その声は、忘れたくても忘れられない。

 MGPさんである。

 くぐもったような独特な声質、吃音が混じったしどろもどろの発話、そして、結局何を言いたいのか理解に手間取る人智を超越した発言内容。

「せ、せ、せんせい。わ、わかりますか。」というその声を聞いたとたんに、私はその電話を寄越した主がPさんであることを瞬時に悟った。「わかります。」

 2年ぶりくらいの電話であった。が、その後、Pさんからの電話は何回かあり、延べ時間にして軽く2時間近くに及んだ。

 さて、肝心の用件は何のか。それを把握するのが何と言っても一苦労なのである。

 ただ、Pさんはおそらく先天的な社会的弱者であるので、辛抱強く、その訴えに耳を貸す、そういう姿勢が私らにも求められるだろう。…そう思って、さらに辛抱強く、Pさんの電話に耳を貸す。

 その結果であるが、要は、Pさんからの相談というのは――守秘義務の関係で具体的にはご紹介できないが――以前にもお受けした相談内容と全く同じものであることに、私は気付いた。何度目かの電話の後だ。

 それにしても、こうして電話が何回かにわたるのは、Pさんが公衆電話から今や懐かしいとさえ言えるテレフォン・カードで電話をかけていて、そのカードの残高が都度なくなるからなのだ。私の預金残高のように。

 だが、いずれにせよ、同じ相談には、ほとんど同じ回答とならざるを得ない。ただ、それができれば弁護士として合格。・・・私は、いつかと同じ回答を繰り返した。

 もっとも、いつかと違って、Pさんは今の私から見て、非常な遠方におられる。

 Pさんは、私に、それでは(Pさんの居住地で開業している)弁護士を紹介してくれ、と言った。

 もちろん、Pさんが深田恭子さんか北川景子さんなら、私はPさんを私の後任の後任のY先生にご紹介しただろう。

 しかし、Pさんはそうではないし、仮にそうだったとしても、風のうわさに日頃非常な多忙を極めておられると伺っているY先生に、私はとてもPさんを紹介する勇気はなかった。…というより、そもそも紹介ってなんなんだろうか。

 私はPさんには私はそんなに顔がきかないから弁護士の紹介は無理であること、そもそも紹介制度なんてないこと、否、本来はありえないことを伝え、さらに、あまりおんなじ相談で何度も何度も電話をしないでください、次回からは相談料をいただきますよ…と冷たく申し伝え、自分がキレル前に、静かに電話を切ったのだった。

 それでよかったのかどうか。ただ、そのときの私にはそうするしかなかった。

 ただ、トイレを出たあと、私は、久しぶりにPさんの顔を見たいような、そんな気持ちにもなったのであった。