とくに、Aさんと主債務者のCさんがいわゆる男女の仲にあったのではないか。…そんなことを疑わせる各種の状況が浮き彫りになってきたのである。

 しかし、同時に、金貸しD社の担当者は、そのことを知っており、Cさんのためだと言ってAさんをそそのかし、Bさんの実印を借用証書に押させたり、必要書類の取り寄せをAさんにさせたりしていたのではないか、という疑惑が深まったのだった。そうだとすると金貸しD社それ自体が、保証捏造の共犯者ということになる。

 Aさんに、遠回しに、また、やんわりと、そういった「ストーリー」もあり得ると、一般論的に私は話をした。しかしもちろん、そういった可能性については、Aさんは頑強に否定し、Bさんの実印を借用証に押したことについても「ぜったいにない。」と言い切るのだった。

 さらにいちばん困ったことなのだが、後になってD社がBさんの印鑑証明書の現物を裁判所に提出してきたのである。

 ここでも私はやんわりとAさんの「記憶違い」を質したのだが、Aさんは、「こんなことはあり得ない。これは偽造書類だ。そういえば、D社の背後には偽造集団がいるというような話を聞いたことがある。」などと、非常に説得力ある弁明を繰り返すのだった。

 ただ、そうはいっても、Aさんが実に、というか、かなり、というか、非常にあやしいことと、Bさんが本当に保証したかは、まったくの別問題である。

 私は、Bさんはこの保証問題については実際のところ何も知らされていない、Bさんには保証をしたという意識がまったくない…という点について、非常に確信を深めた。

 Bさんの供述には、まったくブレがなかった。(他方、Aさんの供述はブレブレだった。)

 また、さらにD社サイドの主張や提出証拠、担当者の尋問内容などを緻密に検討したところ、明らかにD社の担当者が嘘をついているという動かぬ証拠が出てきた。

 私は、D社の尻尾をつかまえたぞ!…という気持ちになり、これなら闘えるのではないか…という手ごたえをつかんだ。

 ただ、もちろんD社の担当者が嘘をついていたとしても、Bさんの実印が押された借用証書があり、印鑑証明書まで提出されているという事実は消えない。

 裁判所というところは、書類を見て人を見ないところである。

 しかし、よぅしこれからが正念場だな…とやる気をたぎらせていた矢先、意外な連絡がBさんからあった。

 それは、新しい弁護士に頼むことにしたので、私を解任する(クビにする。)、という連絡であった。

 …とはいえ、実は私がこうなる可能性を前からうすうす感じていたのも事実といえば事実だった。

 私がD社との間で和解交渉も並行していたことが、Bさんには実に不満げだったからだ。

 保証人になった覚えなどまったくないBさんにしてみれば、そりゃそうだろう。しかし、私はこの解任の背後にAさんの差し金がきっとあるにちがいないと、にらんでもいた。

 しかし、実直な中小企業経営者であるBさんには親近感を感じつつも、他方、いつまでも素顔を明かさないAさんに異常なうさんくささというか、不気味さを禁じ得ないでいた私は、むしろこうして解任され彼らと縁が切れることに、ちょっとホッとしたような気分にもなったのだった。

 私があのままBさんの弁護を続けていても、裁判でD社に勝てたかどうかはわからない、というより、正直なところ、おそらくは負ける可能性の方がまだ高かったとは思う。(私は「これ」という裁判で勝った経験がほとんどないので。)

だからこそ、私は和解協議も並行していたのだったが、それにしても、私が発掘したD社担当者の嘘を、法廷であばくチャンスがなかったことだけはかえすがえすも惜しまれた。

 新しい弁護士から協力依頼があれば、私は喜んで、私が自分が手にした情報や知恵をその弁護士に提供しただろうが、そういった協力依頼もいっさいなかった。

 この件も含めて、私が保証否認の裁判で、保証責任を回避できるような、つまり金貸しから訴えられた人に有利な戦果をあげたことは、実はまだただの一度もない。

 このAさん、Bさんの件が、私が保証否認に一歩か二歩近づいた、ほとんど唯一の裁判だったといえないこともない。

 ところで、この件については後日談があって、2,3か月後くらいだったろうか、いまごろどうなっているだろうか、新しい弁護士さんがうまくやってくれてるんだろう…と、私が「思い出」に浸っていたころ、Bさんから私あてに来たメールを、私は忘れることができない。

 それは、最初に支払った着手金を返してほしい…というメールだったのである。

 私が、Bさんと取り交わした弁護士契約に照らしても、私には着手金を返還すべき理由はおよそないことを丁寧に説明し、お返しするつもりはありません、という返信メールを送ったのは言うまでもない。

 その返信メールにはBさんからの応答は今のところ何もない。