私は何人かの老人のお宅を定期訪問している老人である。
今日、約束していたAさんの、横浜市内の自宅を訪ねた。
Aさんは、私よりもふた回りくらい老人なのだが、元気に独り暮らししてる。しかし、今日はインターホンを何度押しても応答なし。ためしに電話しても応答なし。もしや…との不安が頭をよぎった。「この留守電にお気づきになったら、どうか一度お電話ください。」
実は前にも似たようなシチュエーションで、私はある老人が死にそうになっているのを発見したことがある。あんまり感謝されてはいないが。…しかし、今回は合鍵を預かってない私。いったん撤退し、今日1日待って何の連絡もなければ、警察に連絡してまた来よう。
…ところが、しばらくして…。私はすでに帰りの電車の中だったが、Aさんから電話があった。
「どうしました?」
「お出かけでしたか。今日お約束してましたが、お留守だったんで、ちょっと心配になってお電話しました。」
「約束は明日ですよ!」
!!!
…そんなはずはないのだが…。私のスケジュール帳には間違いなく、今日だと。
しかし、そこにAさんの印鑑もらってるわけではない。そうだ、きっと私が間違えたんだ。そうにちがいない。
それに、Aさんの、この自信みなぎる決然かつ断固たる話しぶり!
「いや、そうでしたか。それは大変失礼しました。メンモクないです。」
私が平謝りしたのは言うまでもない。しかし、いよいよこの俺もアルツハイマー型認知症になったか。Aさんよりはまだ20歳も若いってのに!
うちひしがれながら、東京駅のホームで乗り換えの電車を待ってたときだ。またAさんから電話があった。
「先生、さっきは失礼しました。家に帰って確認したら、間違えてたのは私の方でした!」
私はホッとすると同時に、自分の非を認め、20歳も若い自分なんかにこうして素直に謝れるAさんは、偉いナ、と思った。
さらに、いつも弱気になり、自分に自信が持てない自分が情けなくなり、自信家のAさんがうらやましくもなったのだった。
じっさいには、私は間違ってない、間違ってるのはAさんの方だ!…と、内心自信のあった私だったのだが。