ヤッホ~!帆足由美です。

 

 

 

今回は、先日観てまいりました

歌舞伎座公演第一部の感想です。

 

 

 

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久々の青空バックの歌舞伎座。

 

 

 

『八月納涼歌舞伎』 第一部

 

 

 

   長谷川伸 作

   坂東玉三郎 演出

   石川耕士 演出

一、刺青奇偶(いれずみちょうはん)

 
 
 
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半太郎        
お仲          七之助
赤っぱの猪太郎  
従弟太郎吉       萬太郎  
半太郎母おさく    
半太郎父喜兵衛   
荒木田の熊介    
鮫の政五郎     染五郎 

 

 

 

『沓掛時次郎』『一本刀土俵入り』など

数々の戯曲を書いた長谷川伸の名作です。

初演は昭和七(1932)年、歌舞伎座。

 

 

 

 

 

博奕好きが昂じて喧嘩沙汰を起こし、

江戸を追われた半太郎は、

下総の行徳で生まれ故郷を思いながら

暮らしています。

そんなある日、半太郎は、

船場で身投げをした女を救います。

しかし、方々へ身を売られ続け、

酌婦勤めの生活に疲れ果てている女は

すっかり自暴自棄。

半太郎に素直に礼を言うどころか、

男の目的はただひとつ、自分の体だ

と言い捨てる始末。

その言葉にかっとなった半太郎、

しなだれかかる女を突き放し、

「見損なうな。

娑婆の男の見直しをしてみやがれ!」

その場を立ち去っていくのでした。

半太郎の心根にようやく気付き、

後を追っていくその女の名は、

お仲というのでありました。

 

お仲が追っていったその先には、

半太郎の住むあばら家がありました。

折しも半太郎は逃げ支度の真っ最中。

昔、人を斬ったことが露見し、

訴人されてしまいそうなのです。

事情を知ったお仲は、

自分も連れて行ってと頼みます。

願いを受け入れた半太郎は、

お仲の手を取りその場を立ち去ります。

が、入れ違うようにしてやって来たのが、

半太郎の母のおさくと従弟の太郎吉・・・。

 

夫婦となった半太郎とお仲は、

江戸のはずれ、南品川の漁師町で

所帯を持ちます。

しかし、半太郎の博奕好きは相変わらず。

貧しい暮しが続いています。

しかも、お仲は重い病を患い、

床に臥せる日々。

医者いわく

「会わせたい人がいるなら今のうちに」

悟られぬよう明るく振る舞う半太郎でしたが、

自分の体のことです、

死期が近いことがお仲には分かっているのです。

半太郎の右腕に刺青を彫らせてほしい、

と頼み込むと、そこに彫られていたのはなんと

骰子(さいころ)の絵。

自分がこの世を去った後には、

どうかこの刺青を見て、

「博奕はいけない」

と言っていた自分の言葉を

思い出してほしい、と語るお仲。

涙を流しながら、

博奕は二度としないと誓う半太郎。

 

ところが、半太郎は再び賭場へと赴きます。

そして、イカサマ騒動を起こし、

博徒たちに打ち据えられてしまいます。

そこに現れたのが、

賭場を仕切る鮫の政五郎。

死を目前にした女房に

最後の孝行をしたくて賭場荒らしをしたのだ。

涙ながらに打ち明ける半太郎に、

政五郎は、命を賭けた勝負をしよう

と申し出ます。

大博奕に勝ったのは、半太郎でした。

政五郎から金包みを受け取った半太郎は、

お仲の許へ急ぐのです・・・

 

 

 

 

さて、この後半太郎とお仲は

どうなるのでしょう?

お仲は医者の見立て通り、死んでしまうのか?

半太郎は博奕から足を洗えるのか?

離れて暮らす両親とは再会できるのか?

 

 

 

作者の長谷川伸はすべてを描かず、

観る者の想像力をかき立てます。

行間や余韻が豊かなお芝居です。

 

 

 

序幕、行徳の船場、

そこにぽつんと佇むお仲の後ろ姿は

水彩画のような美しさ、切なさ。

また、博奕で身を持ち崩した半太郎が

川向こうの故郷を思う姿にもあわれを感じます。

長谷川伸は、こうした人生につまづいた人物を、

いつも温かい視線で描写します。

社会の底辺で生きる人々のなかの、

魂の美しさを掬い取るのです。

互いに、日の当たる生活から

はじかれてしまった者同士ではあるけれど、

半太郎と出会ったことでお仲は息を吹き返す。

半太郎も、心根の素晴らしさを見せる。

運命の二人なのだ、と思います。

 

 

 

二幕目は、夫婦となった二人の情愛が

心に沁みます。

本当に、互いを愛し、

かけがえのない存在と思っていることが

あちこちから伝わります。

最大の見どころは、

病床のお仲が辛い身体を蒲団からおこし、

半太郎の腕に骰子の刺青を彫る場面。

大きな動きはないのに、じっと見入ってしまいます。

お仲の気持が痛いほど伝わってくるのです。

そして、この場面を見せておいての、

後半の半太郎の賭場荒らし。

ドラマの見せ方が巧みです。

 

 

 

さて、今回の公演は、

玉三郎さんが石川耕士さんと共同演出。

どうしても玉さまの痕跡を探しながらの

観劇となってしまいます。

いや、わざわざ探すまでもなく、

随所から玉三郎さんの美学が匂いたちます。

 

 

 

私がこのお芝居を観たのは

平成20年4月の歌舞伎座。

勘三郎さんの半太郎、玉三郎さんのお仲、

政五郎は仁左衛門さん、

という素晴らしい顔合わせで、

すっかり泣かされた記憶がありますが、

今回は、その玉三郎さんの演出。

 

 

 

筋書には、

「昔の良い時代の雰囲気が醸し出すことができるように」、

「長谷川先生の描く物語の展開、心模様を

より浮かび上がらせることができるように工夫していきたい」

という玉三郎さんの決意が書かれていましたが、

シンプルでありながら雄弁な、

深いお芝居になっていました。

 

 

 

中車さんの半太郎、七之助さんのお仲、

染五郎さんの政五郎はいずれも初役。

七之助さんは、

玉三郎さんが乗り移ったか、というお芝居。

姿かたちも声も違うのに。もう、びっくりです!

声色、セリフ回し、玉三郎さんそのもの。

ホントに七之助さん!?

と何度もオペラグラスで確かめてしまいました。

筋書には、お父上と玉三郎さんの『刺青奇遇』

涙したエピソードが書いてありましたが、

大先輩の後を追うというのは、こういうことなのだな、

と思いました。

序盤の、すべてに捨て鉢なやけっぱちな感じから、

半太郎の心根に打たれ、

たちまちしおらしい様子に変わる可愛らしさ。

情愛たっぷりに刺青を彫る姿の切ない色香。

それぞれ見事と思いましたが、次回は、

さらに七之助さんの色のお仲を観たいものです。

それにしても、第二部では女医・羽笠、

第三部では夜長姫。

なんと、芸の幅が広いことでしょう!

近年、めきめき魅力を増していますね。

半太郎は中車さん。

存在感は抜群なのですが、

もっと普通に演じてもよいのでは、と思いました。

元々上手い人なのですから。

お仲やおたけ、政五郎など、

他の人物と絡む場面は良いのですが、

一人で台詞をしゃべるところがどうもよくない。

努めて歌舞伎らしさを出そうとしているのか、

何か台詞に引きずられている感じがしました。

もったいなかったな。

そして、染五郎さんの政五郎。

こちらも、オペラグラスでガン見(^o^;)

声がいつもと全然違う!

お芝居の最後の最後に登場して、

スカッとした印象を残さないといけない役どころ。

とても頑張っていたと思いますが、

線が細い印象です。

 

 

 

脇を固める役者さんは皆、すばらしかった!

猿弥さんの熊介、

わかりやすいくっきりとした小悪党。

舞台が締まります。

半太郎の母おさくは梅花さん。

出番はわずかですが、

息子への情愛がしっかり伝わります。

そして、おたけ役の芝のぶさん!!

この方、大好きな役者さんなのです。

第三部『桜の森の満開の下』

エナコの迫力にも度肝を抜かれましたが、

このお芝居のおたけの、なんと素晴らしいこと!

身体中からにじむ深い情に、感動しました。

 

 

 

 

人情劇でしんみりした後は

餅つきにちなんだ楽しい舞踊二題です。

 

 

二、上 玉兎(たまうさぎ)

   下 団子売り(だんごうり)

 

 

 

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〈玉兎〉    玉兎 勘太郎

 
 

今宵は中秋の名月。

月に住む玉兎が、餅つきをしています。

杵と臼とを持ち出して軽やかに餅をついた玉兎は、

「かちかち山」の世界の爺さんや婆さん、

仇である狸などを躍り分けます。

そして、再び杵を担いで餅つきを始めるのでした。

 

 


舞台に昇った大きな丸い月から兎が飛び出し、

餅つきを始める、という楽しい舞踊です。

兎の出で立ちは、

赤い下がりに袖無しという、餅つき職人の格好。

頭の鉢巻きは兎の耳の見立てです。

メルヘンの世界です!

 

 

 

玉兎は、現在6歳、

今年二月に初舞台を踏んだばかりの勘太郎くん。

とにかく、可愛らしい!

そして、堂々としています!

10分くらいの短い舞踊ですが、

大きな歌舞伎座の舞台で

沢山の観客を前にたった一人で踊るなんて。

すごいことです!

沢山、練習したんだろうなぁ。

毎日、復習しながら、

舞台に立っているんだろうなぁ。

終始「頑張れ~」と

心の中でエールを送りながらの観劇でしたが、

歌舞伎座じゅうのお客が

同じ思いであったことでしょう。

歌舞伎の役者さんたちは、

こうして大きくなっていくのですね。

おばさんも頑張らにゃ、と思いましたよ。

 

 

 

 

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〈団子売り〉 お福 猿之助

        杵造 勘九郎

 

 

 

街で評判の団子を商う杵造とお福が、

餅屋台を担いでやって来ます。

人々に口上を述べた二人は

息の合った様子で餅をつき、

団子を作り始めます。

そして、杵造はひょっとこ、

お福はお多福の面をつけて軽快に躍り、

さらにおめでた尽くしの歌詞とともに

賑やかに踊ると、

次の街へと出かけていくのでした。

 

 

 

ずっと観ていたくなる楽しい躍りです!

杵造は勘九郎さん、きびきびとした動きが素敵。

爽快な気持ちになります。

猿之介さんのお福は愛嬌たっぷり。

柔らかな動きが素晴らしい。

本物の夫婦のように息の合った二人の踊りに、

ただただ、幸せな気分になりました。

思えば三部制の演目の内、

この一幕が一番歌舞伎らしいかも。

 

 

今回の幕間。

 

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ホテルオークラのローストビーフサンド♪

大好きなんです、これ。

 

『八月納涼歌舞伎』

27日(日)千穐楽です。