見ると、女湯と男湯を隔てる壁が天井まで届いておらず、しかし手が届かないあたりではすっかり貫通というか、ふたつの浴室がつながっている。

 こういう風に、女湯が覗けそうで覗けない、女湯に忍び込めそうで忍び込めない…なぜかそんな思わせぶりな構造になっている温泉宿に泊まった経験が誰にもあるに違いない。

 この宿もそうであった。

 しかしそれにしても、女湯から届く若い女性のものとみられる会話のあまりにも露骨な内容には驚かされた。さすがにこのブログでも再現できない。

 「S企画」とか「スタジオR」というのはビデオのプロダクションか何かに違いない。

 今、もしかしたらとなりでは女優さんが入浴しているかもと思うと、なんともいえない感懐があり、私は奥の細道の「ひとつ家に遊女も寝たり萩と月」という発句を思い出すのだった。

 明日の朝は早い。

 私は夜のうちにひげを剃っておくことにし、備え付けの使い捨てカミソリを手に取った。それが、使い捨てだというのに、皮膚はよく削れるがひげはあまり剃れない、なかなか捨てがたいカミソリであった。

 …とまれ、こうしてひと風呂浴びて部屋に戻り、私はすぐに布団にもぐりこんだ。やはり、あのまっちかくにベッド・メーキングされたベッドよりもよほど寝やすい。日本人には畳や蒲団が合うと思う。

 ただ、船乗りには小柄な人が多いのだろうか、蒲団は普通のよりふた回りくらい小さくて、身長170センチちょっとの私の足がはみ出す。

 それでも前夜ほとんど寝てなかったので、私はあっという間に深い眠りに落ちた。

 実に快適な夜であった。

 さて、このセイラーズ・イン・オホーツクの素敵な朝食たちについても一言しておかねばなるまい。

 私は2日目は朝早かったのでここの朝食を食べることができなかったのだが、3日目、レストラン「船出」の和朝食を十分満喫することができた。

 朝食は朝7時から。

 私は開店と同時に「船出」に入ったのだが、テーブルには、おそらく宿泊客の人数分と思われる和朝食がすでに並べられていて、適当な席に着くと、ウェイトレスが熱いみそ汁とご飯を運んできてくれる。

 おかずは、焼き魚、ひじきの煮つけ、目玉焼き、サラダ、納豆など。サラダや納豆は別として、おかずのいずれもがすっかり冷え切っているところを見ると、「船出」の料理人はよほど早起きして朝早くから宿泊客のため朝食の支度をしていたに違いない。本当に頭が下がる。

 こういう「すべてはお客のために」という教育が、おそらくここセイラーズ・イン・オホーツクでは徹底されているのに違いないのだ。

 次回この地に来たときも、ここに泊まろう・・・。

 そんな気持ちにさせる北の宿であった。

 ★写真1は、セイラーズ・イン・オホーツク客室のどっしりした灰皿。どことなく懐かしい。ここは風呂とふとんは小さいが灰皿は大きい。★写真2は、同じく実に年季が入った魔法瓶。どこか年老いたペンギンのようであった。



弁護士市川尚のコンビニエンスな日々-灰皿

★写真1



弁護士市川尚のコンビニエンスな日々-魔法瓶
★写真2