ヤッホ~!帆足由美です。
 
 
 
 
今月の歌舞伎座の興業は
江戸歌舞伎三百九十年
という冠がついています。
寛永元年二月、
初代猿若勘三郎が官許を受け
現在の京橋の一角、
中橋南地に猿若座の櫓を上げ、
江戸で歌舞伎興行を始めたのを
記念しての興業なのです。
今回はその昼の部の感想です。
 
 
 
江戸歌舞伎三百九十年
『猿若祭二月大歌舞伎』昼の部
 
 
 
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   田中青磁 作
一、猿若江戸の初櫓(さるわかえどのはつやぐら)
 
 
 
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猿若         勘九郎
出雲の阿国     七之助
若衆         宗之助
若衆         児太郎
若衆         橋之助
若衆           福之助
若衆          吉之丞
若衆         
福富屋女房ふく  萬次郎
奉行板倉勝重   彌十郎
福富屋万兵衛   鴈治
 
 
 
初世勘三郎が猿若座(のちの中村座)を
創設したのは寛永元(1624)年。
江戸三座の始まりとされています。
その初世勘三郎は、道化役の「猿若」を演じ、
自分の姓にもしていました。
このお芝居は、
猿若が江戸に芝居小屋を建てるまでを、
史実とフィクションないまぜにして描いた舞踊劇。
江戸歌舞伎三百六十年を記念した「猿若祭」が
昭和六十二(1987)年に
歌舞伎座で催された際に初演されました。
 
 
 
 
新年を迎えた江戸の町。
京で評判となった歌舞伎踊りの
出雲の阿国と道化の猿若がやってきます。
その道中に出会ったのが、
将軍家への献上品を荷車に乗せて運んでいた
材木商の福富屋万兵衛と女房のふく。
狼藉者が暴れているため立ち往生して困っている、
という事情を聞いた猿若は、
一座の若衆たちに車を曳かせ、問題を解決します。
と、そこにやって来たのが奉行の板倉勝重。
猿若たちの働きを褒め、
褒美として江戸中橋の所領を与えたうえ、
江戸での興行を許可し、
しかも、福富屋に芝居小屋の普請を命じます。
大喜びの猿若たちは、
お礼として舞を披露するのでした。
 
 
 
 
楽しく、めでたく、
華やかな気分になる舞踊劇です。
音楽がいい。踊りも面白い。
新しい作品のため、言葉もとても分かりやすく、
ビギナーにもおすすめです!
 
 
 
もちろん、伝統的な歌舞伎らしさも
存分に味わえますよ。
阿国や若衆の衣装は
役者らしくとても華やかで大胆。
柄オン柄、色オン色、
日本古来の着物の意匠に改めて感心します。
主人公の猿若も素敵な衣装ですが、
後半の猿若舞のときの装束がとびきり素敵。
朱色の頬かむりをして
朱色の綱紐を華麗に操りながら
軽やかに舞を披露するのですが、
これは昔ながらの寿狂言の格好なのだとか。
 
 
 
勘九郎さんの猿若は、カッコいい!の一言。
前半にはひょうきんなムードをまき散らして笑わせ、
後半、装束を改めての決め台詞。
「これは今日(こんにち)の猿若でござる~」
しびれました!
踊りもキレキレで素晴らしかった。
 
 
 
阿国の七之助さんはすっきりと艶やか。
さすが勘九郎さんとの息もばっちり。
ずらり並んだ若衆も目の保養。
 
 
 
おめでた~い気分に浸りながら
江戸歌舞伎の伝統に思いを馳せ、
さらなる歌舞伎の発展を願うことになるという
ファンにとってはたまらない一幕でした。
 
 
 
 
二幕目は、天明期に生まれ、
昭和になって復活上演された珍しい作品。
 
 
   河竹黙阿弥 作
   初代桜田治助 作
   戸部銀作 補綴
二、大商蛭小島(おおあきないひるがこじま)
   「黒髪」長唄連中
 
 
 
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正木幸左衛門実は源頼朝      
地獄谷の清左衛門実は文覚上人  勘九郎
/北条時政
おます実は政子の前          七之助
清滝                    児太郎
熊谷直実                 
畠山重忠                 廣太郎
佐々木高綱               
三浦義澄                 福之助
下男六助                 寿
家主弥次兵衛              
女房おふじ実は辰姫          時蔵
 
 
 
 
雪の降りしきる年明け早々の伊豆下田。
手習いの師匠をしている
正木幸左衛門は大変な女好きです。
女房のおふじは激しい焼きもちを焼いていますが、
手習い子は若い娘ばかり、気の休まる暇がありません。
そこに、幸左衛門宅を訪ねてやって来たのが、
おますという美しい娘とその姉。
留守中の夫に代わって対応したおふじは、
これ以上若い女を近づけてなるものかと、
二人を追い返してしまいます。
が、ちょうど戻ってきた幸左衛門は、
二人に物置でしばらく待つように指示するのでした。
 
 
帰宅した幸左衛門は
手習い子たちの指導を始めますが、
手を触ったりほおずりしたり、
しまいには膝枕までする始末。
とうとう堪忍袋の緒が切れたおふじは
去り状を書けと迫りますが、
これはいつもの夫婦喧嘩。
結局おふじは許してしまうのでした。
 
 
弟子の娘たちが帰ると、
地獄谷の清左衛門と名乗る乞食坊主が
一夜の宿を求めてやって来ます。
幸左衛門とおふじは酒でもてなしますが、
やがて清左衛門は
源義朝のものだという髑髏を取り出して、
これで酒を飲んではどうかと
幸左衛門に勧めます。
相手にせず、奥の間へ入る幸左衛門・・・。
 
 
実は、幸左衛門は源頼朝。
伊豆国蛭子島に流罪となりながら、
平家方の伊藤祐親の娘、辰姫と懇ろになり、
辰姫はおふじと名乗っていたのです。
そして、先刻、幸左衛門を訪ねてきたおますは、
実は北条時政の娘の政子。
また姉娘は、亡き源義朝の忠臣、
鎌田正清の娘の清滝でした。
 
 
その事実を知った辰姫は身を引く決意を固めます。
源氏再興の旗揚げのためには
北条時政の助けが欠かせない。
頼朝は、自分ではなく、
時政の娘の政子と夫婦になるべきだ。
辰姫の思いを聞いた頼朝は感謝をし、
政子と祝言を上げることにするのです。
二階の座敷から
頼朝と政子の睦み合う声が聞こえるなか、
辰姫は一人寂しく髪を梳きます。
抑えようと思うほどに、湧き上がる激しい嫉妬の心。
もう堪えられない!
髪ふり乱し、二階に駆け上がろうとしたその時
現れたのが清左衛門。
その祈りによって辰姫の邪心は消え去ります。
実は、清左衛門の素性は、
後白河法皇から下された
平家追討の院宣を持つ文覚(もんがく)上人。
平家を討つ意思があるのか、
頼朝の真意を確かめにここまで来たのでした。
互いに素性を明かし、頼朝は院宣を受け取ります。
そこに北条時政が豪族たちを率いて駆けつけ、
頼朝は平家討伐の旗揚げを告げ、
夜明けとともに出陣するのでした。
 
 
 
 
初演は天明四(1784)年、中村座。
その後上演が途絶え、
昭和三十七(1962)年におよそ180年ぶりに
歌舞伎座で復活上演されたという作品です。
上演記録を見ると、
その後は昭和四十四年の国立劇場のみですから、
多くのお客さんは今回初めて観た、
ということになるでしょう。
 
 
 
歌舞伎では「○○実は××」というような
素性を隠した設定がよくあるのですが、
このお芝居は、主要人物が
ことごとく素性を隠しているので、
あらすじだけ読むと不安になります。
いったいついて行けるのか・・・?
大丈夫です!
非常に分かりやすく出来ていました。
見せ場がはっきりとしているのです。
 
 
 
前半は、おふじの尋常でない焼きもちの焼き方、
幸左衛門の好色っぷりに大笑いさせられます。
中盤は、乞食坊主の清左衛門が
髑髏を取り出すところから急展開。
一気に不穏な空気に包まれて、
実は、とそれぞれの素性が明らかになります。
また、長唄の代表曲「黒髪」の使われる
辰姫の髪を梳く場面は、
火の玉が飛んだり、手水鉢の水が煮えたぎったり、
辰姫ざんばら髪になったりと、
オカルト・ホラーの様相。
そして最後、駿河湾に昇る朝日を背に受けて
平家討伐の旗揚げをする源頼朝一行の姿は、
とてもありがたい雰囲気。
歌舞伎らしい華やかさで幕となるのです。
 
 
 
筋書の松緑さんのインタビューを読むと、
天明歌舞伎らしいおおらかさを残しつつも、
今の観客の嗜好に合うように
凝縮した舞台になるよう工夫した、とのこと。
テンポもよくしたのでしょうね。
こうしておさらいをすると、1時間15分の中に
よくもこれだけ詰め込んだな~と思いますが、
全く飽きることなく、楽しく観ることができました!
 
 
 
復活上演の際には
おじい様の二世松緑の演じていた幸左衛門。
女好きの手習いの師匠、
なんて松緑さんは初めて観た気がしますが、
いやらし過ぎず、好感を持って観ることができました。
時蔵さんとのコンビネーションもよかったし、
頼朝になってからも立派。
勘九郎さんの清左衛門が文覚上人と素性を明かし、
二人ですっくと立つ姿、素敵でした。
 
 
 
七之助さんの政子はとにかく愛らしい。
児太郎さんの清滝はちゃきちゃきと歯切れがいい。
手習い子の芝のぶさんが見せ場があって嬉しかった!
 
 
 
女形の皆さんもたくさん登場するお芝居ですが、
なんといっても素晴らしかったのは時蔵さん!
焼きもち焼きのおふじの
なんと可笑しくて可愛らしいこと。
何度も大声で笑ってしまったけれど、
その後、夫思いの貞淑な武家の女房になったかと思えば、
嫉妬に荒れ狂う女となり・・・。
こんなにも変化を遂げる役どころなのに、
自然で無理がない。
すべて頼朝への愛ゆえなのね、
と納得してしまう素晴らしい演技でした。
 
 
 
今後も上演してもらいたい、
見どころ満載のお芝居でした。
それこそ、ビギナーに歌舞伎の面白さを伝えるには
うってつけの作品だと思うのだけれど。
 
 
 
 
三幕目は、黙阿弥の晩年の名作。
 
 
三、四千両小判梅葉(しせんりょうこばんのうめのは)
   四谷見附より牢内言渡しまで
 
 
 
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野州無宿富蔵    菊五郎
女房おさよ      
伊丹屋徳太郎    錦之助
浅草無宿才次郎  
寺島無宿長太郎   菊之助
黒川隼人       
頭            亀三郎
三番役         寿
下谷無宿九郎蔵  萬太郎
ぐでんの伝次    橘太郎
下金屋銀兵衛     松之助
穴の隠居       由次郎
数見役         権十郎
石出帯刀       調
生馬の眼八     
隅の隠居        
うどん屋六兵衛   
浜田左内       彦三郎
牢名主松島奥五郎 左團次
藤岡藤十郎       玉 
 
 
 
幕末の安政二(1855)年に実際に起きた
江戸城の御金蔵破りの事件を素材にしています。
初演は明治十八(1885)年、東京千歳座。
 
 
 
 
江戸の町で屋台のおでん屋をしている富蔵は、
冬の夜、四谷見附外の堀端で、
主筋の藤岡藤十郎に出会います。
今や浪人の身の藤十郎は、
遊女に入れあげて金に困り、
同じ遊女を取り合う男を待ち伏せして、
金を奪おうとしているのです。
富蔵自身はといえば、
今はおでん屋として暮らしていますが、
八年前に野州(やしゅう:下野国。今の栃木県)で
盗みを働いたかどで召し捕られ、
腕に入れ墨のある身。
それをごまかすために入れた
雲竜の彫り物を見せながら、
どうせ悪事を働くなら大きな仕事をしよう
と、江戸城の御金蔵破りを持ちかけます。
 
 
やがて二人は、
江戸城の御金蔵から四千両を盗み出し、
藤十郎の住まいに金を運び込みます。
すぐに山分けしようという藤十郎に対し、
すぐに金を使っては足がつくため、
しばらくは貧乏暮らしに甘んじて、
ほとぼりが冷めた頃に
金子を銀に変えると語る富蔵。
肝の据わったその様子が怖くなった
藤十郎は富蔵を斬ろうとしますが、
富蔵は動じません。
恐れをなし、詫びる藤十郎。
そして二人は、盗んだ金を床下に埋めるのでした。
 
 
その後、盗んだ金のうちの
三百両を受け取った富蔵は、
生き別れた母に会いに向かった金沢でで捕えられ、
唐丸籠(とうまるかご)に乗せられて
江戸へ送られようとしています。
籠が熊谷までやって来た時、姿を現したのは、
土地の親分、生馬の眼八。
富蔵に恨みを持つ眼八は富蔵を散々に罵倒しますが、
心ある警固役の浜田佐内は眼八を追い返します。
それと入れ替わるようにやって来たのが、
富蔵の離縁した女房おさよと娘のお民、
そして舅の六兵衛です。
自分の罪が係累に及ばぬようにと
金沢に行く道中に離縁状を渡した富蔵でしたが、
六兵衛は面会を願い出ます。
佐内の恩情により面会の許された富蔵は、
唐丸籠のなかから
これまでの自分を悔やんでいると語り、
自分が処刑されたと聞いたなら
陰ながら回向してほしいと頼むのでした。
降りしきる雪の中、遠ざかる唐丸籠を
涙ながらに見送る六兵衛、おさよ、お民の三人。
 
 
江戸に送られた富蔵は
伝馬町の西大牢に入れられます。
広い牢内では、牢名主が
高く重ねられた畳の上に座っています。
囚人たちはそれぞれ身分や役割が決められ、
決まりに従って暮らしているのですが、
富蔵はここでも才覚を発揮し、
二番役に取り立てられています。
そんなとき、新しく牢に入って来たのが眼八で、
相変わらず横柄な態度。
牢名主たちの許しを受け、
富蔵は眼八をきめ板で打ち据え、
留飲を下げるのでした。
しかし、そんな富蔵も
明日は仕置きをされることが決まっています。
牢名主から仕立て下ろしの着物と帯を与えられ、
立派な死を遂げるようにと声をかけられます。
 
 
翌日。
すでに東の大牢に入れられていた藤十郎とともに
屋敷内の閻魔堂へと引き出された富蔵は、
引き廻しの上、磔に処せられる旨を言い渡されます。
牢内の者たちが唱える題目を聞きながら、
富蔵と藤十郎は、刑場へ向かうのでした・・・。
 
 
 
 
 
『三人吉三』『白波五人男』など、
河竹黙阿弥といえば
盗賊が主人公の「白浪物」が有名ですが、
晩年に書かれたこの芝居は、その中でも異色。
写実的なのです。
特に目を引くのが終盤の牢の中の様子。
元弁言人(弁護士)から手に入れた
資料を基に描いたのだそうで、
牢内のしきたりや囚人たちの姿がとてもリアル。
それにしても、たった二人で
四千両もの大金を盗むとは・・・!
江戸城の警備って、どうなっていたのだろう?
 
 
 
菊五郎さんの富蔵、
肝の据わった悪党ですが、どこか憎めない。
これに対し、梅玉さんの藤十郎は、
悪人になり切れない臆病さがあってまたいい。
二人のコントラストが良かったと思います。
彦三郎さんの浜田佐内は
佇まいからして温かさがにじむ。
歌六さんの隅の隠居、
ものすごい存在感、深い声!
ベテランの芸の深さが心地よい一幕でした。
 
 
 
 
昼の部切りは、華やかな舞踊。
 
 
四、扇獅子
 
 
 
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鳶頭 梅玉
芸者 雀右衛門
 
 
 
新年を迎えた江戸の町。
日本橋から見る富士山は得も言われぬ美しさ。
そこにいなせな鳶頭の梅吉と
艶やかな芸者の扇屋お芝がやってきて、
四季折々の風情を踊ります。
そして、雪の中に咲いた
冬牡丹に戯れる獅子の様子を、
扇獅子を手にして華やかに踊り、
めでたく舞い納めるのでした。
 
 
 
 
明治三十(1897)年ごろ
日本橋の芸妓の会で
発表された作品だそうです。
12分間の短い舞踊ですが、
曲も踊りも華やかで、情緒いっぱい。
牡丹の花が描かれた大きな太鼓橋が
梅玉さんを乗せて舞台中央からせり上がり、
ずずっと前に押し出されたときには、
思わず感嘆の声。
昼の部を締めくくるのに相応しい、
きれいな舞台でした。
 
 
 
勘太郎ちゃん、長三郎ちゃん初舞台の
夜の部の方が注目を浴びていますが、
演目でいうと、私は昼の部の方が好みでしたねえ。
 
 
 
『猿若祭二月大歌舞伎』
千穐楽は2月26日(日)です。
 
 
 
 
今回の幕間。
 
 
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「おにぎり弁当」♪
1050円。
歌舞伎座タワー地下2階
木挽町広場「やぐら」で購入。
 
 
 
焼き鮭のおにぎりと、焼きおにぎり。
おかずも、海老やつくね、鮭、卵焼き、
野菜の煮物、お豆などたっぷり。
美味でした!