こいつはよく頑張ってくれたと思う。
鉄製のパンチだ。
紙の束をはさんでガッと押すと、2つの穴があく。実に単純というか、正直なやつだ。
このアナログ野郎にもついに終焉の時がきたのだ。
今日、十数枚の紙をはさみこみ、ガッと押したら、いつもは戻ってくるレバーがもう戻らない。やつは、紙束をくわえ込んだまま、ピクリともしなくなった。
私は無理にレバーを元の角度に戻した。
そうしたら、まさにパンチの生命である鉄のシリンダーが完全に折れてしまった。
長年の酷使に、文字通り金属疲労を起こしていたに違いない。
そうはいってもたかが6,7年だが、僕のしもべどもの中では、パソコンとか携帯電話とかいったデジタル系のやつらと違ってストライキを起こすこともなく、ただ求められるまま黙々と紙に穴を開け続けてきた。地味だが、そういう我慢強い女だった(なぜ女なのかはあとで。)。開けた穴の数は、おそらく数万個ではきくまい。やってみろと言われても俺にはできない。
ほんとにごくろうさん!
そう呼びかけても、おまえはまだ十数枚の紙を咥えて離さないのだ。
愚直なやつだなぁ。
紙束を咥えたまま反応しなくなったパンチを、燃えるゴミなのか燃えないゴミなのか若干迷いながら、私は燃えないゴミの方に捨てた。
するとゴミ箱の底に落ちた瞬間ケース部分がはずれ、そいつは、腹にためていた無数といってよいまん丸の穴たち、いや、穴のかたちをした紙くず達をドバッと吐き出した。それは、水源地にたどり着いたサケが大量の魚卵を放出するシーンを思わせ、あたかもこんな器具にも種の保存本能が宿っているかのようだったのである。
ついさっきまで生きていたパンチは、今やゴミ箱の底で、自らが放出した大量の穴屑にまみれ、埋もれ、完全に息絶えていた。