シーンと静まり返った夜中の1時ころだった。キャーッという若い女性の悲鳴が耳をつんざいた。私が団地の地下玄関に向かう通路をトボトボ歩いていたときだった。

 次の瞬間、小太りで背の低い男が、ダダダダッと、駈け出してきた。顔は、よくバラエティ番組になどに出ているお笑いタレント(後で調べたところ山崎弘也さんであると判明)にすごくよく似ていた。白いTシャツ。

 男は、私がいるのと別の通路の方、駐車場出口の方に駆け込んで行った。

 「その男を捕まえてください!」

若い女性が現れ、私に向かって叫んだ。

 しかし、捕まえてくれ、と言われても、蛙一匹ろくに捕まえられない運動神経ゼロの私だ。なんだか知らないが逃げていく人間など捕まえられるはずがない。しかも、私はすでに年老いている。

 女性に「どうしたのか?」と返したら、「急にスカートの中に手をつっこまれたんです。」と。たしかに女性はすごく短いスカートを履いており、私にはむしろ彼女がスカートを履いていないようにすら見えた。

 しかし私は現場を見ていたわけではない。

 どうすべきか悩んだが、とりあえず私は男が出て行った通路の方に向かってみた。

 このシチュエーションで、普段の得意技である「見て見ぬふり」をする度胸もまた、臆病な私にはなかったのだ。(つづく)