アメフトが急に、世論を独占するメジャーなスポーツになってしまった。言うまでもなく、日大のあの反則タックル問題である。
結局、あの試合、どっちが何対何で勝ったのか、そこのところはどうでもいいのか、まったく報道されていないけれど、とにかく今は日大の監督とコーチが非難の矢面に立たされ、さらに、大学も体質を問われている、そんなお定まりな構図だ。
多少法律家らしいことを言うとすれば、だれにどういう法的責任が及ぶか、スポーツの試合中のプレイが刑事責任を問われることがあるのか、はたして傷害罪の捜査の行方はどうなるのか……が、もう今更私なんかの出る幕はあるまい。元アメフト部の弁護士ら識者、コメンテーターのコメントに、とくに付け加えるべきことはなさそうだ。
……と、思っていた私に根本的な問いを投げかけてくれたのは、司法試験受験生のF君だった。
「市川先生、僕はなんとなく釈然としないんですよ。」
「なにがだね?」
「いえ、あの記者会見ひとつで、それまで完全なヒールだった加害者が、いまや完全にヒーローになってしまったように見えるんですが、果たしてそれでいいのかなって。」
「なるほど、世論の風を読めない、いつもの君らしい少数意見じゃないか。たしかに、これで加害選手の起訴は消えただろうね。もしもあの記者会見が彼の弁護人の差しがねだったとすれば、名弁護というしかないな。」
「同時に、仮に監督やコーチが共謀をしてたとしても……ですよ、彼らが刑事責任を問われる可能性もほぼなくなったと言えないでしょうか。主犯が不起訴になるんでしたら。」
「それはどうかな。僕は刑事弁護はほとんどしたことないからわからんがね。……しかし、君は、あのいかにもスポーツマンらしい、実直そうな青年を、やはり処罰しろといいたいのかね?」
「いいえ、そこまで言うつもりはないんです。ただ、記者会見ひとつでこうも変わっちゃう世論って恐いな…って思うんですよ。そして、彼だって立派な成人。僕は彼にはすごく同情してるんですが、彼が実行犯だという事実は簡単に忘れてしまってはいけないと思うんですよ。」
「まぁ、結局君が何を言いたいのか、僕にはよくわからんがね。」
「逆に先生は、この事件にどんなことを思いましたか。」
「いや、そりゃ決まってんだろ。関学にはそんなにすごいクォーター・バックがいたのか……ってことさ。ライバル・チームから選手生命を狙われるほどの名クォーター・バックが、ネ。ほんとにその選手の顔を見てみたいよ。」
「先生って、やっぱりどこか変ですよね。」
「それは君に言われなくてもわかってるさ。ま、今日はこれでお開きとしよう。君も勉強頑張ってくれ。過去問、きちんとつぶしとくんだぞ。やるときはやらなきゃ意味ないよ。わかってるね、F君。」