神話とブルースミュージック
ドアーズはとても特殊なバンドだ。レコードデビューした1967年からジム・モリソンが死んだ1971年まで5年しかないが、パンク/ニューウェイブ世代にも絶大な影響を与え、いまだに似たバンドは他にはない。
青年期に文学や哲学や詩に深く耽溺したジム・モリソンが、ドアーズを結成する前にレイ・マンザレクに聞かせたと言われる数曲は、とてもシンプルで美しく短いものが多い。それらの曲は、その後のアルバムに散りばめられている。
“ムーンライト・ドライブ”、“エンド・オブ・ザ・ナイト”、“サマー・オールモスト・ゴーン”などのデモテープには、ドラッグとショービジネスの中で破綻していく前のジム・モリソンがいるように聞こえる。
Summer Almost Gone
ドアーズには、演劇的というか神話的な長い曲が4つある。“ジ・エンド”、“ホエン・ザ・ミュージック・イズ・オーバー”、完成版のレコーディングはなかったが“セレブレーション・オブ・ザ・リザード”、そして“ソフト・パレード”。
最初の4枚のアルバムには、文学的な長い曲が1曲入り、その他に主にロビー・クリーガーが書くポップな曲や、ジムやレイのデリケートで詩的な曲が入っていることが多かった。(3枚目には“セレブレーション・オブ・ザ・リザード”の断片のみが残っている。
ドアーズは、ポップバンドでもあった。ロビーが書いた「タッチ・三―」の映像のジム・モリソンと、ホーンや弦楽器が入った演奏はいま聞いても素晴らしい。
Touch Me
ジムの生前に出たドアーズの最後の2枚は、複雑な構成を持った神話的な曲は入らずに、ブルースっぽい感覚のある曲が多くなっている。
特に6枚目の「L.A.ウーマン」は最初の4枚とは音の感触がかなり違う。ヨーロッパ文学の影響を受けた神話的な時代が終わり、ブルースを切り口に次のステップに進もうとしていたようにも聞こえる。
L.A.Woman
ドアーズは聞き手によって、乱暴で繊細なバンド、現代の神話を歌う文学的なバンド、セクシーなポップバンド、ドラッグまみれのサイケデリックバンドなどいろいろに聞こえるだろうが、ブルースバンドとしてのドアーズは特に素晴らしいと思う。
ライブで演奏していた “ブラック・トレイン・ソング” は、もしジムが生きていたら次のアルバムの中心になっていたんじゃないだろうか。
曲は“ミステリー・トレイン”、“アウェイ・トゥ・インディア”、“クロスロード”と続く10分以上のブルース・メドレーで、彼女を追って列車に乗り、長い旅の終わりに終着駅へたどり着くような流れになっていて、神話的な言葉ではなく簡単な言葉を使ってドアーズの良さを表している。
不吉な長い列車が
俺の彼女を連れて行った
彼女はもう二度と戻らない
今朝、目が覚めたら
俺の進むべき道が見えた
心配はいらないぜ
すべてはうまくいく
今朝、目が覚めたら
俺の心は空っぽだった
Black Train Song
もう1曲、ずっと後に出たボックスセットに入っていたジムのピアノの弾き語り “オレンジ・カウンティ・スウィート”も入っていたかもしれない。
パリでジムが死んだときも一緒にいて、その3年後に亡くなったパネラ・カーソンへ捧げた自伝的でシンプルな曲。
もしもこの曲がジムの最後の曲だったとしたら、彼のストーリーもまた神話のようだ。
かつて俺は美しい人を知っていた
彼女はぶっ飛んでいたが
そんな彼女を愛していた
俺たちには、恋人が持つすべてがあった
そのすべてを俺たちは吹き飛ばしたが
悲しくはない
いま俺たちは谷に住み、農場で働いている
山の頂上まで登り切った
そして全てはすばらしい
俺はそこにいるし
お前もまだそこにいる
そして俺たちは
まだそこら辺にいるのさ
Orange County Suite