しかし、私は、経験上、こういうときはろくなことがないのをよく知っている。
少なくとも、どうせ面倒な相談にボランティアで応じねばならない羽目になるのが目に見ている。しかもこんな夜更けに。
ただ、なんというか、不思議な感情だったのだが、このとき私は、私が彼女と同じフロアの住人であることをなぜか知られたくないような気持ちになった。
ここで失礼します・・・となれば、私の部屋が知られてしまう。なぜかそれはいやだった。
そんな風に逡巡している私の目の前で、彼女の家のドアはすでに開けられ、彼女は家の中に私を呼び寄せている。
みると、非常に生活感がないというか、あまりにきれいに整っているモデルルームのような部屋だった。
こういうのをなりゆきというのだろう。私は「それでは、ちょっとだけお邪魔します。」と彼女が用意してくれたスリッパに足を通した。
ところが、その次の瞬間、そんな私に向かって魔物のようなある生き物が突進してきたのである。それは私の大嫌いな、かわいいワンちゃんだった。
私は一瞬その場で凍りついたようになった。
この団地では動物の飼育は禁止されていたはずだ。
いや、世界中の住宅で動物の飼育を禁止すべきだとさえ思っている私なのだが(愛犬家のみなさまごめんなさい。)、気がついたら居間のソファの上にヘナヘナと座っており、そしてその私に女性が冷たいお茶を「どうぞ。」と・・・。
それにしても、この女性はいったい何者なのだろう。
あきらかに「しろうと」ではない。(つづく)