閃光を放ち続ける変人たち
スパークスは、ボーカルのラッセル(弟)がロックスターでキーボードのロン(兄)が詐欺師みたいな、兄弟によるロックバンドというかユニット。ロック好きなら名前は何となく聞いたことがあるんじゃないかと思う。
何しろ1970年頃にデビューしてから50年以上も休まずに続けている。長く音楽を続けていても、枯れたり、立派になったり、伝統芸能になったり、実験的すぎることがなく、まだ誰も聞いたことがないポップで変な音楽を今でも更新し続けている、最高のミュージシャンだ。
ジョン・レノンがテレビでスパークスを見て、リンゴ・スターに「テレビを見てみろ、マーク・ボランとヒットラーが一緒に演奏してるぞ!」と電話をしたとか、ポール・マッカートニーが全ての楽器を自分で演奏したカミング・アップの映像でロンの真似をしたとか、よく分からない凄いエピソードもたくさんある。
2021年に出た「スパークス・ブラザーズ」というドキュメンタリー映画は、ぜひ見るといいと思う。
スパークス・ブラザーズ 予告編
まずは、タイトル通り天国でも受けそうな1979年の「ザ・ナンバーワン・ソング・イン・ヘブン」のアルバムバージョンを聞いてみて欲しい。
スパークスは音楽のスタイルをどんどん変えていくタイプのミュージシャンで、ここではロックバンド・スタイルを捨てて、エレクトロ・ポップになっている。ペットショップボーイズみたいだと思うかもしれないが、こちらの方がずっと前、ヤズーやオーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダークよりも前に作られている。
(ちなみに、オペラみたいな構成やボーカルの曲を発表したのはクイーンよりも前!)
これは天国でのナンバーワンソング
きみは、なぜいまこの曲を聞いているのと尋ねるかもしれない
多分、きみは想像しているよりもこの近くにいるんだろう
多分、きみはそうありたいと思うよりこの近くにいるんだろう
The Number One Song In Heaven
スパークスの音が次に大きく変わったのは、2002年の「Lil' Beethoven(小さなベートーベン)」だった。
今度はエレクトロを捨て、ストリングスとピアノを多用したクラシカルなアレンジになっていて、「リズム泥棒」とか「カーネギーホールへの道」といったヒネた曲がたくさん入っている。
普通のポップソングからはずいぶん離れてしまっているが、このアルバムは人を選ぶ名作だと思う。
The Rhythm Thief
このグループの凄いところは、最近の作品のクオリティもとても高いことだ。ここ何年かだけでも、2017年、2020年、2023年と3年おきにアルバムを出し、それがすべて素晴らしい。
2017年の「Hippopotamus/カバ)」に入っている「Édith Piaf (Said It Better Than Me)/エディット・ピアフ」は映像もきれいでメロディも聞きやすい。
歌詞ではこんなことを歌っている。
これは簡単に感動させるための心温まる歌
その効き目についてはまったく間違っている
俺が感動していないのは見るも明らかだから
エディット・ピアフは「それは私よりいいわね」と言った
「水に流して」は可愛い歌だけど、俺向きじゃない
BGMを流す時間だ
Édith Piaf (Said It Better Than Me)
もう1曲、2020年の「A Steady Drip, Drip, Drip」に入っている「Lawnmower/芝刈り機)」の映像もぜひ見て欲しい。
ラララという爽やかなコーラスとロンの怪しい動きが、芝刈り機の素晴らしさを伝えてくれる。最初に植物学者のロン・メイル教授が芝刈り機の歴史を教えてくれるので勉強にもなるだろう。今度の休みには草刈り機を押そうぜ!
Lawnmower
スパークスは、一見イギリスのバンドのようにも聞こえるが、どこかディーボやレジデンツのような歪なユーモアを持ったアメリカを感じさせる。
ぼくは若い頃にはスパークスの本当の良さが分からなかったが、もちろん最高のヴォーカリストのラッセルは好きだった。
いまはスパークスがいかにすごいバンドかよく分かるし、良い感じに年齢を経たラッセルは現在も相変わらずカッコいいけれど、嫌な奴キャラのまま年を取ったロンの方に魅力を感じる。
正直に言うと、ロンのようになりたいと思うようになった。自分も良い感じに年を取ったと思うことにしよう。
それで俺が「マイ・ウェイ」を歌えるのはいつなんだろう
いつシナトラが感じたように感じることができるんだろう
俺が「マイ・ウェイ」を歌えるのはいつなんだろう
天国か地獄で
俺が「マイ・ウェイ」を歌えるのはいつなんだろう
いつシド・ヴィシャスが感じたように感じることができるんだろう
俺が「マイ・ウェイ」を歌えるのはいつなんだろう
天国か地獄で
When Do I Get To Sing 'My Way'