★桜の記憶 Ⅲ | エゴイストな好奇心

エゴイストな好奇心

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はるが[たそがれ]に来て
一ヶ月が過ぎた。

翆の家庭教師のお陰で
はるは、年相応の学力を
身につけ始めていた。

心の方も少しずつではあるが
開かれていった。
時おり、勉強中の部屋から
翆とはるの笑い声が聞こえる。

食事時などは、茜と小さなけんか
もするようになった。

「茜ちゃん、またおかずとった!」

「はるは、太りやすい体質だから
食べ過ぎはだーめ。」

はるは、茜を”ちゃん”付けで呼ぶ。
茜がそう呼ぶように言ったのだ。
純と翆、そして和哉は”さん”付けで
呼んだ。

「大丈夫よ。はるちゃん、おかわり
いっぱいあるから」

いつからか、ここには家庭が
出来はじめていた。

翆は、毎日ここに通い出来る限り
はるに勉強を教えた。
茜も時間が出来るとはるの相手をして
ゲームをしたり、翆が買ってきた
洋服でファッションショーをしたり
していた。

和哉は、はるの火傷の痕を
看に週一回はマンションに来ていた。

「ねえ、かずくん。はるちゃんの
火傷…もっと綺麗にならないの?」

翆が聞いた。

「ああ、残念だがこの子の祖父母の
金じゃここまでが限界だ」

「治療したの、あの人でしょ?
平成のブラックジャックって
あだ名の人。」

「彼は、医師免許のちゃんと
ある立派な医者だ。ただ、まともな
病院に行けない患者をメインに相手
しているだけに報酬額がバカ高い
だけだ」

「ま、今は大人になってからでも
綺麗に出来るから…はるちゃんが
稼げるようになったら…」

翆は、言って虚しくなった。

「ああ、はるは稼ぐよ。相当な」

和哉は、自信満々に答えた。

「本当に、かずくんって昔から
嫌な感じだわ…」

翆と和哉の関係は、いとこ同士だ。
和哉の父親の弟が翆の父親で
大手企業の重役をしている。
和哉の父親より早く結婚した翆の
父親の元に産まれた彼女は、和哉より
少し歳上だった。
有名国立大に入った実力を買われ
和哉の父親から高校生の息子の
家庭教師をしてほしいと頼まれたのが
和哉との出会いだった。

和哉は、愛人の子供として扱われ
神埼家で孤独な生活を送っていた。

和哉の実の母親と父親は、本当に
愛し合っており結婚するつもりで
いたが、和哉の母親の実家の会社が
倒産し一度は結ばれた婚約も白紙と
なってしまった。

その時、お腹に和哉が居たのだが
和哉の父親は、別の資産家の女性と
結婚してしまい。
和哉は、母親とその家族と夜逃げ
するように引っ越しをした。

しかし、しばらくして結婚相手に
子供が出来ないことが発覚し、
和哉の祖父が父親に和哉を引き取る
ように命じた。

多額の金と引き換えに子供を奪われた
実の母親は、和哉が引き取られた翌年
自殺をした。

引き取られた和哉に、
父親も義理の母親も
冷たかった。

そんな過去が和哉を孤独に
していた。
翆が勉強を教えていると確かに
すごいスピードで吸収し、みるみる
成績も上がっていったが、表情は
能面のようだった。

その日、翆は大学で彼氏と大喧嘩を
して気分がモヤモヤしていた。
なのに、和哉は相変わらずの
無表情だったので翆は、和哉に
八つ当たりをすることにした。

「かずくん、今日は違う勉強
しようよ…」

そう言って、和哉をベッドに押し倒した。
さすがに、和哉の表情は曇った。
有無を言わさず翆は唇を奪う。
和哉は、必死に抵抗をしたが翆は、
素早く和哉の衣服を脱がした。

事が終わった瞬間、和哉は翆に言った。

「ケダモノ…」

「かずくんのあの言葉がなかったら
今の私はないかもね…」

結婚した旦那が、男性しか愛せない
その事実があってなお家族や
世間のために別れる事が出来ない。
でも、自分の中のオンナを消すことは
出来ない。
そう思う度に、和哉の言葉が
頭の中でこだましていた。

本当にケダモノになれたら…

そんなとき、和哉から[たそがれ]に
誘われたのだった。
旦那は、将来警察の上層部に勤めること
になる人材。
その妻が身体を売る。
正に、ケダモノになれる。
そう思った翆だった。

[たそがれ]の女は皆そうだ。
明るい茜も外交官の父親と中国人の
母親との間に産まれた。
母親側の一族に異国の人種と言われ
日本に帰国することになった父親と
二人で日本に帰ってきた。
しかし、茜は父親の援助を全て断り
ここで稼ぎながら経営学を
学んでいた。

「卒業したら、中国に行って向こうで
起業して、母さんを探すの…」

茜は、そう言って[たそがれ]に登録
した。

[たそがれ]の秘書派遣部門は、
和哉にベタぼれのやり手女社長が
代行で経営を手伝っている。
法外な手数料を和哉から受け取って
きっちりやってくれているが、
自分の母親を和哉の病院に入院させて
いるので結果、その金は和哉に戻って
きていた。

「はるの祖父母って
亡くなったんだろ?その
保険金とかはないの?」

純が聞く。

「知ってのとおり、はるは存在しない
子供だ。例え保険金があっても
受取人である子供が死んで、その子供に
子供が居なければ…まあ、親戚連中が
山分けでもしたろうな。」

実際、そういう事だったらしい。
はるの父親の金への執着は
親戚の隔世遺伝だと和哉は思った。

診察の終わったはるは、
勉強しようと翆の手をひいて
奥の部屋を目指した。

「すっかり翆になついたみたいだな」

和哉が言うと

「やっぱり、母親が恋しいんですかね」

純が答えた。

「いや、はるの母親は翆とは
真逆のタイプだぞ」

そういって、和哉は純に一枚の写真を
渡した。

「はるに残された遺品はそれだけだ」

写真に写っているはるの母親、
すみれは清楚で優しい笑顔の
弱々しい感じの女性だった。
確かに、肉厚で豊満な翆とは真逆の
タイプ。

「目が…はるによく似てますね」

芯の強そうな目だった。

…つづく