空港の中なんだから多少高いのはしょうがなかろう。
売店の片隅のイート・イン・コーナー。…わたしは、その「あぐーカレー」930円というのを、決然、注文した。「あぐー豚をぜいたくに!」というふれこみの一品である。わたしは、この「ぜいたく」という言葉に弱い。
待つこと数秒。
店員が、まず、お皿にご飯を盛った。そして、福神漬けをのせた。そしてそして、私が見てる目の前で、レトルトの袋を破り、その中身をご飯の上にダラダラーッとかけた。
「お待たせしました!」…いや、ちっとも、待ってなんかいないよ。ちゃんと3分あっためたのかい?
それにしても、せいぜい鍋でちょっこっとあっためるとか、多少は飲食店らしいことすりゃぁいいのに。まあ、うまければそれでいいが。……おぉ、うまい! 間違いなく、極上のレトルト・カレーの味わいではないか。あの、なんともいえないうまみというか、甘辛みというか、出来合い感というか、人工感というか、合成感というか。ひと味あるではないか。それに、この歯にはさまるかずかずの肉片があぐー豚なのだな、どいつもこいつも、よく煮え固まって、ひきしまってるじゃないか。俺みたいにブヨブヨしてない。それに、たしかにこれは牛肉でないと、よくわかる。豚の味わいだ。ほとんどカレー味だが。いや、それにしてもこの水、うまいな!
いずれにせよ、看板に偽りなし。完食した私は、十分満足し、しかし、店内を探し歩いた。きっとこのレトルトカレーが、店内どこかで売られているに違いない…と。
「あった!」
ちゃんと売られてるじゃないか。734円。…ということは、これに、ライスと福神漬けがついて、しかも高級感あふれるプラスチックの皿、銀色に輝くスプーン。食べおわったあと洗う手間もない。それを、あの綾瀬はるかさんみたいな美女店員がにこやかに差し出してくれる、カウンター越しだが。プラス196円ではだれがどう考えても安すぎるではないか。それにしても、こんなに単純明快に原価計算ができる飲食店、地球上どこに行ってもないだろう!
私は感動のあまり、しばらくそこに立ち尽くしていた。そしてその場から、見ていたのだが、実に、この「あぐーカレー」は、飛ぶように売れている。さすがに「空港」だけある!いや、くだらぬギャグ、失礼。いずれにせよ、このカレーはきっと空港の人気者なのだ。いや、人気者なのは、あの愛らしい店員さんかもしれない。レトルトカレーだって、どうせ破られるなら、ああいう美人に破られたいじゃぁないですか。
「あぐーカレー」の味覚にあまりにも取り憑かれてしまった私は、最初、これを何箱か東京に買って帰ろうとしたのだが、思い止まった。そう、また、ここに食べに来ればいいのだ、いや、絶対にまた食べに来るべきなのだ、ここに…と。
「ありがとうございました!」
いつまでも突っ立って、修学旅行生の買い物の妨害となっていた私を快活に送り出そうとしたのは、別の、谷亮子議員によく似た店員だった。綾瀬さんの出番はもう終わってしまったのか? いや、もしかしたら私の目の錯覚で、綾瀬はるかさんなんか、最初からいなかったにちがいないのだ。が、それでも私はこの「あぐーカレー」をひとりでも多くのカレー・ファンに味わっていただきたいと思っている。あ、間もなく出発の時間だ。