切羽詰まった状況に追い込まれたとき、視界がぎゅっと狭くなり、呼吸が浅くなるのを感じることがあります。
目の前でトラブルが発生し、焦れば焦るほど、思考は同じ場所をぐるぐると回り始めます。そんなとき、わたしが最も信頼している解決策は、一枚の紙とペンを取り出すことです。
「紙に書いたくらいで、この最悪な状況が変わるわけないじゃないか」
以前のわたしも、そう思って鼻で笑っていました。そんなアナログで地味な方法が、複雑な問題の解決に役立つなんて信じられなかったからです。
でも、これは決して根性論などではありません。脳の仕組みをうまく利用した、とても効率的な方法です。
思考停止の正体と固定観念
大きなトラブルに直面したとき、人間の脳はどうしても思考停止に陥りやすい性質を持っています。
わたし自身、かつては何か問題が起きるたびに「もうこれしかない」「これがダメなら人生終わりだ」という極端な思い込みに支配されてきました。
正直に振り返ると、その時の頭の中は「自分は間違っていない」「周りが悪いんだ」という、自分を守るための言い訳でパンパンになっています。
この「自分を正当化したい」という気持ちこそが、冷静な判断を邪魔する一番の敵です。
自分を守ることに必死になっている間は、事態をプラスに変えるような新しいアイデアなんて、逆立ちしても出てきません。
主観を客観に変える「外化」の力
なぜ頭の中だけで考えていてはダメなのか。それは、頭の中にある情報はすべて「主観」という色のついたフィルターを通した、偏った断片でしかないからです。
焦りや恐怖と混ざり合った思考は、問題を実際よりも何倍も大きく、恐ろしいものに見せかけてしまいます。
そこで、紙に書き出す「外化(がいか)」という作業が効いてきます。
心理学者のジェームズ・ペネベーカー博士の研究によれば、自分の感情や思考を書き出すことで、脳の作業領域(ワーキングメモリ)が解放され、客観的な視点を取り戻せることがわかっています(出典:James W. Pennebaker, "Opening Up by Writing It Down")。
「書くだけで脳のスペースが空くなんて、なんだか不思議な話だな」と感じるかもしれませんが、実際にやってみると驚くほど効果があります。
紙に書き出すことで、それまで自分を苦しめていたドロドロとした悩みは、ただの「インクで書かれた文字」に変わります。
情報を自分の外側に追い出すことで、ようやく一歩引いた場所から「なんだ、こういうことか」と状況を眺められるようになります。これが、落ち着きを取り戻すための第一歩です。
「他の選択肢」を強制的に生み出す
紙を前にしたわたしが最初に行うのは、今の現状をありのままに書き殴ることです。
その後、一呼吸置いてから、紙の中央にこう書き込みます。「他に方法はないか?」「違う選択肢はないか?」と。
どれほど絶望的に見える状況でも、絶対と言っていいほど「違う道」は存在します。
ただ、思考が止まっているときは、その選択肢が自分のプライドを少し傷つけるものだったり、手間がかかるものだったりするために、無意識に脳が「見なかったこと」にしているだけなのです。
無理にでも書き出す作業を進めていくと、頭の中だけでは「そんなの無理だ」と切り捨てていた案が、意外と現実味を帯びて浮かんできます。
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A案がダメなら、一旦プライドを捨てて白紙に戻し、C案のいいところを拾ってみる。
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自分のミスを素直に認めて、すぐに謝って周りの力を借りる。
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期限を延ばしてもらうために、今できる精一杯の代替案を持って交渉に行く。
落ち着きこそが最高の武器
大事なことは、目の前にある問題を最短ルートで解決することです。自分を慰めることでも、誰かのせいにすることでもありません。
そして、問題を解決するためには、何よりも自分自身が「落ち着いていること」が絶対条件になります。
パニックになったままの判断は、たいてい火に油を注ぐような結果を招きます。
紙に書くという物理的な動作は、空回りする脳を落ち着かせ、強制的に「今、ここ」に意識を戻してくれます。
ペンを動かしているうちに、バクバクしていた心臓の音が静まり、冷静に状況を分析できるようになります。
結論として
トラブルは避けられないものですが、その後の対応をどうするかは、いつだって自分で選べます。
頭の中という狭い場所だけで解決しようとせず、まずは紙にすべてを吐き出すこと。そこで「自分は間違っていない」という窮屈な殻を脱ぎ捨てて、広い視点を持つこと。
そうすれば、閉ざされていたと思っていた壁のすぐ横に、新しい出口が必ず見つかります。
「書いても何も変わらないよ」と諦めてしまうのか、それともペンを握って新しい道を探すのか。これからも、わたしは行き詰まったときこそ紙とペンを相棒にして、自分の思考を自由に解き放っていこうと考えています。
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