「もしかして弁護士さんですか。」
私の胸に燦然と輝く金バッヂに気付いたのに違いない。
「そうです。」
「本当にありがとうございました。ちょっと私の部屋に寄っていただけませんか。」
そのとき私は初めてその顔をよく見たのだが(それまでは、スカートの短さにばかり目を奪われていた。)、なにかのコマーシャルか、あるいは、どこかの電車の中づりポスターで見たことがあるような女優かグラビア・アイドルといった感じの女性だった。誰だろう?
しかし、「いや、もう家に帰りますから。」と、常識的な私はいったんこれを断り、エレベーターに乗ろうとした。
ところが彼女は、「ご近所同士ということですし、きちんとご挨拶したいですから。」とそのエレベーターにいっしょに乗り込んできた。そりゃ、彼女もこの団地の住人なのに違いない。
しかし偶然というか、私が押そうとしたエレベーター内の階数ボタン「43」を、彼女がササッと押したのには驚かされた。なんと彼女と私は同じ階に住んでるらしいのだった。
私が自分で階数ボタンを押さないのを見て、彼女は私が彼女の家に寄ることを了解したと誤解したらしい。エレベーターが着くと、すでに彼女はさっきまでの恐怖におののいていた彼女でなくなっており、さっさと自分の部屋の方に歩き出し、「さ、こちらです。」と私を誘導するのだった。(つづく)