翌日、私は札幌市内で司法関係の用務にあたったのだが、午後2時ころからは完全にフリーになった。まだ飛行機の時間までだいぶあったので、どこかで食事をしようと思い、札幌駅近くの地下街を徘徊した。
…と、ここまでくれば、おそらく私の性癖を知っている人は、私が札幌ラーメンとかジンギスカンではなく、カレーか“とろろそば”を食べたと思うに違いない。
そのとおりだ。
私は、どこからともなく漂ってきたカレーのにおいにおびき寄せられるように、そのカレー・ショップ『K』の前で立ち止まった。
…ここにしよう。
本当は、北海道といえば、ただのカレーよりもスープカレーが著名である。
実際、私も先月札幌に来た時は、同行したメグちゃんの案内で、とあるスープカレー店にお邪魔した。
とてもおいしかった。ただ、どうも猫舌の私にはありきたりのカレーの方が向いているような気がしたのも事実だった。
この『K』は、普通のカレー店である。
しかし、午後4時と半端な時間であるにもかかわらず、店内はそこそこ賑わっている。きっと地元のカレー通にも愛されている店に違いない。
中にはリュックを小脇に置いた旅行者らしき人の姿も混じるが。(旅行者ってのは、自分が旅行者のくせに、旅行者の行かない店に行きたがるものだ。)
『K』の決して広いとはいえない店内には、カウンターに10席前後。4人がけテーブル席が3卓くらい。
私は、カウンターの端っこに座ったのだが、まず、メニューが豊富なのに驚かされた。店主とウェイトレス、たったふたりでやってる店だというのに、COCO壱番館並み、いやそれ以上のバリエーションではないか。写真を載せたメニューは分厚くて、まるで「世界カレー図鑑」のようだ。それにしてもビーフカレーとビーフすね肉カレーと特製すね肉カレーは写真ではほとんど見分けがつかない。はてさて、何を注文しようか。
…ウェイトレスが冷えた水を持ってくる。
「いらっしゃいませ。今日のおすすめはカツカレーです。」
私はしばし沈思黙考のあと、言った。
「カツカレーください。」
だが、それは実に正解であった。
カツカレーの注文を受けた店主が、カウンターの向こうでまず何を始めたと思うか? なんと、カツに衣をつけ始めたのである。タンタンと。そしてそれを油の中におもむろに投じる。
当たり前じゃないか…と思うかもしれないが、「おすすめの日」など特に、カツを何枚もつくりおきしている店さえ少なくないのである。
しかし、そのため料理が出てくるまではここでは若干の時間を要する。私はその間、大いなる期待(それは大いなる失望に変わることも少なくない。)をもって待ち続けた。・・・やがて店主は、揚がったカツをサクサクと切り、カレー・ルーを煮込み、ライスをよそい…と、ほかのお客の注文と並行しながら手際よく調理を進める。
そして出てきたのがでっかい皿に盛られたカツカレーであった。
ところがそのカツカレーのおいしかったこと!(つづく)