Anohni & the Johnsons -私のために、あなたは自由になって | 100nights+ & music

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2020年の1年間に好きな音楽を100回紹介していました。
追記)2023年になっても見てくれる人がいて驚きました、感謝を込めて?気が向いた時にときどきまた書こうかと思います、よろしく!

 

最高のブルースミュージック

 

最後に書いてから3年経ったのに見てくれる人が毎日いました、ありがとう。感謝を込めて(?)気が向いたらときどき書きたいと思います。良かったらご覧ください。

 

 アノーニ(旧名、アントニー)は、トランスジェンダーであることを強く打ち出したミュージシャン。長く活動してきて良いアルバムを何枚も出している。

 

 初めてアノーニを知ったのは、2003年に行われたルー・リードの来日公演だった。ライブはそれまでのキャリアを網羅していて、ドラムレスでの演奏は本当に素晴らしく、そのバンドでバックボーカルをしていたのがアノーニ(当時はアントニー)だった。

 そこで何も知らずに初めて見たアノーニには、「何だかヤバいものを見た」という違和感ありまくりの印象を持った。コンサートでは、ルー・リードがヴェルヴェット・アンダーグラウンド時代に作ったデリケートな曲「Candy Says」をソロで歌っていた。

 

Antony & Lou Reed : Candy Says

 

 アノーニはイギリスで生まれ、その後にアメリカに移住して、20歳頃からニューヨークで演劇や音楽を始めた。彼女の音楽は、今の社会の中でトランスジェンダーであることの苦悩や孤独、絶望、社会に対する怒りなどが歌われている。

 

 ぼくが最も好きな2005年の「I am a bird Now」のジャケットは、ルー・リードが「キャンディ・セイズ」を捧げたキャンディ・ダーリンの死を直前にしたポートレートになっている。

 キャンディは、アンディ・ウオーホールの映画などに出た、男性から女性に性転換したトランスジェンダーの伝説的な女優、白血病で29歳という若さで亡くなった。

 

 このとても静かで悲しく、メッセージ性の強いアルバムでアノーニのことを初めて理解でき、そしてファンになった。

 一曲目の「Hope there's someone」のライブバージョンは、メッセージの強さや、アーティストとしての能力、そして彼女の人間的な魅力を感じることができる。

 

Hope there's someone

 

 「You Are My Sister」は、子供の頃のアノーニが憧れていて「彼のやっている行為が、自分もしなくちゃいけないことなんだ」と思っていたというボーイ・ジョージに捧げられた曲で、2人で一緒に歌っている。

 その当時、いろいろ上手くいっていなかったボーイ・ジョージにとっても、かつての自分が間違っていなかったことを知ったことが、自身の救いになったんじゃないだろうか。

 

あなたは私のシスター

そして私はあなたを愛しています

あなたの夢のすべてが叶いますように

あなたの夢のすべてが

 

You Are My Sister

 

 アルバムではルー・リードが語りとギターで参加している「Fistful Of Love」は、ルーのコニー・アイランド・ベイビーの頃のように、穏やかで最後に盛り上がるソウルフルな良い曲だ。

 アノーニは、ルーが亡くなった時の会話を最新アルバムに入っている「Sliver Of Ice」で歌っているので、関心があったら聞いてみて欲しい。かつてバイセクシャルとしてダークな世界を歌う「アンダーグラウンドの帝王」だったルー・リードとアノーニは、年齢を超えて最後まで盟友でいることができた。

 

Fistful Of Love

 

 アノーニは、2023年に久しぶりにバンドを組み直して「My Back Was A Bridge For You To Cross」を出した。このアルバムも名作だと思う。

 悲しみと怒りに満ちた歌詞の雰囲気はあまり変わっていないが、暖かみのあるソウルフルなバンドサウンドが素晴らしく、どこかに救いがあるようにも聞こえる。

 

 ジャケットには、1992年に亡くなった、最初のトランスジェンダーの活動化としてLGBT全体の道を切り開いた、マーシャ・P・ジョンソンのポートレートが使われている。

 メンバーが入れ替わっても、ずっと使っているバンド名「ジョンソンズ」は、マーシャの名前から取られている。ニューヨークに来てばかりの頃のアノーニと、そこで長く運動を続けていたマーシャは、ゲイ・プライド・パレードで一度だけ会話を交わしたそうだ。その数日後、マーシャはハドソン川で謎の死を遂げた。

 

 「私の背中はあなたが渡るための橋だった」というアルバムタイトルは、最後の曲「You Be Free」から引用されている。

 アノーニは、怒りと悲しみに満ちた音楽を作るが、そのギリギリのところで、希望を諦めない強い意思を持っているような気がする。それは彼女を支え、信じるアートや運動をともにしてきた友人たちがいる/いたからなのかもしれない。

 

私の仕事は終わった

私の背中は折れてしまった

私の背中はあなたが渡るための橋だった

その直後に願ったことは

地球が私の命を奪ってくれること

母や姉妹の命を奪ったように

 

あなたは自由になって

私のために、あなたは自由になって

 

You Be Free