ、これから菊之助新三は

どういう風に進化を遂げるのか

楽しみになりました。

 

 

 

脇を固める面々も魅力的。

白子屋お常に雀右衛門さん、品があります。

萬太郎さんの忠七は頼りなくて可愛らしい。

息の合ったやりとりで舞台を締めるのは、

権十郎さんの家主長兵衛と萬次郎さんの女房おかく

さすがご兄弟。

長屋の家主とその女房という、

かたぎではありますが新三のはるか上をいく強者で、

とにかく可笑しい!

お見事でした!

そこに絡むと菊之助さんの演技もさらに冴え渡り

(強突張りにやり込められるトホホなキャラに変身)、

とてもキュートでした。

そして、彦三郎さん演じる弥太五郎源七

声がいい~!


 

 

声といえば、このお芝居には魚売りが

「かっつお、かっつお!」

と初鰹の売り声を聞かせる場面があります。

家先でカツオを捌く様子も見られるのですが、

このカツオの小道具がみごと!

包丁で頭を切り落とすと

内臓がにゅるっと一緒に付いてきたり、

包丁を入れると半身になるという芸の細かさ。

見ていてとにかく楽しい!

江戸の初夏の風情が味わえて、

庶民の暮らしぶりもわかる。

歌舞伎ビギナーにもお勧めの

とても楽しいお芝居です。

 

 

 

 

 

 

菊之助さん、

すっきりとした立ち姿がカッコいい。

目のお化粧がいつもと違った気が。

 

 

 

『團菊祭五月大歌舞伎』、

5月27日㈯千穐楽です。