ヤッホ~!帆足由美です。

 

 

 

11月の歌舞伎座は

「顔見世(かおみせ)」の興業です。

「顔見世」とは、

江戸時代の芝居小屋の年中行事のひとつ。

毎年11月、翌年1年間に出演する

俳優の顔触れを披露する興行で、

とても重要な意味を持ったものでした。

この「顔見世」が歌舞伎座に復活したのは

昭和32(1957)年。

歌舞伎ファンにとっては、

この11月の興業は心が浮き立つものなのです。

 

 

 

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そんな「顔見世」にふさわしく、今月の歌舞伎座は、

昼夜ともにバラエティに富んだ、

見応えのある作品がずらり並んでいます。

今回は、その昼の部の感想をば。

 

 

 

吉例顔見世大歌舞伎 昼の部

 

 

 

   湧昇水鯉滝(わきのぼるみずにこいたき)

一、鯉つかみ(こいつかみ)

 
 
 
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滝窓志賀之助実は鯉の精
/滝窓志賀之助        染五郎
小桜姫              児太郎
奴浮平              廣太郎
堅田刑部             吉之丞
篠村妻呉竹           高麗蔵
篠村次郎公光          友右衛門
 
 
 
『鯉つかみ』とは、水の中で
主人公と鯉の精の戦う鯉退治の様子を見せる
作品群の総称です。
18世紀の半ばにはすでに上演されており、
本水(ほんみず:本物の水)を使うことから
「夏芝居」の人気演目として上演を重ねてきました。
本名題『湧昇水鯉滝』としては、
大正十三(1914)年、東京本郷座で初演。
 
 
 
染五郎さんは平成二十三(2011)年、
四国こんぴら歌舞伎(金丸座)で上演。
また、平成二十七(2015)年、
ラスベガスのホテルベラージオの噴水に
特設舞台を組んで上演した様子は、
ニュースでも大きく取り上げられていましたよね。
今回は、歌舞伎座での初めての上演。
新たな脚本での上演ということです。
 
 
 
 
釣(つり)家の息女小桜姫は、
先年、急死した父の後を継ぐ身。
公達の滝窓志賀之助を婿に取ることになっています。
しかし、お家の重宝の龍神丸が紛失し、相続は保留、
志賀之助は龍神丸を探す旅に出たまま戻らずじまい。
気の晴れない日々が続いています。
そんな姫を少しでも慰めようと、今日、腰元たちは
姫を琵琶湖畔の蛍狩りに連れ出しています。
 
ところが、その蛍狩りの最中、
姫は一人小舟に乗って姿を消してしまいます。
実は小桜姫、
来世で志賀之助と夫婦になろうとまで思い詰め、
湖に身を投げようとしていたのでした。
すると、いきなり水面が波立って、
姫は気を失ってしまいます。
そこに現れたのが、なんと志賀之助!
気を取り戻した姫は
愛しい志賀之助との再会を喜びますが、
実はそれは、琵琶湖に古くから住む
鯉の精が化けた姿だったのです・・・
 
そうとは知らず、
志賀之助と二人、館へ戻った姫は、
家老の篠村次郎とその妻の呉竹に迎えられます。
篠村たちは、とにかく姫のためにと祝言を挙げさせ、
晴れて夫婦になった二人は奥の間へと入ります。
ところが、時同じくして館に現れたのは
龍神丸を持参した志賀之助。
篠村は二人目の志賀之助の出現に困惑しますが、
持参した刀は、確かに真の龍神丸です。
と、そこに関白家の使者の堅田刑部がやってきて、
龍神丸がなければ姫を差し出すよう迫ります。
志賀之助は龍神丸を抜いて威徳を見せると、
刑部を偽の使者と看破し、成敗します。
すると、奥座敷の障子に浮かぶ姫と鯉の影!
奥の間に押し入った志賀之助は
鯉の精と小桜姫を争って戦いますが、
奴浮平の邪魔立てもあり、
鯉の精に小桜姫と龍神丸を
飲み込まれてしまうのです。
実は、浮平は鯉の精の手下、蟹丸の化けた姿。
そして、鯉の精は、
琵琶湖に住んでいた先祖を滅ぼされた恨みから、
釣家を滅ぼそうと企んでいたのです。
 
鯉の精は、住家の大滝にと逃げ去りますが、
もちろん、志賀之助も後を追います。
そして、激しい戦いの末、みごと鯉の精を退治。
小桜姫を助け出し、龍神丸も手に入れるのでした。
 
 
 
 
ファンタジックで、仕掛けもいっぱい!
けれん味たっぷりの、
肩の凝らないお芝居です。
 
 
 
第一場は、蛍火がちらちらと飛び交い幻想的。
第二場は、しっとりとした小桜姫の姿が印象的。
志賀之助に化けた鯉の精との所作事も見どころ。
続く第三場、
二人登場の志賀之助は一人二役で演じられます。
早替わりの演出も楽しいのですが、
同じ姿なのにちょっと違う、その演技の匙加減も妙味。
他にも、障子に浮かぶ鯉の姿、龍神丸のパワーなど、
歌舞伎らしい演出が楽しめます。
そしていよいよ第四場、
本水を使った立ち廻りです!
鯉の精と志賀之助の早替わりをしながら、
ざあざあと落ちる滝の水、そして
湖を模した水の中での激しい戦い、
実に、楽しい!!
 
 
 
この第四場の鯉の精は、
巨大な鯉の着ぐるみを被った役者さんが、
グレイの全身タイツで演じるのですが、
水をばっちゃんばっちゃんはね散らかして大サービス!
一番前の席の皆さまは
ビニールシートでガードしながらの観劇です。
理屈抜きに楽しめる場面ですが、
実は、この鯉の精の姿が、私には、
千葉ロッテマリーンズのキャラクター、
【謎の魚第二形態】に重なって仕方なく・・・(;^_^A
だって、鯉から足がにょっきりと。
別の意味でも、楽しませてもらいました(;^_^A(;^_^A
 
 
 
志賀之助と鯉の精の二役は、染五郎さん。
これが、染五郎としては最後の舞台。
お水をバシャバシャ跳ね飛ばしながら楽しそう。
でも、決めるところはびしっと決めて、
大滝の中での見得はかっこよすぎてしびれました!
また、児太郎さんの小桜姫は、
艶やかで色っぽくて、可愛らしいお姫様でした。
 
 
 
歌舞伎ビギナーにも楽しめる、
わかりやすい、カラフルな一幕です。
 

 

 

 

二、奥州安達原(おうしゅうあだちがはら)

   環宮明御殿(たまきのみやあきごてん)の場
 
 
 
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安倍貞任      吉右衛門
袖萩         雀右衛門
安倍宗任      又五郎
八幡太郎義家   錦之助
平傔仗直方    
浜夕         
 
 
 
時代物の名作『奥州安達原』は、
宝暦十二(1762)年に人形浄瑠璃として初演。
翌年、歌舞伎に移行しました。
 
 
 
素材となったのは「前九年の役」。
平安時代末期、源頼義・義家父子と、
陸奥の豪族、安倍頼時、
その息子の貞任・宗任の兄弟との
間に起きた戦いです。
そこに安達原の鬼女伝説などを絡め、
お家再興を目指す貞任、宗任兄弟の、
義家への復讐を描いているのです。
そのお芝居の中でも、三段目の切に当たる
『環宮明御殿』は単独上演も多く、
『袖萩祭文(そではぎさいもん)』の通称でも知られます。
歌舞伎座では、11年ぶりの上演です。
 
 
 

 

源義家が奥州安倍氏の反乱を平定した後のこと。
皇弟の環宮(たまきのみや)が何者かに誘拐され、
その守役である平傔仗直方
(たいらのけんじょうなおかた)に
切腹の命が下されます。
そこへ、父の難儀を知った娘の袖萩が、
雪の降りしきるなか、
幼い娘のお君とともに駆けつけます。
この袖萩は、かつて直方の反対を押し切り、
浪人者と夫婦のなったため勘当となった娘。
しかも、一人娘のお君をもうけた後、
夫は行方知れず。
貧しさゆえに盲目となり、今は
祭文を語る瞽女として暮らしているのですが、
その情けない身を顧みず、
ただひと目両親に会いたいとやって来たのです。
 
しかし直方は、親に逆らい
駆落ちをした娘の対面を許しません。
袖萩は不孝を詫びる祭文を語りながら
父母へ許しを乞い、
せめてお君の姿だけでも見てほしいと願います。
しかし、母の浜夕も、わざと辛く対応します。
しかも、直方は、
「妹の敷妙は義家の妻なのに、
姉の袖萩は身分もわからぬ男を夫にし、
性根まで成り下がった者」
とまで言い放ちます。
さすがに耐えきれなくなった袖萩は、
夫がれっきとした侍である証拠として
書付を直方に渡すのですが、
その書状から、袖萩の夫は実は朝敵である
安倍貞任その人であり、また、その筆跡から、
環宮をさらった張本人であることが露見します。
すべてを悟った直方は、
浜夕とともにその場を去ります。
 
深い悲しみと雪の寒さで、持病の癪を起す袖萩。
自分の着物を脱いで、健気に介抱するお君。
武士の妻ゆえ、手を差し伸べられず、
窓から打掛を投げ与える浜夕。
 
と、そこへやってきたのが貞任の弟宗任です。
義家の命を狙うため、わざと捕らえられ、
この館にいたのです。
宗任は、兄貞任の大願成就のためにも
直方を殺すようにと、袖萩に伝えます。
しかし、袖萩にはできるわけもありません。
宗任から渡された懐剣で自らの胸をつく袖萩。
そして、それはちょうど、
直方が切腹を遂げた時分なのでした。
館の表と内で、苦しみに耐えながら、
来世で親子の対面をしようと語る二人。
 
さて、切腹を見届けるためにやって来た
桂中納言教氏は、その場を立ち去ろうとしますが、
それを呼び止めたのが源義家。
実は、この教氏こそが、安倍貞任。
智略すぐれる義家は、貞任・宗任兄弟の企みを
とうに見抜いていたのです。
それなら、と勝負を挑もうとする貞任でしたが、
その短慮を諫めたのは義家。
貞任を袖萩とお君に対面させ、
戦場での再会を約束するのでした。
 
 
 
 
悲劇ですなあ。
謝罪を重ねても親に会えない
袖萩も気の毒ですが、
武家ということで娘に会えない
直方・浜夕夫婦も気の毒。
自分の大願のため
妻子をそんな辛い目に合わせている貞任も
気の毒な人物です。
悲運の連鎖に泣かされるのです。
 
 
 
袖萩と貞任は
一人二役で演じられることが多いのですが、
今回は貞任を吉右衛門さん、
袖萩を雀右衛門さんが演じます。
主人公である貞任は、最後の最後、
30分くらいしか舞台に登場しないのですが、
そこは吉右衛門さんの存在感!
どっしりとした重みで、
それまでほかの登場人物の語ってきた物語を、
びしっとまとめあげていきます。
すべてはこの人物の目論見が、
悲劇の大元だったのだ、と。
でも、多くの人々を犠牲にした
独りよがりの復讐劇には、見えない。
妻子への愛もきちんと心の奥に持った、
血の通った人物に映るのです。
勅使に化けた貞任の衣装の
「ぶっ返り」は目に鮮やか。
公家の直衣姿から、引き抜きで
即座に衣装を変えて武士の姿になるのです!
その勇壮な武士の姿を見せた後での、
妻子への情愛を示す姿。
この緩急もたまりません。
 
 
 
袖萩を演じた雀右衛門さん。
しんしんと降る雪の中、三味線を弾きながら、
両親への詫びを祭文に事寄せ語る哀れさ、健気さ。
泣かされました。
そして泣かされたといえば、娘のお君ちゃん。
私の観た日は、高丸えみりちゃんという
子役の方が演じていましたが、
長い台詞をよく通る声で話し、実に立派。
甲斐甲斐しくお母さんを介抱する姿には、
すっかり泣かされてしまいました。
 
 
 
その他、歌六さんの直方、東蔵さんの浜夕、
錦之助さんの義家、又五郎さんの宗任と、
脇の役者さんも皆さん、素晴らしかったです。
 
 
 
実にいいお芝居でした!
 
 
 

 

三、雪暮夜入谷畦道

   ゆきのゆうべいりやのあぜみち)

   直侍(なおざむらい)

 

 

 

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片岡直次郎   菊五郎
三千歳      
亭主仁八     
女房おかよ   
寮番喜兵衛   調
暗闇の丑松   
按摩丈賀    蔵 

 

 

 

明治十四(1881)年、東京新富座で初演された

河竹黙阿弥作『天衣紛上野初花
(くもにまごううえののはつはな)』
は、

河内山宗俊と片岡直次郎の

二人の悪党を主人公にした作品です。
全七幕の長編のうち、
直次郎を中心とした物語を上演する際は
『雪暮夜入谷畦道』という外題が使われます。
ちなみに、河内山も片岡直次郎も
実在した人物です。

 

 

 

 

雪の降りしきる夜。
吉原にほど近い入谷田圃の蕎麦屋に
御家人崩れの片岡直次郎がやって来ます。
御数寄屋坊主の河内山宗俊とともに
数々の悪事に手を染めた直次郎は、
今は役人に追われる身。
しかし、落ち延びる前に、恋人の

傾城三千歳(みちとせ)に一目会いたいと、

ここまでやって来たのです。
直次郎に会えない悲しみから
気の病にかかった三千歳は
大口屋の寮で養生をしていました。

そこにやって来たのが、

直次郎もよく知る按摩の丈賀(じょうが)。
丈賀は蕎麦屋の夫婦に、毎晩、

三千歳の療治に通っていると語り始めます。

目の見えない丈賀に気取られぬよう、
息をひそめてその話を聞く直次郎。

そして、先に蕎麦屋を出ると
丈賀が店を出てくるのを待ち伏せし、

三千歳への手紙を託けます。
丈賀の姿を見送りながら、
三千歳との再会が叶うことを喜ぶ直次郎。

 

そこに声をかけてきたのが、
弟分の暗闇の丑松です。
どこに逃げるつもりかを語り合い、
互いの無事を祈って別れる二人でしたが、
直次郎の後ろ姿を見送るなか、
丑松の心にある考えが浮かびます。
直次郎の行き先を訴え出れば、
自分の罪が軽くなるに違いない。
雪の中、駆け出す丑松・・・。

大口屋の寮までやって来た直次郎、
三千歳との久しぶりの再会を果たします。
久々の逢瀬を喜ぶ二人でしたが、
直次郎は三千歳にこう告げます。

今宵かぎりで会えなくなる。
夫婦になる約束を記した起請を返してほしい。
そして、これまでの悪事を包み隠さず告白します。
しかし、とうに事情に気付いていた三千歳は、

縁を切るなら殺してほしいと
涙ながらに訴えます。
かき口説く三千歳に対し、

自分が仕置きを受けて死んだときには、
墓を立て、菩提を弔って欲しいと頼む直次郎。
しかし、そこに追手が現れます。
丑松の訴人で居所が知れたのです。

直次郎は三千歳に別れを告げると、

雪の中を、一人落ち延びていきます。

「直はん・・・!」

辺りには、三千歳の悲痛な叫び声が

響き渡るばかりです・・・

 

 

 

 

 

河竹黙阿弥の美学が凝縮したお芝居です。

悪党が落ち延びていく。

ただそれだけのお話なのに、

粋で美しく、そして切ないのです。

 

 

 

主人公の直次郎は、

素材になった講談では

野暮な小悪党として描かれているそうですが、

黙阿弥は、五世菊五郎のために、

粋でカッコいい悪党の直次郎を生み出しました。

その黙阿弥の描いた直次郎に、

代々の菊五郎が工夫を重ね、

今日の魅力に満ちた直次郎が

出来上がっているというわけです。

 

 

 

直次郎は雪の花道を番傘をさして登場します。

着物は裾を端折り、素足で下駄ばき姿、

手拭いで頬被り、という出で立ちなのですが、

これが、計算されつくした粋な姿なのです。

手拭いの真ん中はピン!と筋が入り、
色気が匂いたちます。

 

 

 

足さばき、傘の扱い、雪の払い方。

一つ一つの所作も素敵なのですが、

カッコいいのが蕎麦の食べ方!

本物の蕎麦を食べるのですが、

つるつるっと粋にそばを手繰る、そんな細かい仕草も、

直次郎のカッコよさの演出に使われているわけです。

ちなみに、直次郎のカッコよさを際立たせるために、

直次郎の前に蕎麦屋で蕎麦を食べる二人は、

わざとモソモソ食べる、という演技をしています。

 

 

 

そしてこの芝居の最大の見どころは、

二幕目の直次郎と三千歳の逢瀬。

黙阿弥は清元が大好きだったということですが、

この場面では清元の名曲

「忍逢春雪解(しのびあうはるのゆきどけ)」
を使いながら、
美男美女のラブシーンが
情緒たっぷりに、しっとりと演じられます。

ただ艶っぽい、だけでなく、

死をも意識した二人の色模様は、
実にドラマティックで、

散りぎわの花のような儚い美しさ。

 

 

 

菊五郎さんの直次郎は、

見なきゃ損でしょう!と言いたいくらいのカッコよさ。

姿はもちろんですが、台詞回しも粋なのです。

対する時蔵さんの三千歳は、色っぽくて可愛くて。

もう、この二人、ずっと眺めていたいんですけれど、

という絵になるカップル。

 

 

 

團蔵さんの丑松、家橘さんの蕎麦屋亭主、

さんの蕎麦屋女房と、

脇を固める皆さんの芝居も皆よかったのですが、

すごいな、と思ったのは按摩の丈賀を演じた東蔵さん。

さっきまで、武家の奥さまだったのに~。

なんであんなに、どんなお役も

ナチュラルに説得力をもって演じられるのかしら。

すごい。

 


 

一つ一つの場面が絵のような風情。

絶品のひと幕に、

うっとりした気持ちで歌舞伎座を後にしたのでした。

 

 


『吉例顔見世大歌舞伎』

11月25日(土)千穐楽。

 



今回の幕間。

 

 

 

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ホテルオークラの「ローストビーフサンド」♪

 

 

 

銀座三越で購入。

最近、昼はこればかりですが、

美味しいんだもの。