最高のブルースミュージック
最後に書いてから3年経ったのに見てくれる人が毎日いました、ありがとう。感謝を込めて(?)気が向いたらときどき書きたいと思います。良かったらご覧ください。
アノーニ(旧名、アントニー)は、トランスジェンダーであることを強く打ち出したミュージシャン。長く活動してきて良いアルバムを何枚も出している。
初めてアノーニを知ったのは、2003年に行われたルー・リードの来日公演だった。ライブはそれまでのキャリアを網羅していて、ドラムレスでの演奏は本当に素晴らしく、そのバンドでバックボーカルをしていたのがアノーニ(当時はアントニー)だった。
そこで何も知らずに初めて見たアノーニには、「何だかヤバいものを見た」という違和感ありまくりの印象を持った。コンサートでは、ルー・リードがヴェルヴェット・アンダーグラウンド時代に作ったデリケートな曲「Candy Says」をソロで歌っていた。
Antony & Lou Reed : Candy Says
アノーニはイギリスで生まれ、その後にアメリカに移住して、20歳頃からニューヨークで演劇や音楽を始めた。彼女の音楽は、今の社会の中でトランスジェンダーであることの苦悩や孤独、絶望、社会に対する怒りなどが歌われている。
ぼくが最も好きな2005年の「I am a bird Now」のジャケットは、ルー・リードが「キャンディ・セイズ」を捧げたキャンディ・ダーリンの死を直前にしたポートレートになっている。
キャンディは、アンディ・ウオーホールの映画などに出た、男性から女性に性転換したトランスジェンダーの伝説的な女優、白血病で29歳という若さで亡くなった。
このとても静かで悲しく、メッセージ性の強いアルバムでアノーニのことを初めて理解でき、そしてファンになった。
一曲目の「Hope there's someone」のライブバージョンは、メッセージの強さや、アーティストとしての能力、そして彼女の人間的な魅力を感じることができる。
Hope there's someone
「You Are My Sister」は、子供の頃のアノーニが憧れていて「彼のやっている行為が、自分もしなくちゃいけないことなんだ」と思っていたというボーイ・ジョージに捧げられた曲で、2人で一緒に歌っている。
その当時、いろいろ上手くいっていなかったボーイ・ジョージにとっても、かつての自分が間違っていなかったことを知ったことが、自身の救いになったんじゃないだろうか。
あなたは私のシスター
そして私はあなたを愛しています
あなたの夢のすべてが叶いますように
あなたの夢のすべてが
You Are My Sister
アルバムではルー・リードが語りとギターで参加している「Fistful Of Love」は、ルーのコニー・アイランド・ベイビーの頃のように、穏やかで最後に盛り上がるソウルフルな良い曲だ。
アノーニは、ルーが亡くなった時の会話を最新アルバムに入っている「Sliver Of Ice」で歌っているので、関心があったら聞いてみて欲しい。かつてバイセクシャルとしてダークな世界を歌う「アンダーグラウンドの帝王」だったルー・リードとアノーニは、年齢を超えて最後まで盟友でいることができた。
Fistful Of Love
アノーニは、2023年に久しぶりにバンドを組み直して「My Back Was A Bridge For You To Cross」を出した。このアルバムも名作だと思う。
悲しみと怒りに満ちた歌詞の雰囲気はあまり変わっていないが、暖かみのあるソウルフルなバンドサウンドが素晴らしく、どこかに救いがあるようにも聞こえる。
ジャケットには、1992年に亡くなった、最初のトランスジェンダーの活動化としてLGBT全体の道を切り開いた、マーシャ・P・ジョンソンのポートレートが使われている。
メンバーが入れ替わっても、ずっと使っているバンド名「ジョンソンズ」は、マーシャの名前から取られている。ニューヨークに来てばかりの頃のアノーニと、そこで長く運動を続けていたマーシャは、ゲイ・プライド・パレードで一度だけ会話を交わしたそうだ。その数日後、マーシャはハドソン川で謎の死を遂げた。
「私の背中はあなたが渡るための橋だった」というアルバムタイトルは、最後の曲「You Be Free」から引用されている。
アノーニは、怒りと悲しみに満ちた音楽を作るが、そのギリギリのところで、希望を諦めない強い意思を持っているような気がする。それは彼女を支え、信じるアートや運動をともにしてきた友人たちがいる/いたからなのかもしれない。
私の仕事は終わった
私の背中は折れてしまった
私の背中はあなたが渡るための橋だった
その直後に願ったことは
地球が私の命を奪ってくれること
母や姉妹の命を奪ったように
あなたは自由になって
私のために、あなたは自由になって
You Be Free